やきものを作る場合には、いろいろと失敗が発生する。この欠点を生かした作品も多々あり、先人たちはこの欠点を利用してすばらしい作品を作り上げた。
 しかし、欠点を利用するにも克服するにも、その欠点の発生メカニズムを追求することが必要である。欠点全てについて網羅することは不可能なので、ここでは通常発生する失敗例とその対処の仕方を簡単に記述したい。

素地に起きる失敗
 素地に起きる失敗は、歪み、反りと割れが主な原因である。歪みと反りとは大体似たような状況で起るものであり、この原因は厚さの不均一と乾燥の不均一が大半を締めている。

1.乾燥時に起きる歪みとねじれ

(1)素地に原因がある場合

 成形した素地が乾燥中に歪んだり、ねじれたりするのは、成形作業よりも素地の組成が悪い時に起きることの方が多い。第一の原因は乾燥収縮が大きすぎることである。可塑性の大きすぎる粘土を素地に使ったために、生素地のしまりが弱くなり変形するものである。これを防止するには、非可塑性原料(除粘剤)たとえば珪砂、長石、シャモット、素地粉(セルベン)、砂等を素地粘土に加える。この種類や量については素地土の特性、作品の大きさによって異なる。
 シャモットは、素地土と比較的低温度で結合し、衝撃に強い素地が得られる。シャモットは成形の際に水分を吸収し、粘土粒子とよく付着するので成形強度や乾燥強度は珪砂を入れた場合よりも強くなる。
 素地土と同一素材の素焼粉(セルベン)を入れると、素地組成を変えずに粘着力を弱め、素地を強くすることが出来る。効果はシャモットの方が大きいが、セルベンの方が 焼成後の雰囲気が変わらない。セルベンは、同一素地で出来た素焼き製品を細かく砕いて、篩を通して作る。通常は80メッシュくらいを使用する。

(2)粘土の性質による場合

 粘土には、一度出来た形状を記憶して、乾燥後や焼成後にこの形状に戻ろうとする性質があるので、一度作った形状を何度も修正したりすると歪みや反り、割れの原因になる。
 たとえば、成型時にへこみが出来たために、このへこみに粘土を入れて修正したら、焼成後に逆に突起になることがある。ロクロ成型したカップに取っ手を付ける場合でも、真っ直ぐに取っ手を付けると焼成後にカップがロクロと逆の方向にねじれるために取っ手も一緒にねじれることがある。
 これを防ぐには、出来るだけ手をかけずに作った方がよい。また、カップ等の取っ手はねじれとは逆に方向にあらかじめ少し傾斜を付けて取り付ける。
 また、素地土に可塑性が少ない場合には出にくいので、複雑な形のものや手をかけて作る場合には、シャモット分の多い素地土を使うとよい。

(3)乾燥に原因がある場合

 乾燥時に不均一に乾燥すると、大抵の場合反ったり歪んだりする。大部分の場合は先に乾燥した箇所に引っ張られて反ったり歪んだりするので、出来るだけ均一に乾燥させることによってある程度は防ぐことが出来る。
 先に乾燥する箇所は、突起している場所(カップの取っ手や蓋の取っ手、縁の持ち上がったもの、耳の付いた花器等)にラップ、新聞紙等を巻いて乾燥を遅らせる方法と、ナイロン袋等に入れて均一にゆっくりと乾燥させる方法(ただし、袋に付いた水滴に作品が触れると割れの原因になるので、注意が必要である)等があり、とにかく、均一に乾燥させることを心がけることが必要である。

a.湿った素地が乾燥する時に、一方だけが乾燥してしまった場合。先に乾燥した場所はその形をとどめており、後から乾燥する場所がこの形に引っ張られるようにして乾燥するために一方に反ってしまう。
 これを防ぐには、乾燥時に常に製品をまわしておくことである。特に、一方が壁になっている場所とか、片方だけ日や風があたる場所は注意が必要である。

b.素地の厚さが違う場合。素地の薄い場所が先に乾燥し、これに引っ張られるようにして厚い部分の形状が変わって歪んでしまう。
 これを防ぐには、出来るだけ均一に製品を作ることである。特に紐作り等で作ったものや大物の場合は歪みやすいので、均一に乾燥させることとゆっくりと乾燥させることが重要である。

c.縁が持ち上がった形状の皿を作った場合。縁の持ち上がった皿の場合は、縁の部分が先に乾燥してしまい、これに引っ張られるようにして真ん中が持ち上がってしまう。
 縁の持ち上がった作品を作る時は、縁の部分にラップを巻いて乾燥させないようにするか、製品の上下に新聞紙を置いて乾燥を均一にするか、あるいは下に石膏ボード等を置いて一気に乾燥させるかである。しかし、一気に乾燥させると製品が割れる確率が高くなるので、均一に乾燥させる方法をとった方が確実である。また、縁の角度を直角にすれば反りにくくなる。

d.壷などの場合、先に上部分から乾燥して、これに引っ張られるようにして底が飛び出してしまう。
 壷などの大物を乾燥させる場合には、口の部分に新聞紙、ラップ等を巻いて、なるべく乾燥を均一にする。

e.陶板などの場合、上面だけが先に乾燥して、反ったり歪んだりすることがある。陶板板の場合は新聞紙ではさんで均一に乾燥させる方法、金網の上に載せて下面と上面を同時に乾燥させる方法、何度もひっくり返して均一に乾燥させる方法等がある。陶板の大きさと乾燥にかける手間を考えて乾燥させる方法を決めれば良い。

2.乾燥時に出る切れ、割れ

(1)素地土原因がある場合

a.歪みの場合と同じように乾燥収縮が大きすぎる場合や可塑性が大きすぎる場合には割れの原因になる。また、素地土の可塑性が逆に少なすぎても割れの原因になる。これは素地の密着度が弱くなるために成形時に大きな圧力がかかり、後で切れが発生するためである。

b.生素地中の水分分布が不均一の場合は、水分の少ない部分が先に乾燥し、水分の多い部分の乾燥が遅れるために、割れや歪みになる。粘土を練らずに成形すると、表面が硬くなっているのに中は柔らかいためにこの現象が起きる。また、2種類の粘土を混ぜたり、成形途中の粘土を混ぜたりしても同じである。とにかく、良く練って水分量(硬さ)を均一にして使用することである。

c.調整直後の粘土は寝かした粘土に比べて亀裂が出やすい。寝かすことは、粘土と水分との反応を完了させることと粘土粒子の結合力が十分に発揮されることであるので、必然的に割れにくくなる。
 寝かせるというのは、作った粘土を2、3日程度ナイロン袋に包んで冷暗所で保持することである。粘土を作るというのは、違う種類の粘土を混ぜ合わせた場合とか、一旦硬くなってしまった粘土を水に入れて分解させて練り直した粘土のことであり、少し硬くなった粘土を水で練って柔らかくすることではない。

(2)成形に問題のある場合

a.ロクロ成形で数挽きした時に底に「S字」または「I字」の亀裂が入る場合がある。これは「乾燥切れ」と呼ばれており、作陶時に底の押さえが足りなくて底の粘土が粗密になって亀裂が入る場合と、底の厚さが厚すぎて乾燥時に引っ張られて割れる場合がある。ロクロ成形時には十分に底を押さえて作り、削りの時に底の厚さを薄く削ることで防ぐことが出来る。
 また、ロクロ成形後に石膏ボードの上に置いて乾燥させる方法がある。通常の板の上に置くよりも早く底部の水分を取ってしまうので、比較的乾燥切れしにくくなる。ただし、底面が締っていない場合はやはり乾燥切れは起きる。
b.ロクロ成形時に縁をのばしすぎたために、縁部分が粗密になり、このために乾燥時に亀裂が入ることがある。縁の部分が薄いのに、無理をして広げないことと、十分に縁の部分を締めておくことである。また、可塑性の少ない粘土(シャモット分の多い粘土)を使うと割れやすくなるので、薄いものを作る時はなるべく可塑性の大きい粘土を使うようにすればよい。可塑性の少ない粘土はへたりにくいので、最初から口を広げて作る方が安全である。

c.乾燥する時に、逆さまの状態で乾燥させたために加重が口の部分にかかり、このために割れてしまう。ある程度乾燥したら、通常の状態に戻して乾燥させることである。特に、大鉢、大皿の場合にはかなりの加重がかかるので、注意が必要である。

d.たたら成形の時に、均一に締めていないために、弱い部分から亀裂が入る。たたら成形する場合には、徹底的に粘土を叩いて締めてから使用する。特に「たたら機」を使うと最初は締めることになるが最後の方は締らない状態になるために、最初の粘土だけを使うようにする。
 また、作品の厚さが2cmを越える場合には乾燥時に割れるか焼成時に割れる確率が非常に高くなるので、出来るだけ薄く作るように心がけるべきである。ただし、実際に使用する場合には、ある程度の厚さと重さも必要になるので、鑑賞用以外では極端に薄いものは作るべきではない。道具として使用する際には、道具としての重さと厚さ、手触りというものがあるので、それを把握することが上達への早道である。

e.乾燥の時に、急激に乾燥させたり無理な加重をかけると、弱い部分から割れてしまう。乾燥は出来るだけ均一にゆっくりとさせることである。

3.焼成時に起きる変形

 素地が燃焼によって変形するのは、磁器化(熔化)と軟化の温度範囲が短すぎることが原因である。燃焼は通常素地がある程度磁器化した時点で温度上昇を止める。しかし、最終温度が上がりすぎたり、最終温度を保持しすぎたり、焼成速度があまりにも遅すぎた場合には、磁器化温度を通り過ぎて軟化温度に達してしまい変形することになる。
 素地土の熔化、軟化温度は、素地の種類によって異なるので、常に把握しておかなければいけない。たとえば、鉄分の多い粘土質素地は1050度以上の還元焼成で変形する場合がある。
 変形しやすい素地土の場合には、焼成温度を下げるか、あるいは素地土の可塑性に応じてセルベン、微細な珪砂、カオリン、あるいは耐火粘土を10~20%加える。しかし、1100度以下で変形を起すような素地では、焼き締り程度を変えないで改良することは困難である。

4.焼成中の剥離と切れ、割れ

 この欠点は、成型方法の失敗で発生することはなく、大抵の場合は素地土の組成と焼成方法の不一致に原因がある。可塑性の大きい素地を急速に焼成すると剥離が生じやすくなる。これは、素地中の水分や結晶水が緻密な素地を通して外に出にくいためである。また、可塑性の大きな素地土で作った陶板は焼成中に亀裂を起しやすい。これも同じ原因である。これを防ぐには、素地土に珪砂、シャモット、セルベン等を加えて可塑性を小さくすることである。または、焼成の際に「ねらし」の時間を長くして結晶水を完全になくしてから「攻め」に入る。
 石灰の多い素地土は、一面だけが強く火に当たったり、急冷した場合には亀裂を生じやすく、一点を中心にして枝状に亀裂が走ることがある。また、粗い珪砂が入っている場合などに発生することがある。この場合は燃焼中に入り、または細かく割れる場合もある。
 燃焼中に入る亀裂は、冷却中に入る亀裂と異なっている。冷却中に発生する亀裂が真っ直ぐで鋭いのに対し、焼成中の亀裂は幅が広く、切り開いたような形状をしている。また、亀裂の内部は表面と同じ色をしており、ギザギザの多い亀裂である。
 初心者が失敗するのは、完全に乾燥しきっていないものを素焼きした場合、素地中の水分が水蒸気になる時に膨張して確実に割れる。酷いときには破裂して廻りの製品も一緒に割ってしまうことがある。乾燥については、し過ぎるということはないので、確実に乾燥するまで素焼きをしないことである。いくら長時間放置しても全く問題はない。

5.透水性

 品物に水を入れた時に漏るのは、素地が焼き締っていない(磁器化していない)ためである。このような時は、焼成温度を高くすることが必要である。ただし、釉薬との関係もあるし、磁器化温度と軟化温度との差が少ない素地では高温焼成は無理である。石灰と鉄分を含む素地を還元焼成すると、ある温度で急速に焼古し、ある部分はガラス量が増えるが、他の部分はまだ多孔性の状態になる。このような素地では対処の方法がない。
 しかしある程度防止するには、可能な範囲で高温焼成すること、微細なフリット釉を用いること、貫入の発生しにくい釉薬を用いること、等である。また、素地中の石灰を微細にすればある程度防ぐことが出来る。
 また、シャモットや珪砂を入れた素地土の場合は可塑性が少なくなり割れや歪みは少なくなる反面、耐火度が高くなり、焼古しにくくなるために、高温で焼成することが必要になる。
 ただし、陶器素地の場合には失透性を全くなくするということは出来ないので、ある程度の失透性は考慮して作るべきである。日本では、この失透性が作品を使っていく間に風格と落ち着きを出すものと考えられていて、大切に使えばそれだけ良い作品に変化していくものである。

6.焼成により発生するブク

 ブクとは、焼成した製品の表面がぽこっと丸く浮き上がった状態になることである。この原因の大部分は素地土の中に空気の層が出来ており、これが焼成により膨張して素地土を膨らませたものである。焼成温度が軟化温度まで上がった際によく発生する。ブクを作らないためには、素地土に空気を入れないことである。また、多少入っていても軟化温度まで温度が上がらなければ、比較的出にくいので多少低めの温度で焼成すれば良い。
 ただし、粘土自体がブクを発生することもある。粘土の中には水に溶ける塩類が含まれていることがあり、この可溶性塩類は、粘土を練るときに加える水に溶けだし、成形素地を乾燥すると粉を吹いたようになったり、結晶として表面を覆ったりする。乾燥時点で認められるものもあるし、焼成後、初めて灰白色、黄色、または流れたような点として認められるものもある。また、高温で焼成したものにブクを発生するものもある。施釉した素地では、釉を飛ばしたり、本来の色でない色が着色する場合もある。結晶の出た素地をそのまま焼成すると素焼きですでに気孔の中に固着して取れなくなる。このような粉や結晶の出る現象をスカミング(scumming)と呼んでいる。この現象は、乾燥をゆっくりと行えば行うほど強く起こり、また緻密な素地ほど発生するのに長時間を要す。
 このような粘土の塩類を除去するには、フィルタープレスで絞って粘土を作る以外にはない。
 特に有害なのは硫酸石灰で、石灰と硫酸鉄を含む粘土は、風雨に長時間さらされると石灰が硫酸石灰に変わり、鉄は水酸化鉄になる。これが乾燥すると表面に薄い層を作り、特に製品の端部に多く集まる。これが釉飛びの原因になるのである。
 硫酸塩の害を除くには、素地土を作る時に炭酸バリウムを0.25~0.5%加えると良い。ただし、市販されている粘土類は、大抵の場合フィルタープレスを通して作っているので、こういう心配は皆無である。

7.焼成により素地土がはじける場合

 焼成された作品が、何ら明確な原因が見あたらないのに完全に粉々になったり、はじけてしまったりする事がある。これは、次の原因が考えられる。

a.作品の乾燥が十分でない場合。特に底部は一見乾燥しているように見えても、実は水分が残っている場合があり、このような時は焼成中に乾燥しきっていない水分が水蒸気になる際に急激に膨張して、作品を割ってしまう。めくれるように割れる場合には、大抵の場合、これが原因である。対処方法は、乾燥をしっかりすることと、なるべく厚さを均一に作ることである。

b.練り方が悪いために、素地中に空気の層がある場合。これも上記と同じように焼成中に空気が膨張して作品を割ってしまう。こちらは、素焼きをゆっくりと焼くことによって、ある程度防ぐことは出来る。ただし、粒子の細かい粘土を使った場合には、中の空気が外に出にくいために、本焼中に割れたり、ブクの原因になったりする

c.素地に内部歪みが残っており、これが温度変化に大して抵抗性が少ないために起こる。これは、貫入と同じように焼成直後の冷却中に生ずるものではなくて、窯出ししてからある一定の期間を経て発生するので、解決が困難である。原因は、素地の組織がある一定期間に変化すると考えられている。特に、微粉際された石英が比較的多量に含まれている陶器素地は、素地中に非常に強い応力を引き起こすので、よく割れ飛ぶ。