釉薬における失敗
 目  次

釉薬、焼成に起きる失敗
 釉薬に発生する欠点は、素地に発生する欠点よりもはるかに複雑でわかりにくい。これは、純粋に釉薬だけの欠点だけではなく、釉が燃焼による化学反応によって窯内のガスや素地との反応があるからである。

1.施釉の際のヒビ、剥離
 施釉時に発生する失敗として、施釉後に釉薬にヒビが入ったり、剥離することがある。これは、次の要因が考えられる。

(1)生素地に施釉した場合

 生素地に釉薬をかけて乾燥すると、釉が剥がれ落ちることがある。これは施釉時に素地土が湿り、乾燥の時に再び収縮するのに対し、釉薬の方は収縮しないためである。これには、釉薬に可塑性の大きい原料(木節粘土、蛙目粘土、ベントナイト等)を入れると防ぐ事が出来るが、多量に入れると釉薬の組成が変わってしまう場合がある。アラビアゴム、デキストリン、膠、布海苔、CMC等の結合材を0.3~0.5%程度入れると、ある程度防ぐことが出来る。
 また、釉薬を作った直後に使わずに、ある程度の期間ねかせておくと付着力が増加するので、これを利用する方法もある。

(2)素焼きに施釉した場合

 素焼き素地に施釉する場合にも、施釉後剥離することがある。ただし、素焼き素地の場合には、全く正反対の理由で起きることがあるので、注意が必要である。
a.釉薬を厚掛けした場合や志野釉などの長石質の釉薬をかけた時に剥離することがある。これは、釉薬に非可塑性原料(長石、陶石、珪石等)が多く含まれているためである。これを防ぐには、上記と全く同様で、可塑性原料を入れるか結合材を入れると良い。
b.逆に、釉薬に可塑性原料が多く入りすぎている場合にも、施釉後に釉薬が収縮してヒビ割れや剥離が起きることがある。特に、微粉砕した釉薬や生粘土、カオリンが多い場合に起きる現象である。こういう場合は、結合材を入れても効果がないので、原料の可塑性粘土を減らすか、一部を「か焼」(かしょう、素焼きすること)して用いる。また、釉薬を微粉砕にしないことと、釉薬をあまりねかさないことが必要である。ねかせすぎた釉薬は、一度乾燥させて200~300度で「か焼」して用いると良い。

(3)素地表面が汚れている場合

 素焼きした素地を不必要に触ったり、長時間放置すると、油やほこりが素地表面に付着して施釉後乾燥すると釉薬が剥離することがある。長時間放置した素焼き素地は、水に濡らしたスポンジ等で表面をきれいに拭きとるとある程度は防ぐことができる。もう一度素焼きし直せば安全である。

2.釉飛びとちぢれ
 調合及び施釉が正常であるにもかかわらず、焼成後に釉面全体または部分的に表面が凹凸になったり、釉薬がまだらにかかっている状態になることがある。これを釉飛びと呼び、凹凸になっていることを釉薬がちぢれていると呼んでいる。
 この釉飛び現象は、焼成の時に素地の収縮よりも釉薬の収縮の方が大きい場合にと釉薬は加熱中に亀裂を起し、徐々に「ちぢれ」を起す。逆に素地の方が釉薬よりも収縮が大きいと釉は飛び散り、釉飛びを起す。
 釉飛びの原因と対策は、次のようなものが揚げられる。


(1)素地中に水分がある場合

素地中の水分が完全に抜けていない場合や急速に焼成温度を上げた場合には、素地中の水分が水蒸気となって素地の外に出ようとするが、この時に釉面は水蒸気に対して抵抗力が少ないために釉薬が浮き上がってしまう。このために、釉飛びが起きる場合がある。
 したがって、釉掛けした作品は完全に乾燥するまで焼成しないか、完全に乾燥していないと思われる場合には、あぶりの時間を余分にとって素地中の水分を完全に蒸発させてから攻め焚きに入ることが必要である。特に、釉薬を厚掛けしたものや粘土分の多い釉薬、素地が厚いもの、釉薬を二度がけしたものは水分が残っている場合があるので、注意が必要である。
 この水分の影響は、下記の剥離、メクレとも相互関係にある問題である。次の剥離、メクレとも合わせて注意が必要である。

(2)釉薬に付着力がない場合

釉薬が熔ける時には、急激な釉の収縮作用のために釉の表面に亀裂が生じる。この時に、釉薬に付着力がない場合には釉飛びを起すことがある。特に、石灰分や長石分の多い釉薬や厚掛けした釉薬に起きやすい現象である。釉飛びの起きる釉薬には、釉薬に可塑性の大きい原料(木節粘土、蛙目粘土、ベントナイト等)を入れる防ぐ事が出来るが、多量に入れると釉薬の組成が変わってしまう場合がある。アラビアゴム、デキストリン、膠、布海苔、CMC等の結合材を0.3~0.5%程度入れると、ある程度防ぐことが出来る。

(3)窯自体に湿気を含んでいる場合

 窯自体が湿気を含んでいるような場合、上記の現象と同じような作用が起り、釉飛びの原因になることがある。長時間使用していない窯は、いきなり本焼しないで、素焼きを何度か行うか、一度空焚きしてから使用することが必要である。

(4)流れにくい釉薬を厚掛けした場合

 マット釉や、乳濁釉のように流れにくい釉薬を厚掛けした場合、または土灰や粘土分の多い釉薬を厚掛けした場合には、乾燥しにくいために、釉飛びが起こることがある。この場合も、乾燥をしっかりと行うことが必要である。

(5)釉薬を微粉砕にした場合

 釉薬をポットミル等で微粉砕にした場合、水分が蒸発する気泡がなくなる。このために焼成中に水分が外に蒸発できなくなり、釉飛びが起きる。釉薬を必要以上に微粉砕にしないことが大切である。

(6)素焼き温度が低すぎる場合

素焼き温度が低すぎて、素地が吸湿性の時も、施釉した際に必要以上の水分を吸水して、釉飛びの原因になる。

(7)素地の表面がよごれている場合

 素地の表面が汚れている場合にも釉飛びが起きることがある。これも、剥離、メクレと同じ原因による場合がある。

(8)素地の表面が粗い場合

 素地の表面がざらついている場合や、気泡が多い場合に、この気泡に空気が残って釉飛びやちぢれになる場合がある。ロクロ成形の場合には、高台部分だけを削るためにこの部分だけがざらついてちぢれになることもある。特に、下記の温度不足の場合によく生じる。

(9)焼成温度が低い場合

 焼成温度が少し低い場合には、釉薬が完全に流れずに釉飛びやちぢれを起すことがある。また、萩焼や唐津焼などで、茶碗等を重ね焼きをした場合に、高台部分に十分に熱が伝わらないために、ちぢれを起すことがある。
 特に、萩焼等で粘性の高い釉薬を素地面が粗い場所に厚掛けしたりすると、釉の表面張力が大きいためにちぢれが発生することがある。これを日本では梅花皮(かいらぎ)と呼び、ヨーロッパではスネークスキン釉(蛇皮釉)と呼んでいる。また、作品の端部に出来た釉飛びを鑑賞家は「虫食い」と呼ぶことがある。

(10)釉掛けの祭に水がまわってしまった場合

 釉薬をかける祭に釉薬の中に浸ける時間をかけ過ぎたり、素地が薄い場合、あるいは2度掛けをした場合には、「水がまわる」といって、素地の中にまで水が入り込んでしまい釉薬が剥がれ落ちたりずり落ちたり、乾燥の時点で剥がれ落ちたりすることがある。
 また、2度がけする祭に、下の釉薬に水が入り込んで上の釉薬がめくれたり、上の釉薬が浮いてしまうこともある。この状態のままで焼成すれば必ずちぢれやメクレの原因になる。
 釉薬が浮き上がった場合には、水を含ませた筆で浮いた部分に水分を含ませると、元に戻る事がある。また乾燥後にでこすりつけたり、押しつけたりするとある程度は直すことが出来るが、完全に直すことは不可能である。この場合には、一度釉薬を剥がし取って完全に乾燥した時点で再度釉掛けするしか対処方法はない。特に、薄い素地のものや厚掛けしたい場合には注意が必要である。
 青磁釉や志野釉のように厚掛けしたい場合には、釉薬自体を濃く作ったり、珪酸ソーダを入れて釉掛けを1回で終らせるか、2度掛けする場合には、完全に乾燥した状態で2回目の釉薬はスプレー掛けするか、筆塗りをするのが安全である。この祭に、釉薬に布海苔等の粘着剤を入れるとより安全である。ただし、一回で終わらせる場合には釉飛びやちぢれが起きやすくなる。

3.焼成中の剥離、メクレ
 焼成後に釉面全体または部分的に釉薬がめくれて折り重なっていたり、めくれた釉薬が突起状態になっていたり、あるいは剥がれて素地面が露出していたりすることがある。この状態は、釉薬のちぢれや剥離と強い相互関係があり、原因もほぼ剥離の場合と同様と考えられる。

(1)素焼き素地を長時間放置していた場合

 素焼きした素地を長時間放置すると、ほこりや汚れが付着したり、素地が湿気を吸ってしまう。ほこりが付着すれば、釉薬が直接素地面と密着することが出来ないために焼成中にこの部分から剥離して、めくれの原因になる。施釉前にスポンジや布巾を濡らして表面を奇麗に拭いてやるとあらかた防ぐことは出来るが、完全にほこりを取ることは不可能である。また、時間をかけて丁寧に拭くと素地中に水分を含ませる結果となり、剥離の原因を悪化させることも考えられるので、水分は出来るだけ絞って素早く拭くことが大切である。
 水分が剥離の原因になるのは、上記「ちぢれ」と同様の理由である。

(2)施釉時に汚れや油の付着した手で作業した場合

 施釉時に、汚れた手や油の付着した手で作業した場合にも同様の結果になる。これも、作品の表面に汚れや油が付着して幕を作り、この上に釉薬がかかることになるからである。

(3)施釉後すぐに焼成した場合

 施釉後完全に乾燥しないうちに窯詰めや焼成を行うと釉薬が剥離することがある。特に厚掛けの作品とか粘土分の多い釉薬、素地が厚い場合に起こりやすい。これも、作品の素地内に水分が含まれることになるためで、上記「ちぢれ」と同様の理由である。

(4)下絵が濃すぎる場合

 下絵を描いた場合に、下絵が濃すぎた場合や下絵の面積が大きい場合には下絵の上にかけた釉薬が剥離することがある。これもほこりや油分が付着するのと同じ理由から釉が剥離するものである。これを防ぐには、下絵を薄く描く。下絵に布海苔やにかわを入れる。そうすると、下絵自体が固まって剥離しなくなる。または、下絵に透明釉を2~5%割程度加える等の方法がある。
 また、一部の顔料たとえば、ピンク、コバルト、クロム等を極端に多く用いると釉が剥離することがある。特に、粘性の少ない顔料の場合は注意が必要である。

(5)素地に合わない化粧土を使った場合

 化粧がけをした場合、素地にあわない化粧土を使った場合、化粧土が濃すぎた場合に、作品の端部が剥がれ落ちたり、釉薬にヒビが入って簡単に剥離したりする。これは、化粧土が素地と密着していないためである。また、素地土が厚い場合に化粧土が釉薬と同時にめくれることもある。これも同様の理由と考えられる。

4.焼成中に釉薬が流れ落ちる場合
 焼成後に、釉薬が流れ落ちて棚板に付着したり、口辺の釉薬がなくなり高台付近に溜まったりする。また、釉薬の一部だけが流れてしまうこともある。
 この釉薬が流れる原因の大部分は、釉薬の熔化温度よりも高い温度で焼成したことが原因である。また、釉薬を厚掛けし過ぎたり、「ねらし」を長時間引っ張りすぎることも原因になることがある。釉薬の一部分が流れる場合は、窯内の温度が均一になっていないために、一部分だけ温度が高くなったことが考えられる。
 これを防ぐには、焼成温度を下げれば良いが、他の釉薬との関係があったり、素地土との関係から温度を下げることが出来ない場合には、釉薬の粘性を上げれば良い。したがって、次の方法が考えられる。

a.釉薬中の珪酸質原料を増やす。すなわち、珪石、珪砂、藁灰、陶石等を少量加える。ただし、入れすぎると逆に釉薬が熔けなくなることもあるし、釉薬の組成が変わって珪酸質マット釉になったり乳濁釉になることもあるので、テストを繰り返し注意深く行う必要がある。

b.釉薬中のアルミナ分を増やす。珪石の変わりにアルミナ分、すなわちカオリン、蛙目粘土、アルミナ粉、等を少量入れても、釉薬は熔けにくくなる。これは、入れすぎるとアルミナ質マット釉になることがあるので、やはりテストを繰り返す必要がある。こちらの場合は、釉薬に粘りが出て乾燥が遅くなるので、そちらの注意も必要である。

c.ビードロ釉、条痕釉、織部釉、御深井釉のように、釉薬が流れることを目的とした釉薬の場合には、釉薬が流れても棚板まで届かない施釉方法、焼成方法を考慮するしか方法がない。釉薬を上の方に厚くかけたり、道具土や童仙傍で「せんべい」を作り作品の下に敷いたりする。釉薬を厚掛けする場合にも、同じような注意が必要となる。

5.釉薬が熔けない場合
 上記4.の場合とは逆に、焼成後も釉薬が熔けていなかったり、表面がざらざらしていたり、透明釉になるはずなのに、白いままの状態だったりすることがある。これは釉薬の熔ける温度が焼成温度に対して高い場合に起きる。これを防止するには、焼成温度を上げることが必要だが、素地が高温に耐えられない場合や他の作品との関係で温度を上げられない場合には、下記の方法が考えられる。

a.釉薬に媒熔剤を少量加えて熔けやすくする。媒熔剤には、バリウム、ストロンチウム、亜鉛、等がある。その他、石灰や土灰も媒熔剤の一種と見なして増加させても効果がある。ただし、これらの媒熔剤は貫入が出来やすくなり、ブクや釉薬が熔けすぎる原因にもなるのでテストを繰り返す必要がある。

b.再焼成すると熔ける場合がある。これは、一度焼成すると釉の組成が変化して熔けやすくなる場合が出来るためである。しかし、再焼成でも熔けない場合の方が多いことも考慮しておく必要がある。何度も焼成する内に熔ける場合もあるので、繰り返すことも必要である。何度も再焼成することは、長時間焼成したのと同じ結果になるためである。
 ただし、光沢のある釉の場合にはブクが出たりピンホールが出来たりするので、注意が必要である。マット釉、乳濁釉については比較的安定であるが、ツヤ釉に変化することもある。

6.ブクが起こる場合
 焼成後の釉薬の表面に気泡が出来ていたり、クレーターのような表面になっていたりすることがある。これを「ブク」と呼んでいる。ブクは、次のような場合に発生する。

(1)焼成温度が足りない場合

 温度が上昇して釉薬が熔ける際に、釉薬は最初に収縮してひび割れを起す。次に素地及び釉薬から揮発性ガスが発散して釉泡になる。この段階で焼成を終了すると、泡が残ったままの状態になって「ブク」になる。また、非常に粘りのある釉薬の場合は、この釉泡が完全に外に出ない状態で焼成が終了するためにおなじようなブクが出来ることもある。これを防ぐには、あぶりをゆっくりと行い、完全にガスを出してしまうことが必要である。また、粘性の高い釉薬はねらしに時間をかけて完全にガスを外に追い出すことも必要である。粘性の高い釉薬は、比較的流れにくいので時間をかけても問題ないわけである。従って、流れやすい釉薬と同じ窯で焼く場合には、流れやすい釉薬を温度の低い位置に置き、流れにくい釉薬は温度の高い位置に置く配慮が必要になる。

(2)焼成温度が上がりすぎた場合

 釉薬が完全に熔けた後、更に温度が上がると釉薬は熔けすぎて釉薬のガラス組成、素地の状態、釉と素地との融合状態の変化によって釉薬が煮え立って泡が出来てしまう。この状態になったら、泡が弾けてブクが出来る。特に、炭酸バリウムを使って焼成温度を下げた釉薬に発生しやすいので注意が必要である。
 これを防ぐには、温度を上げすぎないことが必要である。しかし、温度を変えられない場合には釉薬中の珪酸質原料を増やす。ただし、これもテストを繰り返し注意深く行う必要がある。

(3)本来は酸化焼成の釉薬を還元焼成した場合

 酸化金属の多い釉薬や、高火度ラスター釉のように鉛を使っている釉薬のように、本来は酸化焼成しか焼けない釉薬を還元焼成で焼くと、ブクが発生することがある。これは、還元焼成の際の炭素の影響と考えられている。

7.ピンホールが起こる場合
 焼成後に、ブクのような大きな気泡ではなくて小さな気泡が出来ていたり、小さい穴が開いていたりすることがある。これを「ピンホール」と呼んでいる。ピンホールは、次のような場合に発生する。

(1)焼成時にガスが抜けきらない場合

 焼成時に、急激に温度上昇させたり、粘性の強い釉薬を使用した場合、釉薬を厚掛けした場合には、上記「ブク」の場合と同じように、釉薬が熔ける際に出たガスが完全に抜けきっていない状態で焼成が終了してしまう。このガスが気泡となって釉中に残ったものがピンホールである。この場合は、大きいものをブクと呼び、小さいものをピンホールと呼ぶ。粘性の高い釉薬や厚掛けした場合には、ねらしに時間をかけてゆっくりと温度上昇させてガスを完全に抜き取ることが必要である。

(2)焼成温度が高すぎた場合

 上記「ブク」と同じように、焼成温度が高すぎたり、焔が一部分だけに長時間当たっているような時にピンホールが発生する。釉薬が一度熔けて、更に泡が出る現象を「釉の煮え」と呼ぶが、この煮えが起きると軽度のものはピンホールとなり、重度のものがブクになる。釉薬が熔けすぎてピンホールの出来たものは、ツヤがあり、流れて平たんになっているのが特徴である。この場合も、焼成温度を下げるか釉を熔けにくくする必要がある。

(3)素地面が粗い場合

 素地表面が粗い場合や削った後の水拭きが悪かった時、あるいは荒い土で作品を作った場合に、粘性の高い釉薬をかけると素地面と釉薬との間に空気の層が出来て、これが気泡となり釉薬の外に出る際にピンホールになることがある。これを防ぐには、釉掛けの前に釉薬を薄く溶いたものを最初にかけるか、手で素地面になすりつけて、気泡を作らないようにする。その後釉薬をかければ比較的発生しにくくなる。しかし、絶対に防げるものではないので、粘性の高い釉薬を使う場合には、粗くない素地を使うのが無難である。
 ただし、このピンホールを利用して梅花皮や柚子肌にすることも出来る。

(4)強還元焼成を行った場合

 還元焼成が強すぎた場合、煤が表面にくっついて燃える際にピンホールになることがある。この場合は、黒色から灰色のピンホールになる。これは、還元焼成から酸化焼成に戻すのが遅れたり、ねらしの時間が足りない時に起きる。再度酸化焼成で焼き直すと取れることもある。

(5)不純な金属酸化物を使用した場合

 不純な金属酸化物、例えばアンチモン、クロム、ニッケル等が釉薬や素地に混ざり込んだ場合に、これらの酸化物は高温で酸素との結合割合が容易に変わり、そのたびに酸素を取ったり放出したりするので、これがピンホールになる場合がある。

8.表面にブツブツが出来る場合
 焼成後に、釉薬の表面に白くて小さなブツブツが出来ていることがある。これは、耐火性の強い原料の粒子が熔けきらずに残ったためである。特に、天然藁灰やモミ灰を使った場合や、珪石の粒子が粗い場合に多く発生する。また、釉薬の調合がいい加減で、完全に合わさっていない場合にも発生する。釉薬を作った際に、一度100メッシュ程度の「ふるい」を通せばある程度防ぐことが出来る。ただし、斑唐津釉のようにこの現象を利用する場合もある。
 また、焼成中や窯詰めの際に天井や壁、窯道具のかけらが落ちて作品にくっつくことがある。これを「ぼろふり」と呼んでいる。窯詰めの際には、窯の天井や壁面を箒ではいてボロが出ないようにすることが必要である。また、棚板のコーティング材なども「ぼろふり」の原因になるので、窯詰めの際にはコーティング材が剥がれていないかの確認が大切である。特に棚板の下面は念入りに点検することが必要である。

9.釉が黒ずむ場合
 焼成の時に、還元が強すぎた場合や煙突の引きが弱い時に窯内に煤がたまり、これが釉薬にとけ込んだ場合には、釉薬が黒ずむことがある。釉薬に酸化鉛が含まれている時にはこれが還元されて金属鉛となり、釉が黒くなる。このような時には、沈積した煤を高温で焼き切り、さらに還元焼成の時に空気を送って燃え切らなければいけない。この操作は特に初めの方に還元がかかり過ぎると時間がかかる。
 鉛を使っていない高火度釉の場合でも、釉が灰色になることもある。これは、沈積した炭素粉末と還元された釉成分中の鉄との作用で起こる。完全に煤を焼き切った場合でも、酸素の供給が少ないとやはり灰色になってくる。この場合は、強制的に釉や素地の中から酸素を取ってしまうからである。

10.貫入とビリ
 焼成後に釉の表面に細かなヒビの入ることがあるが、これを日本では「貫入(かんにゅう)」と呼んでいて、貫乳、罅入とも書く。
 中国では貫入の事を「開片」とも「紋」ともいって、大きいものを「大開片」といい、「大開片」の蟹の爪で掻いたようなものを「蟹爪紋(かいそうもん)」といい、氷裂のようなものを「氷裂紋(ひょうれつもん)」ともいう。柳の葉のような開片を「柳葉紋(りゅうようもん)」や「牛毛紋(ぎゅうもうもん)」と称している。細かなヒビが集まっているものを「魚子紋(ぎょしもん)」と呼んでいる。
 これに対し、日本では細かな規定や名称はなく、貫入の形によって「氷列貫入」「亀甲貫入」と呼ぶ程度である。
 貫入は、素地土と釉薬の収縮率の差によって出来るものと、「後貫入」または「水和貫入」といって焼成後、長時間経つと素地の中に水分が入って素地を膨張させ貫入になる場合とがある。「後貫入」の場合は、窯出し後数日後から入りだし、数年以上続く。中国明代の青磁釉などは未だに入る場合もある。
 通常の貫入は、素地と釉との膨張係数の違いによって生じることが最も多い。素地は、掛けられた釉薬よりも加熱によって大きく膨張し、冷却では逆に釉薬よりも収縮が大きくなる。したがって、冷却の時に釉の固化とともに応力が発生し素地と釉薬の収縮の差が貫入になるわけである。
 素地土と釉薬との収縮率の差は、釉薬の方が素地土よりも収縮が大きいと貫入になり、釉薬が素地土に引っ張られる格好になって亀裂が入る。これを貫入と呼ぶ。逆に素地土の方が釉薬よりも収縮が大きい場合を「ビリ」と呼び、釉のめくれ、剥離等の原因になる。「ビリ」は、剥離の際に釉薬が紙のようにめくれるのが特徴で、場合によっては手を切ってしまう事もある。
 緻密なせっ器土や磁器土では焼成した素地の性質が物理的にも科学的にも釉薬の性質と似ており、しかも中間層(釉と素地の境目)がよく発達している場合には、貫入は生じにくくなる。したがって、磁器製品にはほとんど貫入が入らないのである。特に、磁器土で釉薬が薄い場合には全く貫入は入らない。
 貫入の防止法としては、釉薬の膨張係数が素地の膨張係数よりもわずかに小さくなるような組成とすればよい。具体的には、次のような方法が考えられる。

(1)釉はそのままで、素地の組成を変える。
 a.
カオリンの量を減らす。またはカオリンの一部を可塑性の大きい粘土に置き換える。あるいは、可塑性の大きい粘土を増やす。
 b.石灰石かマグネサイトを添加する。微粉砕して入れると素地の熱膨張率が大きくなるので石灰系の釉薬にはよく付着するようになる。
 c.長石と粘土を減らし、その分だけ珪石を増やす。または素地の珪砂を微粉砕にする。
 d.素焼き温度を高くするだけで防止できることもある。

(2)釉の組成を変える。
 a.
珪砂、珪石類とカオリン、蛙目粘土の量を多くする。片方だけでも良い。
 b.釉薬に珪石、マグネシウム、タルク等を若干量入れる。
 c.木灰を使っている場合には石灰石に置き換える。
 d.木灰を使っている場合には石灰石に置き換える。
 e.塩基成分のソーダの量を減らす。あるいはソーダをカリに置き換える。
 f.珪酸の変わりに硼酸を用いる。

 この他、釉の粉砕を微粉砕にしないで薄くかけたり、ねらしの時間を多く取って釉に素地中の珪酸分と粘土分が多くとけ込むようにする、すなわち中間層が出来やすくする。または、これらの方法を組み合わせて使用する等がある。
 また、貫入は急冷した場合には細かくなり、入りやすくなる。逆に徐冷すると大きくなり、入りにくくなる。

 日本では、特に茶道関係では貫入はかならずしも釉の欠点として扱わずに、逆に貫入は鑑賞のひとつとして扱っている。朝日焼や薩摩焼、京焼、萩焼等は、貫入の入ったものが永年使うことにより渋く変化していく様が茶道の精神とも結びついて美意識のひとつになっている。また、貫入を奇麗に見せることで、扱いの大切さも必要とされているのである。
 更に、貫入に色を付けて楽しむ方法も考案されている。焼成直後の作品を墨汁やトチ渋に浸けると黒く変化し、弁柄汁に浸けると赤く変化する。栃渋に浸けると、徐々に作品自体に古色が付いてくるようになる。青磁釉などで貫入に赤い色が付いているのは、この技法によるものである。
 この貫入に色を付ける方法は、タイミングも重要になる。貫入は作品が冷めると同時にじわじわと入るので、タイミングが早いと大きい貫入にしか色が付かないがタイミングが遅すぎると模様が小さくなってしまう。
青磁釉などで、貫入に色が付いているところといないところがあるのは、このタイミングを上手く利用した手法である。