焼成について

基本的な焼成パターン

 本焼を行う際の基本的な焼成パターンは、あぶり焚き、攻め焚き、ねらし焚き、さましの4工程に分けることができ、それぞれ焼成方法の目的が異なる。また、あぶり焚きは初期あぶりと中あぶりに分かれており、やはり目的が若干違ってくる。以下、グラフを元に簡単に解説を行う。

あぶり焚き

 焼成の際、焚き始めから700度から800度までの間、窯や作品の水分を蒸発させるために比較的ゆっくりと焼くこと。このあぶりは更に初期あぶり、中あぶりに分けられる。
 初期あぶりはあぶり1期とも言い、作品及び窯本体、棚板支柱等の窯道具類の乾燥及び水分の蒸発が目的で、温度は大体300度付近までである。
 この期間は、出来るだけ窯内の水分が蒸発しやすいように、窯に付いている穴は全て開けておくのが望ましい。もちろん窯の蓋も開けておくのが良い。電気窯などの上蓋の窯は、レンガなどを蓋に挟んで隙間を開けておくと良い。温度上昇はなるべくゆっくりと上げなければ水分が蒸発しきれなくて、作品が割れたり窯内の水分の蒸発が一定にならずに、焼成に影響を与えることになる。特に長期間使っていない窯はかなりの水分が含まれているので、この初期あぶりを長めにとるのが望ましい。

 初期あぶりの期間が終れば、次に中あぶり又はあぶり2期とも言う状態になる。これは、作品の中に科学的に含まれている分子と分子を結晶で結びつけている水分、すなわち結晶水の蒸発が始まる。結晶水は、450度あたりから始まり、500度前後でピークになる。その後900度付近までかかってようやく抜けきるのである。
 また、573度の時点で1次石英が2次石英(クリストバライト)に変化する期間がある。この時に石英(珪石)が膨張するために、急激に温度を上げると作品が割れたり釉薬が剥がれ落ちたりする。この時点の温度管理は特に慎重に行う必要がある。
 更に、この中あぶりの時に、結晶水の除去と共に作品内の炭素、不純物を完全に燃焼させてしまう目的がある。この期間で還元焼成を行うと炭素が十分に抜けきらない場合があり、作品が黒ずんだり、ブクが発生したり、食器として使う際に土臭い匂いを発生したりするので、十分に炭素を燃焼させる必要があるので、絶対に酸化焼成で行わなくてはいけない。

攻め焚き(還元)

 あぶり焚きが終ると、攻め焚きに移行する。攻め焚きとは、還元焔焼成で焼成することで、元々は薪窯で薪をどんどんとくべて還元焔をつくるために攻めるという意味から来ていると言われている。
 攻め焚きは、800度から1000度付近で始まる。実際に還元焼成が必要なのは釉薬が熔け始める1050度くらいであるが、窯内の雰囲気も必要なので遅くても1000度からは始めた方がいい。もちろん、酸化焼成の場合は必要ないので、そのまま焼成すれば良い。
 攻め焚きの期間は、素地の焼結、焼き締りが行われ、釉薬が熔けて素地と結合する期間である。素地の気孔は収縮によりなくなっていき、原料が熔化してくっつきあうために水を吸収しないものになる。この間に粘土の中にある原料は分解、科学変化を起し、鉱物物質になる。
 この期間の初期、釉薬は完全に粘性を失ってしまい、素地とも結合していない不安定な状態になり、急激な温度上昇を行うと釉はげ、釉めくれを起すことになる。
 還元焼成は、大体の場合最初が強く、温度が上がるに従って弱めていくのが普通である。還元のタイミング、還元の度合いによってかなり作品に影響を与えるので、最も重要なポイントである。更に、自然焔に近づけたい場合には、焼成パターンを一定にするのではなくて、薪窯で焼くように還元と酸化の息継ぎを作ってやればよい。これは、温度上昇を変えたり、還元の強弱をつけることでより自然な焼成方法に近づける目的がある。

攻め焚き(酸化)

 温度が1200度を越えると、酸化焼成でも還元焼成でも効果がなくなる。この時に、還元焼成の場合は酸化焼成に戻して、還元焼成で出来た窯内の炭素を燃焼させてやる必要がある。別に酸化焼成に戻さなくても問題はないが、高温時の還元焼成は燃料の消費が烈しいので、経済的にも酸化に戻すか弱還元にした方が有利である。
 酸化焼成の場合は、逆に弱還元焼成にすると、内部圧力により釉薬や素地の密着がよくなると同時に、窯内の温度差がなくなり温度変化が少なくなる。釉薬については色に深みが出る。特に織部釉についてはかなり色の変化が大きくなるので、多くの作家が行っている技法である。

ねらし焚き

 ねらし焚きとは、目的温度に達した時点で、その温度を保持することである。大体30分から2時間程度である。志野釉みたいに特殊な釉薬の場合は長時間引っ張る場合もあるが、通常はそんなに長くする必要はない。
 この期間は、釉薬が完全に熔けた状態で、素地と結合する期間である。したがって、時間が短いと釉薬と素地との密着が悪くなり、剥がれやすい釉薬になる場合がある。ただし、釉薬の種類によっては熔けすぎて垂れてしまう危険性もあるので、不向きな場合もある。条痕釉、織部釉などの流れやすい釉薬は特に注意が必要である。
 また、温度を保持することにより、窯内の温度を一定にする目的と、釉色に深みをあたえる目的がある。

さまし

 ねらしが終ったら窯の穴を出来るだけ密閉して自然冷却を行う。ただし、ツヤ釉や結晶釉のように急冷が必要な場合は出来るだけ穴を解放して温度を冷ます。しかし、900度以下になると釉薬と素地との伸縮率の違いで冷め割れを起すので、900度以下になったらゆっくりと冷却しなければいけない。さめ割れとは、釉薬がするときに縮むが、この時に素地土まで一緒に引っ張って、最後には素地が割れてしまう現象である。特に、厚掛けの釉薬とか磁器土のように粒子の細かい素地土の場合に起きやすい。
 逆に、結晶釉、乳濁釉、御本手、志野釉などのように徐冷が必要な時は、場合によっては焼きながら冷却する方法もある。炭化冷却といって、還元焼成を行いながら冷却する方法もある。この場合は、ガス窯であればガス圧を半分以下に落とすかバーナーの数を減らしてやると自然に徐冷されていく。

種類別のパターン

 基本的な焼成パターンは前述のとおりであるが、釉薬の種類、性質によって、焼成パターンも違ってくる。また、同じ釉薬でもツヤのある焼成方法、ツヤを押さえた焼成方法もできるので、以下これを解説する。
 ただし、この焼成方法は一般的なものであり、かなり誇張してグラフを作っている部分もあるので、このグラフのとおりに焼けばいいものではないし、焼けない方が多いと思う。しかし、焼成パターンはまだまだ可能性を含んでいるので、これを参考にして独自の焼成パターンを研究するのも面白い。

ツヤのある釉薬

 ツヤのある釉薬にしたい場合は、高温部の冷却をなるべく急冷にすればよい。そのためには、焼成が終った時点で色見穴等を開けて温度を下げやすくする。しかし、温度が900度以下になると冷め割れを起すので、このあたりになると、出来るだけゆっくりと冷却しなければいけない。
 また、1000度を越えたあたりから、だんだんとゆるやかな曲線になるように焼成する。ゆるやかな曲線と急冷により、釉薬の中に泡や気泡が出来にくくなる。釉薬の中の泡は、光を屈折させたり拡散させるために、ツヤを失った釉薬になるのである。
 ツヤのある釉薬は、酸化と還元に関しては基本焼成パターンどおりで問題なく焼ける。還元焼成にする場合は、900度から1000度の間で還元状態にして、1200度を越えたあたりで酸化に戻せばよい。なお、酸化に戻すと急激に温度が上がり、温度曲線を保つのが難しくなるので、無理に酸化に戻す必要もない。酸化に戻す場合には、ガス窯の場合だと、ガス圧を下げながら酸化に戻す方法をとる。
 この焼成パターンは、織部釉などの結晶を出さずに焼成したい時にも有効である。織部釉などは、ここで言う結晶とは、目に見えない大きさの結晶のことで、織部釉などの場合には、釉面に青色や白っぽい斑点が出来たり青緑色の筋が出来たようになるのが結晶の影響である。

乳濁釉

 乳濁釉にしたい場合は、出来るだけ釉薬の中に気泡を多く取り込んだ釉薬にすればよい。そのためには、ツヤのある釉薬の逆のパターンで焼成すれば良いわけで、温度上昇の曲線を温度が高くなるにしたがって急激に上げるようにする。また、冷却はなるべく徐冷にする。
この焼成パターンは、乳濁釉の他に青白磁釉が全く同じ焼成方法である。青磁釉、志野釉にも同様の効果がある。なお、志野釉や青磁釉のように、極端な徐冷が必要な場合は、後述する焼成しながらの徐冷方法がより望ましい。
 乳濁釉についての酸化と還元についても基本パターンと同じである。ただし、ツヤ釉が高温部の温度上昇を押さえながら焼成するのに対し、ガス圧をそのままの状態で酸化に戻せば温度が急激に上昇するので、酸化に戻した方が楽に焼ける。しかし、急激に温度上昇して、予定温度を簡単に越えてしまう可能性もあるので、注意が必要である。

青磁釉、ビードロ釉

 青磁釉とか、ビードロ釉の場合は、乳濁釉と同じ焼成パターンであるが、還元状態を最後まで保持するところが違ってくる。最初の強還元状態から弱還元状態に移行する際に、中還元状態にする。更に通常は酸化に戻すところを弱還元状態のまま保持するわけである。
 この焼成方法は、特に半ツヤ状態の青磁釉である粉清や砧青磁を焼成する際には有効である。天竜寺青磁やツヤのある青磁釉にしたい場合には、上記のツヤのある釉薬の焼成方法のパターンに基づいて行うとよい。

黄瀬戸釉

 黄瀬戸釉や伊羅保釉、カオリンマット釉の場合の焼成方法である。特に、あぶらげ手の黄瀬戸釉のようにツヤを押さえた色合いに有効である。要するに、釉薬が完全に熔けきらない内に温度を下げてしまう焼成方法である。そうすると、釉薬の表面がざらついた感じのマット釉になる。ただし、釉薬が完全に熔けきっていないので、表面がざらいているし、素地との密着も悪くなるし、焼成自体も少しでも時間が長かったり温度が上がりすぎたりしたらツヤ釉になってしまう安定の悪い焼成方法でもある。
 伊羅保釉に関しては安定性が良いので、無理にこの焼成方法にする必要もないが、伊羅保釉独特のざらついた表面にする場合には有効である。黄瀬戸釉に関しても、ツヤ釉のように焼成すれば通常の黄瀬戸釉にすることが出来る。この焼成方法は、あぶらげ手独自のものである。

結晶釉

 結晶釉の場合は、比較的流れやすい釉薬の時に結晶が発生するために、最高温度の部分は、なるべく短時間にした方がよい。ただし、温度を一度上げておかないと核が多くなりすぎるのと、結晶がうまく育たないので、絶対に最高温度には上げておかなければ行けない。
 結晶釉は、一度最高温度に上げておいて、その後急冷し150度ほど低めの温度を保持するように焼成する。通常は、最高温度を1270度くらいにしてその後1130度あたりで温度を保持プする。この保持することを「なまし」と呼ぶ。
 温度をキープする時間は長いほど結晶が大きくなる。これは、時間をかけるほど結晶が成長するからである。通常で3時間程度、大きな結晶が作りたい場合には6時間から10時間保持する場合もある。
 結晶が出なかった時は、2度焼きすることにより結晶を作ることができる。焼成方法は、2度めの焼成は、温度を900度あたりで保持しておいて、最後に1150度あたりまで一気に上げる。その後普通に冷却すれば良い。
 この2度焼きの方法は、御本手とか辰砂釉、青磁釉においても有効である。特に、辰砂釉などは、全面に奇麗な赤はなかなか出にくいが、2度焼きすると赤くならなかった場所についても赤色になる。御本手とか辰砂釉の場合には最後の1150度に上げることは必ずしも必要ではない。

御本手、緋色

 白い素地土にほのかなピンク色の斑点ができる御本手とか、全体的にピンク色から赤色になる緋色手又は紅葉手、及びピンク色に白色の斑点ができる鹿子手と呼ばれる焼成方法は、通常の石灰釉と鉄分を1%程度含んだ比較的砂の多い素地土、または白化粧土をかけた赤土の素地土で出すことができる。
 御本手は、極端な徐冷と比較的低い焼成温度、及び弱還元焔から中性焔の雰囲気で出すことができる。ただし、これも絶対に出来るとは限らずに作品を置く場所によって出たり出なかったりするし、窯の状態、還元の強さ、釉薬の濃さ、煙突の引きの強さ、風の影響により出たり出なかったりする、微妙なものである。
 焼成方法は、最初は割と強めの還元状態で焼成し、1100度を越えるあたりからだんだんと還元を弱くしていく。1200度を越えたら酸化状態にする。最高温度は、1200度くらいから1240度あたりが最も出やすく、冷却は出来るだけ徐冷にする。この時、窯の火を焚きながら徐冷すると効果が大きくなる。

志野釉

 志野釉についても、御本手と同じく極端な徐冷が志野釉独特の緋色を出すコツである。焼成方法は、志野釉独特の泡を多く釉薬に閉じこめるために、最初はゆっくりと温度を上げていき、最後は一気に上げきる。そして、ねらしに時間をかけて長石分を熔かすことが必要である。ねらしの時間が少ないと長石が熔けきらずに、釉面が「かいらぎ」の状態になる。水玉が素地面にくっついたような状態である。その後、極端な徐冷を行うために、焚きながら徐々に温度を下げていく。
 酸化と還元については、大まかに還元だと鼠志野になり、酸化だと紅志野になる。通常は、900度あたりから強還元にしてだんだんと還元を弱くしていき、1200度を越えたら酸化に戻し一気に温度を上げる。ただし、酸化状態と還元状態を繰り返すことにより、より複雑な色合いを作り出すことが出来る。徐冷の期間中についても還元状態で冷却した場合と酸化状態で冷却した場合とでは雰囲気が全く違ってくる。

還元冷却

 最近流行の還元冷却または還元おとしまたはガス炭化と呼ぶ焼成方法である。これは、通常の還元焼成で焼成していき、最後まで強還元を保って焼成する。冷却時には煙突のダンパーや全てののぞき穴を密閉してしまい、ガスの炎を極端に弱めて還元焼成しながら冷却する方法である。ガスの炎を燃焼し続ける代わりに、やはり密閉した窯内に木片や炭を投げ入れて還元状態を作ったまま冷却する方法もある。この時、窯に隙間が開いていると空気が進入して酸化してしまうので、出来るだけ穴は密閉にしておく。
 還元冷却は、アメリカンRAKUのように、ポストファイアリング(後還元)の影響により、釉面にラスターが発生して銀色や金色に光ったり、極端に細かい貫入が発生し、釉面がマット調になったりする。赤土を使っている場合には、素地色が真っ黒になり、焼締めの雰囲気になることもある。とにかく、思わぬ効果が出るので工夫次第では結構面白い焼成方法である。
 似たような方法で、サヤの中に作品と炭、おが屑等の可燃材を入れて焼成する方法もあるが、こちらは更に還元が強くなり、可燃物が作品に触れている場所だけに炭化雰囲気が起り、薪窯で焼いているような感じに仕上がる方法もある。