紐作りについて

 陶芸教室に行くと、大体最初に教わるのが紐作りと玉作りです。しかし、初心者の場合はなかなか手が思うように動かないために、割と苦労したりします。
ここでは、紐作りの方法及びちょっとしたコツを書いていきたいと思います。
 紐造りの特徴は、初心者でも小さな作品から比較的大きな作品まで自由な形と発想で作れるということです。ロクロ成形で大物を作ろうとすると、かなりの練習が必要となりますが、紐作りで作ると、ロクロほどの練習量を必要としません。また、円形以外の複雑な形のものの成形においては、小物の場合は玉造りで作れますが、かなりの大きさになると紐作り以外では鋳込み成形以外には出来ませんので、ある意味紐作りの独擅場といえます。
逆にいうと、ご飯茶碗や小鉢、湯飲みのように比較的小さな作品を作るためにわざわざ紐作りで作る必要はありません。玉作りで作った方がはるかに簡単に早く作ることが出来ます。したがって、用途と形に応じて作る方法を考慮し、もっとも適している方法をとる必要があります。

1.紐作りの概略

 紐作とは、基本的には紐を作って、下から順番にくっつけて高くしていく方法です。この方法は縄文式土器の時代から延々と作られてきた技法です。
 現代では、紐作りには大きく分けて2種類の方法があります。ひとつは、作品の肉厚で細く長く紐を作り、紐を親指でつぶしながら紐を取り付けていく方法で、大きさにもよりますが一度に2、3段積み上げていくことが出来ます。この方法は、積み上げる時に外側の指と内側の指で捻りながら積み上げていくのが特徴で、捻って積み上げるために、ねじり積み式、ねじ上げ式、または巻き上げ式と呼んでいます。ここでは、ねじ上げ式と表現します。
 もうひとつは比較的太い紐を造り、この紐を作品の輪形のドーナツ状にして、そのままの状態で下の紐の部分に重ねて置いて、手びねりのように手で伸ばしていく方法で、この方法を一般には輪積み式と呼んでいます。

2.ねじ上げ式と輪積み式
    ね じ 上 げ 式     輪 積 み 式


 ねじ上げ式と輪積み式の違いをもう少し詳しく書いておきます。

ねじ上げ式と輪積み式の利点と欠点
  利   点 欠   点
ねじ上げ式 均一な厚さに作りやすい

短時間で作ることが出来る

接着が強固である

小さくて単純な形のものが簡単に出来る
接合面から亀裂や歪みが起こりやすくなる

不必要なねじれが起きる

ねじて接着するのに少し練習が必要

修正段階で、ロクロ成形が出来にくい
輪積み式 接着部分を少なく作ることが出来る

ヘンなねじれが起きない

後でロクロ成形で形を整えられる

大物作品を作りやすい
接着部が弱くなる

作るのに時間がかかる

手にかなりの力を必要とする

厚さが均一になりにくい


 ねじ上げ式と輪積み式とでは、上記表のような違いがあります。詳しく書くと、ねじ上げ式の利点は比較的簡単に紐を積み上げることが出来る点、紐の太さがそのまま作品の肉厚になるので、均一な厚さに作りやすい点、短時間で作ることが出来る点等があります。逆に欠点は、紐の接合面が多くなるために、接合面から亀裂や歪みが起こりやすくなる点、接合部分をねじ上げるために、不必要なねじれが起きる点、紐を均等な太さにするのとねじて接着するのに少し練習が必要な点等の欠点があります。
 輪積み式の利点は、太い紐を薄く伸ばして作るために、接合部分を少なく作ることが出来る点、紐を捻らないでそのまま接合するために、ヘンなねじれが起きない点、複雑な形も比較的容易に作れる点、作った後でロクロ成形で形を整えることが出来る点等があります。欠点は接合部が弱くなる点、作るのに時間がかかる点、手にかなりの力を必要とする点、指先だけで厚さを決めるために厚さが均一になりにくい点等があります。

 作る際の紐の太さの違いから、厚さ比較的小さくて円形とか方形のように単純な形のものを一気に作り上げてしまおうとする場合や形を変形させずにそのまま利用する場合等においては、ねじ上げ式が早くて綺麗に作ることが出来ます。例えば、ねじ上げ式の代表は花入れや水差し等が上げられます

 逆に、輪積み式は、太い紐で作るので大物や複雑なものを何日もかけて作るような場合、後から形を変形させる場合に向いています。もちろん、ねじ上げ式で何日もかけて作る場合も多々あります。この場合は、ねじ上げ式でも紐の太さをあまり細くしないで太い状態でねじ上げていきます。
 また、紐作りで作っておいて、ロクロを使って成形しなおす場合には、輪積み方式が適しています。ねじ上げ式で作った場合は、どうしても紐を潰す時にねじれを作ってしまうために、これがロクロ成形の時にシワになったり抵抗になったりして回転に対して悪影響を与えるからです。

 もちろん、この両方を組み合わせて作る方法もありますし、複雑な形のものを作ろうとすると、場所々々において作り方を変えていく必要がでてきます。


2.紐造りの造り方

 紐造りの作り方は、順序等についてはねじ上げでも輪積み式でもそう大きな違いはありません。ただし、細部になるとかなり違ってきます。ここでは、それぞれの方法を簡単に書いていきたいと思います。

1.ねじ上げ式(巻き上げ式)

a)底板を作る。
 最初に底板を作ります。底板は、必ず必要というものではありません。水漏れの必要ない場合は省略できます。ロクロの上で丸めた粘土を叩いて伸ばすのがもっとも簡単に作る方法ですが、厚さをきちっとしたい場合には、板の上で作ったタタラをロクロの上に載せてもかまいません。
 もしも高台の付いたものにしたい場合には、高台の厚さプラス底の厚さ分の円盤を作って、後から高台部分を削り取ります。高台を削る手間が面倒な場合には、高台を彫り込んだ石膏型を使ったり、木枠で作ったり、粘土で高台の雌型を作ってこれにラップを置いてくっつかなくする方法もあるし、発砲スチロールや段ボールでで型を作っても良いです。この中では、発砲スチロールで型を作るのが最近はよく用いられています。発砲スチロールを工夫すれば、どのような形の底の形状でも可能です。例えば、卵形や球形も可能になります。
 発砲ストロールを使うのは、主に球形や弓形、あるいは空飛ぶ円盤のように何カ所かが丸くなった底や変形した底を作る場合が多いです。最近、底が平らになっていない壺とか花入れ、オブジェがよくありますよね。あれです。あれは、このように、底を作っているんですね。

b)底板を適当な大きさに切る。
 次に、底板を適当な大きさに切ります。ロクロを回しながら針等でしるしをつけて、これに沿って切れば円形のものが出来ます。もし円形以外の形、多角形等にしたい場合は、型紙を作ってそれに合わせて切ります。とにかくロクロの上で叩いた場合には、端の方が薄くなっているので、必ず切って使うことが必要になります。切った外側の土は、先に取り去っておいても良いですし、紐を立ち上げてから切る方法もあります。

c)紐を伸ばす。
 いよいよ紐を作りますが、紐は両手をこすり合わせながら伸ばす方法と板を使って転がして伸ばす方法があります。初心者は手で伸ばす方が感覚的によく分かると思います。伸ばし方については、こちらのコツのページをご覧下さい。
 紐を伸ばす時は、あまり力を入れないようにします。力を入れると紐が潰れて偏平になったり、均等な厚さにならなくなったりする。軽く中心から外へ外へと伸ばしていくことである。

d)紐を均一に細くする。
 紐をどんどんと伸ばしていき、厚さが8ミリ程度になるまで伸ばします。厚さは、かなり重要になります。すなわち、紐の厚さが作品の肉厚になるからです。
 紐は、長くなりすぎたら中央から切って伸ばせば良いです。あまり長くしすぎると伸ばしにくくなるのと、紐を取り付ける時に邪魔になりますので、あまり長くしない方が楽です。
 この写真では、同じ量の土を伸ばし始めの状態と伸ばした後の状態です。このくらいの長さまで伸ばすことが出来る。

d)紐を取り付けていく。
 紐が出来たら底板に取り付けていきます。最初の一段は紐が三角形になるように潰しながら紐を底板にしっかりと密着させるように押さえつけていきます。この時に、底板に水をつけて湿らせておくと簡単にくっつけることが出来ます。板の表面が硬くなっていたら、傷をつけると良いですが、ほとんど必要ありません。また、ドベを付ける必要は全くありません。逆にドベをつけると柔らかくなりすぎて紐を付けづらくなりますので逆効果です。
 取り付け方については、こちらを見てください。  2段めからは、親指で潰しながら内側に捻るように取り付けていきます。ある程度の高さになるまで広がらないように注意しながら、真っ直ぐに積み上げていきます。

e)紐のつなぎ目をならしていく。
 紐を取り付け終ったら、今度は紐のつなぎ目をならして、綺麗にしていきます。最初は内側を横方向にならしていき、終ったら外側を縦方向に下から上に向かってならしていきます。ただし、仕上がりの段階で内側が完全に見えない場合は、内側をならす必要はありません。
 内側をならす時は、広がらないように外側に手を添えて、逆に外側の場合は内側に手を添えてならします。ならす場合は、かならずしも指でならす必要はありません。ヘラ等を使ってもかまいません。

f)次の紐を置いていく。
 綺麗にならしたら、新しい紐を作って置いていきます。これも同じように人差し指や中指で外側に壁を作って、内側の親指で上から下に押さえながら捻るように積み上げていきます。全く同じ作業の繰り返しになります。捻るので、右手で持っている紐は右回転していくので右手は粘土がねじれないように回転させながら持つことになります。
 置いていった形は、外側はあまり変化しないが、内側から見ると親指で潰した後が斜めに入っているのが分かります。
 つなぎ目は空気が入りやすく、しかも密度が弱くなりやすいので、しっかりと潰すことが割れや変形を防ぐ手段となりますので、根気よくやってください。また、肉厚が違っていると、反りや変形につながるので、極力厚さは均一に仕上げていく必要があります。
 このようにして、真っ直ぐに積み上げていきます。胴がふくらんだ壺やカメのような形を作る場合でも、最初は真っ直ぐに積み上げていきます。最初から胴を膨らませて作ると、上にいくにしたがって、胴がへたって下がってしまうためです。ある程度のところまで積み上げてから形を作るようになります。
 先が開いた鉢状の形を作る場合は、紐の厚さを少しずつ太くする必要があります。これは、最後に広げていくために厚さが薄くなる分を確保しておくためです。

g)形を作る。
 ある程度というか、ほとんど紐が積み上がったら、形を整えたり作ったりする作業になります。胴体が膨らんだものの場合は、この段階で膨らませていきます。手やコテ等の道具を使って膨らませていきます。この時に、いきなり強く押して膨らませるのではなくて、調子と取りながら自然に膨らむように、やさしく膨らませてやります。この時に、無理をしたり、紐がちゃんと密着していないとヒビが入ります。
 均一な胴まわりにする場合は、少しずつロクロを回しながら膨らませます。いきなり一カ所だけ膨らませると、形が変形してしまいます。あくまでも、やさしくやさしく膨らませます。

h)仕上げを行う。
 最後に仕上げを行います。壺やカメの場合は口の部分に輪になった紐を足して形を仕上げます。もちろん、そのままの状態でも良いのですが、一本紐を足すことによって、仕上がりの見た目とか感じが全然違ってきますので、是非おためし下さい。
 上が閉じているような形の場合には、指が入るだけの穴を残して紐作りを行い、最後に煎餅状の粘土で蓋をして周りをならします。煎餅を貼り付ける前には、この部分持ち上げ気味にしておいて、上から押して平らになるようにします。最初から平らに作っておくと、ならしている間に煎餅の部分がへこんでしまいます。
 なお、完全に中が閉じた状態に作る場合は、空気抜きの穴を必ず何処かに開けてください。開けないと、破裂する危険があります。
 空気抜きの穴は、空気が抜ければ良いわけですから、竹ひご程度の穴で十分です。動物などの場合は、目や耳、口等を利用して空気穴を作ると、それっぽくなります。こういうことが出来ない場合は、見えない部分や底に穴を開けます。

i)完成写真
 灯油窯で炭化焼成
 温度1250度



3.輪積み式

 輪積み式の作り方も、基本的な作り方はねじ上げ式とほとんど同じです。違いは、紐を積み上げる時の工程だけです。しかし、この違いによって作る作品の大きさや用途がかなり違ってきます。
 底板を作る箇所までは、全くねじ上げ式と同じ工程なので、ここでは省略することとします。

a)紐を作る
 紐を作る方法は、ねじ上げ式と同じように、板の上で転がしても良いですし、両手でひねりながら伸ばしてもかまいません。紐の太さは均一の方が作りやすいですが、輪積み式の場合は必ずしも均一でなくても出来ます。両手でひねりながら伸ばす方法のコツは、手のひら全体で伸ばすのではなくて、小指の付近の手のひらで伸ばすようにすることです。
 輪積み式の場合には、紐の太さを細くする必要はありません。もちろん細い紐で作ってもかまいませんが、紐が細くなる分接着箇所が多くなります。ただし、厚さを均一に作ることができます。
 紐の太さは、通常は、作ろうとする太さの倍の太さが目安です。もちろん、これ以上でもかまいません。
 紐の長さは、一段づつ積み上げていくので、作るものの外周の長さがあれば良いことになります。実際には、外周よりも長めにしないと足りないので少し長めに作って、余った分を切るようにします。足りない場合は、つないで作っても差し支えありません。

b)紐を置いていく
 紐を置いていきますが、輪積み式の場合は、ドーナツ型のままそのまま置いても問題ありません。しかし、下の部分だけをねじりながら押しつけていった方が密着性がよくなり、後の作業が楽になります。特に、大きなものを作る際は、確実に密着させる意味もあって、ねじりながら積み上げていくと良いと思います。ただし、最後にロクロで成形する場合は、ねじるとロクロのブレが出てしまうので、ねじらないでそのまま接着します。
 紐を置くときの注意点は、一回り置いたら余分な土を切り取りますが、一段下の部分と切り口が重ならないように、ずらしながら積み上げていくことです。どうしても切れ目は弱くなるので、重ねない方がよいということです。
 ここでの注意点は、紐は一段づつ置いていくということです。よくねじ上げ式と輪積み式を混同して、この段階で何段も紐を置く人がいますが、輪積み式ではこのようになった場合の接着方法がありませんので、割れたりヒビが入ったりします。

c)紐を接着する
 輪積み式の場合、もっとも大切なのは、紐を接着させることです。ねじ上げ式の場合は、紐を置く時点で接着されていきますが、輪積み式の場合は、紐を置いてから接着する作業になります。この点も、ねじ上げ式との違いです。
 ねじ上げ式の場合は、内側の紐は横にならしていきましたが、輪積み式の場合は、紐を下方向につぶすようにならしていきます。その後、外側はねじ上げ式と同じように下から上にならします。この場合、外側も上から下にならす方法もあります。

d)紐を潰しながら厚さを整える
 置いていった紐を指でつぶしながら厚さを薄くして引き延ばしていきます。このときに、接着した部分から順に上の方に伸ばし上げていきます。この点が手びねりと全く同じ動作になるわけです。注意点は、どうしても接着面が薄くなりやすいので、接着面については重ねて合わせていく感じで作ります。
 この時に、細い紐を使った場合や大物を作るので、紐の厚さを太いままにしたい場合には、紐を伸ばさずにそのままの状態で終わる場合もあります。ただし、この場合は接着箇所が多くなります。
 均一に伸ばしたら、たたき板で叩いて締めていく場合もあります。大物を作る場合には、特に叩いてしっかりと土を締めておかなければ、後で弱い部分から割れることになります。弱い部分とは、薄くなった部分や接着面、空気が入った部分のことです。
 ただし、後でロクロ成形する場合や、大物ではない(40センチ程度まで)の場合は、叩く必要は、かならずしもありません。

e)形をととのえる
 大物を作る場合には、最初から最終の形になるように作る必要があります。そのためには、頭の中に最終形のイメージが出来ている必要があります。イメージが出来ない場合には、習作を作ったり、ミニチュアを作ったりして、それと照らし合わしながら作ります。ただし、小さいものの場合には出来る形も大きくなって重量がかさむと出来ない場合もあるので、その都度修正が必要になると思います。
 形状上、口の広がったものや胴の丸いものの場合には、下の方の部分がある程度乾燥して簡単に変形できないようになってから上を積んでいきます。この場合、下の部分だけを乾燥させるように上の部分には濡れた紙を貼ったりラップを貼って乾燥させない工夫をしなければいけません。濡れタオルみたいに重量のあるものを置くと、水が染み込んだ部分が重みで剥がれ落ちる場合があるので、なるべく軽いものを使う必要があります。
 最上部を作る時には、逆に下部が乾燥しすぎる場合があるので、今度は下部が乾燥しないようにラップを巻いたりする必要が出てきます。

f)表面を成形する
 ねじ上げ式でも輪積みでも、紐作りの場合は、どうしても表面の凹凸が出来ます。これを修正する場合は、円形で作った場合はロクロの上でロクロを回しながら修正すれば綺麗になります。ただし、ロクロを回すには完全に真円であることが必要になりますので、きちっと作っておきます。
 その他の形状の場合は、ひたすら表面を削ったり磨いたりして、綺麗にしていきます。この時に、金鋸の刃等のギザギザの刃を使い表面を平らにしていきます。

紐作りのコツ