楽茶碗の造り方について

 茶碗、特にここでは手造りによる楽茶碗の造り方を説明する。楽茶碗の場合は、造ることよりも削りに主体を置き、造る際には、1kg程度の土で厚く造る。これを原形と呼び、これを自由に削る方法がとられる。しかし、この方法だと茶碗を造るというよりは削るという作業になってしまい、造る際の味わいというものが出ないことになる。おまけに、土をを削る際に7割まで削り込むために大量の削りかすを発生させる。削りの作業も大変なものになってしまうのである。
 そこで、造る際の雰囲気を生かし、極力削りの土の量を少なくする方法として、玉造りによる作り方を紹介することにする。
 他にも造り方、削り方の方法はいくらでもあるので、ここでは一つの方法だということを認識して欲しい。

1.茶碗を玉造りで造る

 玉造りは、作り方のかなりの部分でロクロ造りと通じるものがある。最初に玉を造る時に球形にすることが必要なこと、ロクロの真ん中に置く事、中央から手を入れて作り始めることなど、ロクロ造りと基本動作は全く同じである。しかし、ロクロが円形しか作れないのに対し、玉造りは形は自由に作ることが出来るし自分の指の感覚だけで薄く伸ばしていくことも可能である。
 作り方は、簡単にいうと粘土を球形にしてそれを伸ばして形を作っていくものである。以下に作り方を紹介する。


a)玉を造り、ロクロに載せる。
  粘土を球形にして、ロクロの中央に載せる。形は出来るだけ球形の方が、後の作業が楽であるが、球にすることに時間を掛けすぎると粘土の表面が乾燥して造りにくくなると同時にヒビが発生してしまうので、球にする作業は出来るだけ手早く行うことが必要である。
 ロクロの中央に置くことも重要なポイントのひとつである。ロクロを素早く回してみて、ぶれているようだと中央にないことなので、回してもぶれないようにすることである。

b)玉の中央から穴を開けていく。
 玉の中央に両手の親指を入れて穴を開けていく。中央は、ロクロを回して印を付けておくと楽である。穴を開けると同時に横に開くようにすると、後の作業が楽になる。
 この時に、粘土の下の部分は広がらないように造ると粘土の量を少なくすることが出来る。下の部分は、仕上げの時に削り取ってしまうのために、無駄になる部分だからである。
 また、この時に口の部分の凹凸が出来ないように造っていくことが必要である。この凹凸は、最後に口縁の部分になるので、この時点で凹凸があると最後の仕上げの時に凹凸を削りとらなければいけなくなるので、粘土の無駄につながるし、作業自体もやりづらくなる。

c)底を造る。
穴を開けていき、高台の高さまできたら、底を造る。横に広げていって、なおかつ底を平らに締めながらならす。このときに茶碗の場合は茶だまりを造る。
 底は、鉢やご飯茶碗の場合は丸く造るし、茶碗や菓子器、皿の場合には平らに造る。この時点で底は全て造ってしまうのがポイントである。後で造る場合に、深いものだと手が入らなくなるので、作業が出来なくなるためである。深いものでなくても作業しづらくなるので、最初に造っておくことである。

d)側面を持ち上げていく。
底が出来たら、側面を持ち上げていく。このときに、下の部分から順番に薄く伸ばしていくことがポイントである。最初に上の土を薄くしてしまったら、下の土が伸ばせなくなって、高さが足りなくなったり重たくなったりするので、出来るだけ下の土から薄く伸ばしていくことである。また、横に広がらないように注意することである。広げるのは簡単に行うことが出来るが広がったものをすぼめていくのは、かなり難しいからである。すぼめた場合でもシワが出来たり厚さが不均一になるので、極力真っ直ぐに立ち上げていくことが重要である。
 上に持ち上げていくのは、指先の感覚だけで厚さを確認していくことになるために、慣れない内は厚さがムラになったり薄くなりすぎて破れたりすることもある。ある程度の練習が必要である。しかし、慣れてくると簡単に真っ直ぐ上げるとこが出来るようになる。

e)仕上げを行う。
 側面が全て持ち上がったら仕上げを行う。ご飯茶碗や鉢の場合には上から広げていって最終の形にする。茶碗の場合には、横から見ながら形を修正して茶碗の形にする。この作業が多分一番時間のかかる作業になる。気に入るまで何度も修正することが必要だし、気に入らなければ潰して作り直すことも必要になる。

f)なめし革で口の仕上げを行う。
 口縁の部分をなめし革で丁寧にならす。口の部分は削りの時には触らないので、この時点で作り上げてしまう。

2.削りを行う

 次に、玉造りで作った茶碗の削りについて記述する。削りは、茶碗として使える状態にすることであり、この時点でほとんど茶碗の形になる。


a)ロクロに置き、外側の凹凸を削り取る。

 ロクロの中心に削る茶を置き、外側の表面の凹凸を軽く削り取る。この際、自分の思うような形状まで削り込んでもよいが、後で内側を削る時に厚さを均等にする必要が出てくる。厚さがあれば、どのような形状にも出来るし、逆に凹凸を強調することも出来る。
 ただし、カンナ目やヘラ目については、最後の段階で入れるのがよい。この段階で入れても、手で触っている間に消えてしまう可能性がある。

b)ひっくり返して、高台脇を削る。

 高台脇の部分は、ひっくり返した方が削りやすいので、ひっくり返して削る。この際、口縁が変形するのをさけるために、柔らかい布やスポンジ等を敷いておくとよい。写真はスポンジを敷いている。
 高台脇は後で削り取るので、大体でよいが、外側の形状を知る上では削っておいた方が分かりやすい。

c)内側の見込みと茶筅摺りを削る。

 外側が削れたら、いよいよ内側を削っていく。最初は見込みと茶筅摺りの部分を削る。この部分を目一杯削ると見込みが広く見えて、なおかつ茶筅が使いやすい茶碗になり、茶碗の重さも軽くすることが出来る。
 茶筅摺りは、内側の2/3の高さの部分より下を削ると見込みが大きく見える。見た感じとしては半分くらいに見えるが、実際には2/3程度のところから削っている。
 この作業は、時間と手間がかかるが、少しづつ削っていかなければ穴が開いたり厚さにムラが出来たりするので丁寧に削っていくことが大切である。

d)茶巾摺りを削る。
 次に、茶巾摺りを削る。この部分は、茶筅摺りと違い、あまり削ったらお茶が飲みにくくなるので、ならす程度に削ることである。

e)茶碗の底と茶溜まりを削る。

 内側の最後に底と茶溜まりを削る。底は、自然に軽い勾配を付けて、自然に茶溜まりにお茶が溜まるように削る。平らだと茶筅が使いづらいし、急勾配でもお茶が点てられないので、この角度には注意が必要である。
 茶溜まりの大きさは、おおよそ内側の半分程度であるが、形状によっても違ってくる。茶溜まりは、あまり深くしないことである。深くするとお茶を点てる時にこの部分だけ点てられなくなる。少しへこんでいる程度である。輪郭を強調するとしっかりとした茶溜まりに見えるようになる。

f)高台の外側を削り出す。

 ひっくり返して、高台脇を削っていき、高台の外側を削り出す。この時に、ロクロの中央に茶碗を置いて、回しながら印を付けておくと楽である。
 削り出す高さは肉厚によって異なるが、茶碗が片手で楽に持てるだけの高さは必要である。また、薄く削りすぎると茶碗を持ったときに熱が伝わって熱くて持てないことになるので、ある程度の厚さは必要である。
 高台の形は、手造りの場合はきちっとした円形にしない方が味わいが出来る。ただし、わざとらしさは禁物である。この辺の兼ね合いが難しいところである。

g)高台の内側を兜巾に削る。

 次に、高台の内側を削る。この時、高台の中央が少し高くなるように兜巾に削る。
 更に、兜巾に渦紋を入れる場合もある。楽茶碗の場合は約束事のひとつになっている。
 高台の内側も外側と同じで、きっちりした円形はさけた方がよい。内側の場合は、外側よりもおおらかな円でよいので、前もって削る場所の印は付けない方がよい。


h)仕上げにへら目を入れる。
 最後の仕上げにへら目やカンナ目を入れる。これは、自分の好みの要素が強いので、入れる場合は大胆に一気に入れていく。へら目が嫌いな場合は入れなくてもよい。最終的には、重さが300グラムから350グラム程度までになるように削っている。


削り仕上げ後の断面図。
 削り仕上げ後の断面図は、このようになっている。口縁の部分と手で持つ部分は比較的厚めになっており、見込みの部分と底の部分はかなり削り込んでいるのが分かる。