素地が燃焼によって変形するのは、磁器化(熔化)と軟化の温度範囲が短すぎることが原因である。燃焼は通常素地がある程度磁器化した時点で温度上昇を止める。しかし、最終温度が上がりすぎたり、最終温度を保持しすぎたり、焼成速度があまりにも遅すぎた場合には、磁器化温度を通り過ぎて軟化温度に達してしまい変形することになる。
この欠点は、成型方法の失敗で発生することはなく、大抵の場合は素地土の組成と焼成方法の不一致に原因がある。可塑性の大きい素地を急速に焼成すると剥離が生じやすくなる。これは、素地中の水分や結晶水が緻密な素地を通して外に出にくいためである。また、可塑性の大きな素地土で作った陶板は焼成中に亀裂を起しやすい。これも同じ原因である。これを防ぐには、素地土に珪砂、シャモット、セルベン等を加えて可塑性を小さくすることである。または、焼成の際に「ねらし」の時間を長くして結晶水を完全になくしてから「攻め」に入る。
品物に水を入れた時に漏るのは、素地が焼き締っていない(磁器化していない)ためである。このような時は、焼成温度を高くすることが必要である。ただし、釉薬との関係もあるし、磁器化温度と軟化温度との差が少ない素地では高温焼成は無理である。石灰と鉄分を含む素地を還元焼成すると、ある温度で急速に焼古し、ある部分はガラス量が増えるが、他の部分はまだ多孔性の状態になる。このような素地では対処の方法がない。
ブクとは、焼成した製品の表面がぽこっと丸く浮き上がった状態になることである。この原因の大部分は素地土の中に空気の層が出来ており、これが焼成により膨張して素地土を膨らませたものである。焼成温度が軟化温度まで上がった際によく発生する。ブクを作らないためには、素地土に空気を入れないことである。また、多少入っていても軟化温度まで温度が上がらなければ、比較的出にくいので多少低めの温度で焼成すれば良い。
焼成された作品が、何ら明確な原因が見あたらないのに完全に粉々になったり、はじけてしまったりする事がある。これは、次の原因が考えられる。
やきものを作る場合には、いろいろと失敗が発生する。この欠点を生かした作品も多々あり、先人たちはこの欠点を利用してすばらしい作品を作り上げた。
しかし、欠点を利用するにも克服するにも、その欠点の発生メカニズムを追求することが必要である。欠点全てについて網羅することは不可能なので、ここでは通常発生する失敗例とその対処の仕方を簡単に記述したい。
素地に起きる失敗
素地に起きる失敗は、歪み、反りと割れが主な原因である。歪みと反りとは大体似たような状況で起るものであり、この原因は厚さの不均一と乾燥の不均一が大半を締めている。
3.焼成時に起きる変形
素地土の熔化、軟化温度は、素地の種類によって異なるので、常に把握しておかなければいけない。たとえば、鉄分の多い粘土質素地は1050度以上の還元焼成で変形する場合がある。
変形しやすい素地土の場合には、焼成温度を下げるか、あるいは素地土の可塑性に応じてセルベン、微細な珪砂、カオリン、あるいは耐火粘土を10~20%加える。しかし、1100度以下で変形を起すような素地では、焼き締り程度を変えないで改良することは困難である。
石灰の多い素地土は、一面だけが強く火に当たったり、急冷した場合には亀裂を生じやすく、一点を中心にして枝状に亀裂が走ることがある。また、粗い珪砂が入っている場合などに発生することがある。この場合は燃焼中に入り、または細かく割れる場合もある。
燃焼中に入る亀裂は、冷却中に入る亀裂と異なっている。冷却中に発生する亀裂が真っ直ぐで鋭いのに対し、焼成中の亀裂は幅が広く、切り開いたような形状をしている。また、亀裂の内部は表面と同じ色をしており、ギザギザの多い亀裂である。
初心者が失敗するのは、完全に乾燥しきっていないものを素焼きした場合、素地中の水分が水蒸気になる時に膨張して確実に割れる。酷いときには破裂して廻りの製品も一緒に割ってしまうことがある。乾燥については、し過ぎるということはないので、確実に乾燥するまで素焼きをしないことである。いくら長時間放置しても全く問題はない。
しかしある程度防止するには、可能な範囲で高温焼成すること、微細なフリット釉を用いること、貫入の発生しにくい釉薬を用いること、等である。また、素地中の石灰を微細にすればある程度防ぐことが出来る。
また、シャモットや珪砂を入れた素地土の場合は可塑性が少なくなり割れや歪みは少なくなる反面、耐火度が高くなり、焼古しにくくなるために、高温で焼成することが必要になる。
ただし、陶器素地の場合には失透性を全くなくするということは出来ないので、ある程度の失透性は考慮して作るべきである。日本では、この失透性が作品を使っていく間に風格と落ち着きを出すものと考えられていて、大切に使えばそれだけ良い作品に変化していくものである。
ただし、粘土自体がブクを発生することもある。粘土の中には水に溶ける塩類が含まれていることがあり、この可溶性塩類は、粘土を練るときに加える水に溶けだし、成形素地を乾燥すると粉を吹いたようになったり、結晶として表面を覆ったりする。乾燥時点で認められるものもあるし、焼成後、初めて灰白色、黄色、または流れたような点として認められるものもある。また、高温で焼成したものにブクを発生するものもある。施釉した素地では、釉を飛ばしたり、本来の色でない色が着色する場合もある。結晶の出た素地をそのまま焼成すると素焼きですでに気孔の中に固着して取れなくなる。このような粉や結晶の出る現象をスカミング(scumming)と呼んでいる。この現象は、乾燥をゆっくりと行えば行うほど強く起こり、また緻密な素地ほど発生するのに長時間を要す。
このような粘土の塩類を除去するには、フィルタープレスで絞って粘土を作る以外にはない。
特に有害なのは硫酸石灰で、石灰と硫酸鉄を含む粘土は、風雨に長時間さらされると石灰が硫酸石灰に変わり、鉄は水酸化鉄になる。これが乾燥すると表面に薄い層を作り、特に製品の端部に多く集まる。これが釉飛びの原因になるのである。
硫酸塩の害を除くには、素地土を作る時に炭酸バリウムを0.25~0.5%加えると良い。ただし、市販されている粘土類は、大抵の場合フィルタープレスを通して作っているので、こういう心配は皆無である。
a.作品の乾燥が十分でない場合。特に底部は一見乾燥しているように見えても、実は水分が残っている場合があり、このような時は焼成中に乾燥しきっていない水分が水蒸気になる際に急激に膨張して、作品を割ってしまう。めくれるように割れる場合には、大抵の場合、これが原因である。対処方法は、乾燥をしっかりすることと、なるべく厚さを均一に作ることである。
b.練り方が悪いために、素地中に空気の層がある場合。これも上記と同じように焼成中に空気が膨張して作品を割ってしまう。こちらは、素焼きをゆっくりと焼くことによって、ある程度防ぐことは出来る。ただし、粒子の細かい粘土を使った場合には、中の空気が外に出にくいために、本焼中に割れたり、ブクの原因になったりする
c.素地に内部歪みが残っており、これが温度変化に大して抵抗性が少ないために起こる。これは、貫入と同じように焼成直後の冷却中に生ずるものではなくて、窯出ししてからある一定の期間を経て発生するので、解決が困難である。原因は、素地の組織がある一定期間に変化すると考えられている。特に、微粉際された石英が比較的多量に含まれている陶器素地は、素地中に非常に強い応力を引き起こすので、よく割れ飛ぶ。