酸化と還元

酸化焼成と還元焼成について

 焼成方法には、酸化焼成と還元焼成、中性焔焼成がある。酸化焼成とは、英語でOxidized Firingと言い、略してOFと呼ぶ。還元焼成は英語でReduced Firingと言い、略してRFと呼ぶ。

酸化焼成と還元焼成は、燃焼に必要な酸素の量が十分に与えられているかいないかの違いである。完全燃焼と不完全燃焼とも言い、ろうそくの場合だと、酸化焼成というのは外炎のさらに外側で目に見えない部分を言い、還元焼成というのはいわゆる外炎(炎が赤い部分)の事である。(内側の黄色い部分については、蝋が気化している部分で、燃焼していない部分である。)
 やきものの焼成についても全く同じで、酸化焼成は通常の焼き方であり、燃焼に必要な空気(酸素)を十分に与えて焼成する方法である。このために、素地中及び釉薬中の酸化金属は、酸化金属独自の色あいに変化する。
 これに対し、還元焼成は焼成中に空気の量を少なくして焼く方法で、焼成のために必要な酸素が少なくなるので、素地中及び釉薬中の酸素を取り込んで焼成することになる。このために釉薬及び素地中の酸化金属に付随する酸素の分子が2価から1価に変化し、酸化焼成とは異なった色あいになる。たとえば、鉄の場合は、Fe(酸化第二鉄)の状態から、FeO(酸化鉄)の状態に変化する。酸化焼成だと酸化第二鉄の状態でいるために、鉄分が少ない時は黄色、多くなるにしたがって飴色から黒色に変化するが、還元焼成だと酸化鉄の状態になるために鉄分が少ない時は青色、多くなるにしたがって緑色から茶色に変化する。
身近な例でいうと、地肌が露出している場所で黄色もしくは橙色、茶色をしている土は酸化の状態の土である。沼地、川などで土を掘ると青っぽい土が出てくるが、これは酸素が少ないために還元状態になった土である。
 銅の場合は、酸化焼成だと緑色に発色するが、還元焼成だと赤色になる。しかし、赤色になる銅は2%程度でよく多く入れすぎた場合には緑色の中に赤色の斑点が出たようになってしまう。織部釉を還元焼成した場合はこのような状態になる。
 また、酸化焼成の場合は暖まった空気は自然に煙突から上昇して常に窯の内部は気圧が低い状態(マイナス圧)の状態になっている(覗き穴にろうそくを近づけるとろうそくの火が窯の中に傾く)が、還元焼成の場合は煙突から外に出る空気の量を押さえて不完全燃焼させるために窯内部は気圧が高くなる(プラス圧)。要するに圧力釜の中で焼成している状態になるために、釉薬自体の密着がよくなり素地自体も焼き締ったものになる。したがって、同じ温度、同じ時間で焼成しても、酸化焼成よりも還元焼成で焼いたものの方が強くて焼きしまったものになる。しかし、焼締る分大きさも小さくなるのである。

釉薬の色変化について

 次に、主な金属の酸化焼成と還元焼成の違いを色に基づいて簡単に記述する。実際の発色については、釉薬の種類、焼成、金属類の組み合わせで複雑に変化するので、ここでは概略だけにとどめる。

          酸化焼成      還元焼成
鉄(3%以内)   黄色        緑色(乳濁釉で青色)
鉄(6%程度)   飴色        濃い飴色
鉄(9%程度)   黒色        茶褐色
銅         緑色        赤色(辰砂色)
コバルト      紺色        青色
チタン       象牙色       黄色
チタン+鉄     青色        黄緑
クロム       緑色        灰緑色
マンガン      灰色(鉛釉で紫色) 灰色
素地土の色変化について

 素地土の場合の色変化については、主に鉄分の多い素地土で変化が大きい。透明釉を施すことを前提にすると、
 鉄分の多い土の場合には、酸化焼成で象牙色から鉄分が多くなるにしたがって茶色味を帯び、最大黒色になる。還元焼成の場合には、茶系統の色合いから、青みを帯びた灰色になる。ただし、釉薬が厚掛けの場合には灰色にならずに茶色になる場合もある。また、還元焼成の場合には、釉薬の厚さによってかなり素地土の色合いが変化する。釉薬の厚い部分は灰色になるが、薄い部分は茶色のままになることもある。
 白色の素地土の場合には、酸化焼成よりも還元焼成の方が白色が強調される。これは、酸化焼成が象牙色の色合いを帯びた白色であるのに対し、還元焼成は青みを帯びた白色に焼き上がるためである。ただし、還元焼成の場合には、土中の鉄分が表面に吹き出てきて、黒ボツになる場合があるので、これを模様とする場合以外では、白土は酸化焼成にする方が無難である。

 練り込みの場合にも、焼成は原則として酸化焼成である。これも、酸化金属によって還元焼成の場合には色合いが全く変わってしまうおそれがあるためである。還元焼成でも色変化の少ない練り込み用絵具は、コバルトの青系統と陶試紅のピンク系統が代表である。

色変化についての考察

透 明 釉

実際に焼成してみると、酸化と還元の違いがよくわかる。写真1は、信楽土と山土のブレンドで比較的土味の出る土に石灰系の透明釉をかけて酸化と還元で焼成したものである。左が酸化、右が還元焼成である。
写真を見ればわかるとおり、酸化焼成のものはほとんど白に近い象牙色であるのに対し、還元焼成の方は土の中の鉄分が表面に浮き出て斑点を出している。また、釉薬の薄い部分は茶色くなり、濃い部分は土の中の鉄分と釉薬が反応して薄緑色に近い色合になっているのがわかる。このように、酸化焼成の場合には上品な色合になり、還元焼成の場合には土味の出た色合に仕上がる。

藁 灰 釉

次に、藁灰釉をかけた場合についてみてみる。これも透明釉とほぼ同じような結果になっているが、藁灰釉の場合には天然土灰を使用しているために、酸化焼成の場合にも土灰の中の鉄分の粒が茶色い薄い斑点を出している。藁灰のために、ツヤは半ツヤ状態であり、乳濁しているのがわかる。
これに対し、還元焼成の場合には、この鉄分の斑点が焦げ茶色をしており、透明釉と同じように釉薬の薄い部分は茶色く変色している。
色合は、酸化焼成がほとんど白に近い象牙色をしているのに対し、還元焼成の場合は、薄い灰色がかった緑色をしている。これは、釉薬及び素地土の中の鉄分の所為である。

白 萩 釉

次に、白萩釉を掛けた場合をみてみる。この釉は、藁灰釉に比べると藁灰の量が少ない分、土灰分が多くなっている。このために釉に含まれる鉄分の量も多めになって、色変化も藁灰釉に比べると大きくなる。しかし、藁灰釉に比べるとツヤが出ている。
鉄分が多い分、酸化の場合は象牙色になり、還元焼成だと薄緑色になる。また土灰が多いために、酸化焼成、還元焼成ともに、灰に含まれる斑点が目立つようになる。その他については、ほぼ藁灰釉と同系である。

ビ ー ド ロ 釉

この釉は、さらに土灰の量が多くなり、ほとんど灰だけに近い釉薬である。このために、酸化と還元の色変化は著しくなる。
酸化の場合は、象牙色になり、還元焼成だと青磁釉に近い緑色である。酸化と還元との違いがもっともわかりやすい釉薬のひとつであろう。
なお、この釉は、流れやすく、ツヤがあり、貫入が入るのが特徴である。(詳しくは釉薬解説の項を参照)

白 マ ッ ト 釉

この釉は、ジルコンの乳濁作用を利用した釉薬である。したがって、酸化焼成でも還元焼成でも白くなる。しかし、比べてみると酸化焼成が黄色みを帯びた白色に対し、還元焼成は青みを帯びた白色になる。
また、全ての釉薬と同じように還元焼成だと土中の鉄分が外に浮き出して黒い斑点を作るようになる。これを土味と見るか欠点と見るかによって、酸化焼成が好みの人と還元焼成が好みの人に別れるようである。なお、還元焼成の方は釉薬の厚さのムラが色変化に現れやすくなるので、2重がけ等に適している

志 野 釉

志野釉の場合は、釉の下に鬼板による鉄絵を描いている。この釉は、酸化の場合には下の鉄絵が釉の下に隠れているのに対し、還元焼成の場合には一部釉薬の薄い部分は釉の上に茶色く出ている部分が見受けられる。これが志野釉の緋色の特徴である。やはり、この釉も酸化焼成の場合は上品でおとなしくなるのに対し、還元焼成の場合は荒々しくなるようである。ちなみに、昔の志野釉は左の酸化焼成のような焼き方が主流であったが、現在では右の還元焼成のような焼き方が主流になっているようである。


ガス窯の場合

 ガス窯で還元焼成を行う場合には、煙突に付けられているダンパーを差し込むことによって窯内の空気が煙突から外に逃げ出さない状態を作り、還元焼成を行う。ダンパーを深く差し込むと還元が強くなり、浅く差し込むと還元が弱くなる。ただし、ダンパーだけの場合には、ダンパーを閉じた時のわずかな隙間を通って窯から熱が出るために、一カ所だけに熱が集中して煙突が部分的にかなりの熱を帯びることになるので、強還元を行う際は、ドラフト又は空気ダンパーを併用して用いる方が窯のためには良い。
 ドラフトはエアーダンパーとも言い、煙突の下部にあって、レンガを何個か埋め込むような構造になっており、そのレンガと開口部との隙間から冷えた外気を煙突内に送り込むことにより、空気の幕が出来て窯内の空気が外に出なくなる一種のエアカーテンの役目をするものである。常に外気が流入するために、煙突内の熱もそれほど上がらなくなり、ダンパーと併用することにより、かなり強めの還元状態を作ることができる。ドラフトで還元の強弱を行う時は、レンガの隙間と開口部の隙間を大きくする(煙突に流入する空気量を多くする)と還元が強くなり、小さくすると還元が弱くなる。
 還元状態を知る目安は、覗き穴から炎が吹き出していれば窯内は還元状態であるということになる。炎の長さが10cm程度の時が最も良い還元状態である。炎と覗き穴の間が大きく出来る場合は、強還元状態である。また、炎があまり出ない場合は還元不足ということになる。ただし、弱還元焼成や中性焔焼成の場合には、少な目の還元状態で焼くこともある。

電気窯の場合

 電気窯の場合には、炎が全く出ない焼成方法である。空気が流通しないために完全な酸化焼成とは言えないが、どちらかと言えば酸化焼成に近い雰囲気の焼き方になる。
電気窯で還元焼成を行う場合には、窯内部に炎を送り込んで焼く還元焼成方法と、燃えやすい材料を窯の中に投入してこれを自然発火させて還元雰囲気にする方法とがある。
 炎を入れる方法は、還元機能付き電気窯として市販されているもので、通常はガスバーナーを用いるが、薪、炭等を用いる場合もある。しかし、この場合には薪等から出るガスのために電気窯の電熱線を痛めるので、注意が必要である。
 燃えやすい材料を窯内に入れて燃焼させる方法も結果的にはバーナー等を用いる方法と同じであるが、こちらは還元機能付きでない電気窯で主に用いる方法である。燃える材料としては、ナフタリン、炭、薪または市販の還元チップ等を用いる。最近では、還元材料として炭化珪素等の釉薬に混ぜて用いるものもある。

灯油窯の場合

 灯油窯の場合には、灯油の量を多くして、不完全燃焼にする場合と、ガス窯と同じようにダンパーで還元雰囲気にする場合とがある。不完全燃焼は、灯油の量に対して空気量を少なくして燃焼する方法である。ただし、不完全燃焼にした場合には、煙と粉塵が発生するので、付近に何もない状態で無ければ行えないし、一酸化炭素ガスが発生するので、常に換気に注意しなければいけない。ダンパーで還元にした場合にも、煤等は発生するので、注意が必要である。
 しかし、灯油窯の場合は炎が出て還元状態になるので、ガス窯や電気窯とは違った雰囲気に焼成できるし、作品を炎に当たるように置くことによって、緋色が発生したり、窯変が発生したりして、より薪窯に近い雰囲気を出すことが出来る。薪を投入できる灯油窯の場合にはこの効果が顕著に現れる。ただし、薪を入れすぎると窯内の煉瓦が薪の灰によるソーダ分と反応して一種の釉薬になって窯の内部表面を覆ってしまう。下手をすると扉が開かなくなることもある。

薪窯の場合

 薪窯の場合は、薪を入れた時は還元焼成になるが、その後薪が燃えている時は酸化焼成になる。還元焼成を続けるには、常に薪を燃やし続けなければいけないので、ダンパーの開閉で還元焼成にする場合の方が多い。

 還元の雰囲気というのは、大気中の気圧の変化にも影響され、晴れている日は大気中の気圧が高いために煙突の引きがよくなり、逆の場合は悪くなる。また、夏と冬とでも違ってくる。このために、毎回同じ還元状態を出すことは非常に難しい問題である。