亜鉛釉(あえんゆう)
 長石、珪石を基本とする一般的な釉薬に融剤として亜鉛を用いた釉薬。通常は媒熔剤として石灰を併用して使用する。この釉は通常の高火度釉(石灰釉やタルク釉、一般的な灰釉、通常はSK8~10程度)と比べて焼成温度を低くする事が出来る。(SK6~8)また、スピネル顔料に対して安定性が良いので思い通りの色合の色釉が出来るのが特徴である。ただし、焼成温度が低い分、流れやすいので注意が必要である。また、焼成温度が低い分、素地土との伸縮率に差が出てくるので、貫入が入りやすくなる傾向がある。
 色釉と流れやすい釉癖を生かして、三彩釉等に用いられたりもする。
 
亜鉛結晶釉(あえんけっしょうゆう)
 通常の亜鉛釉を基準として、亜鉛の量を多くし、アルカリ、珪酸分を少なくした状態にすると朝顔の花のような亜鉛結晶釉ができる。これに着色剤を加えると色結晶ができる。例えば、鉄分を少量添加すると黄色、銅を添加すると淡緑、コバルトを添加すると紺色になる。添加する金属元素の種類によって結晶と地肌の色が同じになったり全く違ったりする。例えばニッケルを添加した時は、地肌が茶色に対し、結晶は美しいブルーになる。
 この釉は、亜鉛釉と同じく、非常に流れやすいので注意が必要である。しかし、あまり低い温度だと結晶が大きくならない。大きな結晶を析出させるには、焼成方法に特徴がある。
 焼成は、OFでなければならない。一度、目安として1300℃(SK10)まで温度を上げて、結晶の核を少なくしておいてから、冷却し1150℃付近の温度を2~3時間保持した後放冷すれば結晶が大きく出来やすい。保持の時間を長くすると、その分結晶の大きさも大きくすることが出来る。この焼成方法は、他の結晶釉も同様である。素地土は、比較的粘土質又は磁器質の方が結晶が出やすいので、良い結果が現れる。
 結晶の核を熔けにくい物質で作っておいて、釉薬に極微量加える方法もある。こちらの方が、結晶の核が最初から出来ているので、安定した結晶釉を作ることが出来る。結晶の核は、亜鉛結晶釉の場合には、珪酸亜鉛、チタン等を用いる。
 珪酸亜鉛は、亜鉛華2モル、珪石1モルをポットミルで湿式粉砕し、1200~1250℃2時間程度で簡単に合成できる。
 
亜鉛斑紋釉(あえんはんもんゆう)
 亜鉛結晶釉をRF焼成すると、大きな乳濁斑点が一面に現れる。これを斑紋釉という。この釉は、分相効果によるものと考えられている。
 焼成はSK9、RFである。
 
亜鉛マット釉(あえんまっとゆう)
 この釉は、アルミナマット釉の1種で、通常の亜鉛釉の珪石分を減らし、アルミナ分を多くすると、アノルサイトの結晶によるマット釉になる。この釉は、通常の亜鉛釉と同じSK6a(1200℃)前後で焼成できるのが特徴である。しかし釉の安定性が悪く、温度を高くすると、流れやすくなり、透明釉になったり、結晶釉になる恐れがあるので注意が必要である。
 この釉は、スピネル顔料を入れて色マット釉としても利用出来る。この場合は、結晶質のマット調になる場合もあって、変化が面白い釉薬になる。
 焼成温度は、SK6a前後、OFでもRFでもどちらでも良いし、素地土も種類を選ばない。(アルミナマット釉参照
 
亜鉛乳濁釉(あえんにゅうだくゆう)
 亜鉛の分相作用を用いて作った乳濁釉である。通常の亜鉛釉よりも高温で用いられる。亜鉛を使用すると、リン酸、チタン、バナジン酸などの乳濁剤を使用しなくても乳濁釉となる。亜鉛釉は分相の組成範囲が広いので、安定した乳濁釉を作ることが出来る。しかし、ジルコン乳濁釉が普及した今日では、特殊な色釉として使われるだけで、一般にはあまり使用されない。
 骨灰、酸化チタンを3%添加すれば乳濁が濃くなる。焼成はSK8~9、OFである。
 
赤伊羅保釉(あかいらぼゆう)
 赤伊羅保釉は、伊羅保釉の1種で、比較的新しく出来た釉薬のひとつである。鉄赤釉と同じ原理で通常の伊羅保釉に燐酸アルミが加われば出来る。しかし、鉄赤釉のように明るい赤色ではなくて、やや渋みのある赤色になる。この場合の燐酸アルミの量は3~5%でじゅうぶんであり、7%になると色調がくらくなる。燐酸アルミの替わりに骨灰を入れると、赤黄伊羅保になる。通常、伊羅保釉の鉄分は、5%程度で黄色、10%で赤色になる。15%では黒みを増す。また、燐酸にジルコンを併用した場合は、より赤みが安定する効果がある。この場合のジルコンの添加量は、3~5%である。(伊羅保釉黄伊羅保釉参照)
 
アベンチュリン釉
 砂金石釉のこと。(飴釉(あめゆう)
 鉄釉の一種で、透明釉に酸化鉄が5~10%入った伝統的な釉薬のひとつである。にぶい黄色から赤褐色(俗に言う飴色)の透明光沢釉である。OFでもRFでも良いが、OFの場合は鉄分が少ないと黄色っぽい色合になり、多いと明るい飴色になる。RFの場合は、鉄分が少ないと緑っぽい色合で、鉄分が多いと黒ずんだ飴色になる。焼成温度はSK8~9である。素地土は、ほとんどのものが使えるが、粗い土だとムラになる場合もあるが、逆に味わいとして使用することもある。粘土質の素地土だと、平淡な感じに仕上がる。
 マグネシア分が少し含まれると(通常の土灰を使用する)飴の色が深くなる。マンガンを添加しても色調は濃くなる。天目釉との違いは、飴釉は比較的石灰分が多く入っていて、天目釉はこれが少ない。
 
アルカリ石灰釉
 アルカリ珪酸塩釉に石灰分を含む釉。普通ガラスの組成に類似しているが、失透を起さないようにアルミナ分が添加されている。特殊な釉薬で、通常はあまり使用されない。
 
アルカリ釉
 アルカリ物質を使った低火度釉である。。珪酸にソーダ(ナトリウム)、カリ等を融剤として使用するが、これらは可溶性であるため、通常はフリットにして使用する。ソーダ釉ともいう。アルカリ釉に銅化合物が入るとトルコ青釉になり、アルカリが増加するほど色調は濃くなる。通常の釉では銅は緑色になるがアルカリ分を含んでいると青くなる。アルカリ釉にマンガン化合物が入ると紫色になる。これも通常の釉ではマンガンは褐色になる。アルカリ釉にコバルト化合物が入ると輝いた濃厚な青色を呈する。アルカリ硼酸釉に酸化鉄が入ると赤葡萄色になる。アルカリ釉をかたくするには、珪石またはタルクを入れると良い。フリットを使用しない場合は、非水溶性で強力なアルカリ物質である炭酸リチウムを使う場合が多い。
 
アルミナマット釉
 カオリン質マット釉とも言う。通常の灰釉に、アルミナ分を多くして珪酸分を少なくした、アノルサイト又はセルジアン結晶によるマット釉である。この釉は、比較的安定性がいいが、釉面が少し荒くなる欠点がある。また、より釉を安定させるために、亜鉛華、炭酸バリウム等を入れて調整することもある。この場合、亜鉛華を入れたものを亜鉛マット釉と言い、炭酸バリウムの入ったものをバリウムマット釉と言う。その他のものでは、伊羅保釉、蕎麦釉がこの部類である。
 焼成は、RFでもOFでもよい。温度はSK8~9である。また、土灰を使用した釉は、土灰に含まれる鉄分の影響でOFで黄色系統、RFだと緑色系統になる。釉は薄くても良いし、厚がけにしたら面白い効果がある。(亜鉛マット釉柞灰釉(いすはいゆう)
 通常の石灰系灰釉の一種であるが、柞灰は石灰分を多く含み、鉄分がきわめて少なく、燐酸分が多いために、有田等の磁器釉とか白いやきものに用いる白色透明釉に用いられる。焼くと透明性と白色性がたかく、表面にごく小さな柚子肌上の凹凸を作るために上絵付の絵具の付着も良い。しかし、天然の柞灰は高価であるために、合成柞灰も作られている。
 焼成は、磁器の場合はSK10以上である。鉄分がほとんどないために、OFでもRFでも可能である。磁器の場合はRFの方が白さが増す。
 
伊羅保釉(いらぼゆう)
 伊羅保釉は、古くから高麗茶碗にある釉薬で、釉肌がいらいらしているから名付けられた。伊羅保茶碗は種類が多く、千種、片身替わり、釘彫、黄伊羅保、黒伊羅保などの区分がある。また、後年対馬窯、釜山窯でも焼かれているし、中国製、南蛮製も混じっていると言われる。茶人の中では、井戸茶碗等と同じく、愛玩されている茶碗のひとつである。
 伊羅保釉と呼ぶものは素地土は荒い方が発色がよく、釉薬の薄いところは剥げて褐色になり、厚いところは玉状になったり、条痕を生じたりする。
 釉質は石灰分の多いアルミナマット釉の部類に入り、釉中の鉄分が細かい結晶となり、マット調を表す。昔は木灰に黄土や来待石を調合して作った。
 伊羅保釉は、通常の土灰釉の欠点(流れ、釉めくれ、貫入など)が生ぜず、しかも汚れにくく、硬いというすぐれた性質をもっている。
 普通、塩基剤は石灰を使うが、ストロンチウムやバリウムと置き換えて行くと色合が明るい橙味を帯びる傾向がある。また、銅の緑、コバルトの紺青、ニッケルの黄茶、紫などの伊羅保釉もできる。鉄分の含有量は、外割りで5~6%である。焼成はSK8~9で通常はOFであるが、RFでも問題なく焼ける。RFの方が色が濃くなる傾向がある。
 伊羅保釉は石灰の多い釉なので素地成分と強く反応するため、素地の選択が大切で、磁器土など駄目で、信楽土が最もよい結果となる。
 伊羅保釉は、釉の変化を出すために、かなり薄がけにする。通常は、比重30~35程度で使用する。濃くなると、伊羅保特有の斑模様が出にくくなる。
 ストロンチウムを入れると条痕模様を美しくし、鉄や銅の呈色を鮮明にする
 蛍石3~5%添加すると、鉄の呈色を鮮明にし、焦げの調子を良くする
 骨灰2~3%添加すると、赤伊羅保釉ができる
黄伊羅保釉赤伊羅保釉も参照のこと)
 
卯の斑釉(うのふゆう)
 兎の斑釉、鵜の糞、糠白釉ともいい、瀬戸系の陶業で寛永(1624~44)頃から始まったと言われている。斑唐津釉と同系統のものであるが、焼成温度がやや高く、斑唐津が柔らかい感じに対して、すっきりとした釉薬である。
 藁灰釉、白萩釉と同じく、珪酸質マット釉の部類に入るが、白萩釉よりも珪酸分が多い。特徴としては、珪酸質を取るのに、藁灰を使わずにモミ灰を使う点で、これにより、熔けきらない珪酸分が、気泡として釉中に残る。また、灰は微粉砕しないで、真っ白に焼かないで黒いままで使用すると、残った不完全な炭が比較的高温の釉が熔け始めてから燃えるので、その時に出る炭酸ガスで気泡が一層大きくなる。
 この釉は、珪酸物質が熔けきらずに白い斑点として残ったために、これを鵜の斑と称した。斑燐酸分を入れると、乳濁しやすくなる。なおこの釉は、亜鉛や錫、チタンなど乳濁剤を使用しないので、均一の乳白製品にならないで、ムラが出来やすいが、逆にこれが味になる。
 焼成はSK8~9で、OFでもRFでもよい。素地土は、粗い土がよく、石ハゼ等の水簸していない土が面白い。特に、赤土系統のものは、面白い発色が出来る。

オパールラスター釉
 高火度ラスター釉の1種である。光線の角度により、赤、黄、青の色が現れる、いわゆる真珠の七色のラスター光沢であり、ツヤも真珠と同様な鈍い半ツヤ状である。
 この釉は、鉛と亜鉛の組み合わせにより得られるものである。高火度で焼くために鉛分が入っていても比較的釉の安定がよく、安全な釉薬である。バナジウム、チタンが加わると、ラスターがよりはっきりとする。バナジウムが入ると、星型の結晶が現れる場合がある。この結晶も七色に変化する。流れにくいことも特徴の一つである。
 焼成は、SK9、OFである。釉はやや厚掛けにした方が、ラスターの効果が大きい。素地土はよく焼き締る粘土質のものか磁器土が有効である。
 
御深井釉(おふけゆう)
 尾張徳川家の御用窯で作られた焼きものに掛けられていた釉薬で、名古屋城外郎御深井丸から来ている。藩主義直が地域産業の保護政策から瀬戸工の分散を惜しみ、1610年美濃国にいた籐四郎14世の孫仁兵衛と唐三郎を召還し、瀬戸赤津村に住まわせて始めたものである。当初は古瀬戸風の黒褐色の釉であったが、中頃からは現在の御深井釉の色合になった。
 この釉は、流れやすい灰釉を厚がけにして還元焼成したもので、土灰の中の鉄分が緑色に発色することから、御深井青磁とも呼ばれている。貫入釉と同じように、かなりの貫入が入るのが特徴である。また、下絵に呉須で絵を描いて、これが流れるように焼く、安南風の焼き方も特徴の一つである。
 本来の御深井釉は、祖母懐の土を使用し、榎灰とひろみ石とで作ったが、現在は両方とも入手が難しい。
 焼成は、RF、SK9~10である。釉薬は、2度掛けまたは、2度めを刷毛塗りする。流れやすいので、2度めは下の方は釉をかけないとかの注意が必要である。素地土は、比較的粘土質のものが適している。あまり粗い土だと水漏れの危険がある。
 
織部釉(おりべゆう)
織部釉は、もともとは、古田織部の意匠により、美濃の窯で焼かれた焼物の総称として使われていて、安土・桃山時代の瀬戸焼きの主流となるものである。黒織部(瀬戸黒)、黄織部(黄瀬戸)、柿織部(柿釉)、赤織部、絵織部(鉄絵)、志野織部(志野釉)、鳴海織部、青織部(織部釉)、伊奈織部、唐津織部などの釉薬や絵の具を使用したものである。このうち、青織部を今日、織部釉と呼んでいる。着色剤としては、酸化銅の他に、銅花、銅へげ、胆礬、真鍮粉、緑青なども使われる。最初の頃は、銅が貴重なために、部分的な使用であったが、だんだんと銅分である緑が多くなり、総織部釉(全体に織部釉がかかったもの)が出来るようになった。
 織部釉は、石灰釉、石灰マグネシア釉(灰釉)の透明領域に酸化銅を3~5%添加した釉であり、酸化銅が透明釉に融けて一部は釉薬の成分と化合し、残りの銅分は細かい粒となって釉中に浮遊している状態により得られる色合である。
 酸化銅よりも炭酸銅の方が釉薬の中で銅分が分散しやすいので、炭酸胴の方が色合が美しいと言われているが、この場合は、モル比の関係で酸化銅よりも60%程度余計に入れなければいけない。釉は、やや厚掛けにしなければ緑が薄くなってしまう。またこの釉は流れ易い釉なので、注意が必要である。焼成はSK8以下、OFが絶対であるが、焼成方法として、還元焼成から酸化焼成に戻す焼き方と酸化焼成から1200度を越えた時点で還元焼成する方法もある。これは、銅分が発色してから還元にすると、素地と釉が熔化して深みを増すからである。
 素地土は、焼き締らない粗めの土が適している。五斗蒔土とか古信楽を使う場合が多い。焼き締る土を使った場合は、泡が出ることがある。
 なお、この釉は濃くかかった場所に油膜が付いたようなテカリが出来る場合があるが、この時は希硫酸、希塩酸、トチ渋(クヌギの実のヘタの部分を水に浸けて作った汁)等に浸けて置くと取れる。
 マグネシアが多いと、深い緑色になる。
 炭酸バリウムを入れると青みを帯びた色合になる。
 骨灰を微量(2%)入れると、銅分の結晶を押さえて、美しい色合になる。
 酸化チタンを2%入れると、黄色味を帯びた緑になる。多く入れると乳濁する。
 ジルコンを微量(2%)入れると、銅分の結晶を押さえて美しい色合になる。逆に多く入れると濁った感じの色合になる。