本来、釉薬を掛けるのには、定説はありません。どのように掛けても自由ですし、自分で掛けやすい方法を行えば良いわけです。
しかし、初心者に「ここに釉薬があるから好きに掛けなさい」と言われても、どうしていいか分かりません。
そこで、ここでは釉薬の掛け方の基本的なものを紹介します。この掛け方を忠実に実行しても良いですし、応用で新しい掛け方を探し出してもかまいません。ここで紹介しているのは、あくまでも釉掛けの基本だけです。
- 釉掛けの基本
- 釉薬は、よくかき混ぜること
- 釉薬は、沈殿させないこと
- 釉薬の上澄みは使わないこと
- 作品は、一気に沈めましょう
- 取っ手を持っちゃダメ
- 作品は、斜めに入れて、斜めに出しましょう
- 浸ける時間は、どの程度なの?
- 水が廻るって・・・
- 釉掛けの前にやること
- 作品の汚れを取る
- 皿などは撥水剤を塗りましょう
- 下絵付をしましょう
- 釉薬の掛け方
- 高台のあるものは高台を持とう
- では、高台のないものは?
- もっと安く出来る方法
- もう一つの工具
- 皿の場合は
- 皿用釉ハサミもあります
- 餅網を使おう
- 釉薬を掛けた後やること
- 手で持った部分に釉薬を着けましょう
- 裏面の釉薬を剥がしましょう
- 厚掛けになった部分の釉薬を削り取ります。
- 初心者用テクニック
- 空気を追い出すテクニック
- 初心者用のテクニック(その1)
- 初心者用のテクニック(その2)
- 初心者用のテクニック(その3)
- 大物の釉掛け方法
- 霧吹きを使う方法
- L字型の霧吹きは、何故楽なのか
- L字型の霧吹きを加工しよう
- 大皿に霧吹きを使う方法
- 壺等に霧吹きを使う方法
- 柄杓を使ってかける方法
- 釉薬が沈殿したら・・・
- 沈殿防止剤を入れよう
- 攪拌機を使おう
釉薬は必ず沈殿します。これは水に溶けない物質で出来ているからです。だから、使う前には必ず底からかき混ぜて使いましょう。横着をして、使う部分だけをかき混ぜるというのはダメです。何故かというと、釉薬が沈殿するときに、重いものから先に沈殿するからです。長石が下に沈殿して、その上に灰が沈殿するようになります。したがって、上の方だけ混ぜて使うと、極端にいうと灰だけを掛けていることになります。必ず、下から全てをかき混ぜて、均一な調合になるようにしましょう。
釉薬はすぐに沈殿するので、何度もかき混ぜて使いましょう。釉掛けの最初はもちろんのこと、途中でも何度も撹拌して、常に均一の釉薬をかける必要があります。
沈殿しやすい比重の重いものが入った釉薬の場合だと、使おうと思ったら沈殿していたということもあります。目安としては、10個かけたら、一旦かき混ぜるという感じです。
タンクに浸ける時には、上の方ではなくてなるべく下の方の釉薬を使うようにしましょう。上の方は、どうしても釉薬が沈殿するので薄い釉薬になりがちです。自分ではちゃんと掛けたつもりでも、上済みの部分にしか作品が入っていないと、出来上がったら作品がムラになっていたということが起こります。釉薬を掛けた時には、一見して綺麗に見えますが、焼いてみないと分からないのです。
作品を浸ける時は、一気に浸けて一気に出すことです。ゆっくりと入れると、最初に入れた部分がどんどんと釉薬を吸ってしまいますので、後から入れた部分とに濃淡が出来てしまいます。
素焼の状態の取っ手は、まだしっかりとくっついている訳ではありません。うかつに取っ手を持って釉掛けすると、取っ手が取れたり、破損する危険性があります。取っ手は本焼終了後まで極力持たないようにしましょう。もちろん、釉掛けの際はもっとも危険です。
作品を釉薬に入れる際には、完全に空気が抜けるように斜めにして、斜めにした方向から入れます。
入れたら、中ひっくり返して空気を完全に出してから、入れた方に出します。これは、手が回らないので、同じ方にしかでません。
出す時は、少し斜めに傾けて、中の釉薬を出してから出します。少しでも傾けると、隙間から空気が入りますので、楽に出すことが出来ます。そのまま出そうとすると、中の釉薬の水圧でかなりの力が必要になり、出すときに釉薬が飛び散る危険性が出ます。
作品を釉薬に浸ける時間は、別に決まっていません。長く浸けると濃くかかるし、時間が短いと薄くかかります。といっても、初心者には長いというのがどの程度か分からないと思いますので、標準の濃さの場合で大体の目安として1秒から2秒だと思ってください。
しかし、これはあくまでも標準だということです。磁器や半磁器製のように作品の厚さが薄いと、この時間では素地の仲間で水が廻って、剥離する危険性がありますし、粗い土の場合だと、この時間では足りないことがあるかもしれません。要は、自分の体で覚えるしかないということです。
薄く掛けたい場合には、この時間を短くすれば良いですし、厚掛けしたい場合には、長くすればいいです。
釉薬を厚くかけようとして、図のように長時間釉薬の中に浸けておくと、両側から素地の中に水分がどんどんと浸透していきます。やがて素地土の中心にまで水分が達すると、内部で水分が飽和状態になり、(これを水が廻ると表現します)素地に吸着力がなくなってしまい、釉掛けの時点で釉薬が滑り落ちたり、乾燥時点で剥がれてしまったり、または、焼成の際に釉薬がめくれたり、剥がれ落ちたり亀裂が入ったりしますので、長時間釉薬に浸すのは非常に危険です。これは、薄い素地だと比較的早く起こる現象ですので、薄い素地の場合には、注意が必要です。したがって、必要以上に厚掛けする場合には、何度も釉薬を重ね掛けしなければいけません。
左写真が、水が廻ったために起こる釉薬のメクレです。メクレは、釉掛の際に作品にホコリが付いていても起こることがあります。(下記「作品の汚れを取る」参照にしてください)四角くめくれた釉薬が折れ曲がって下にくっついたり、亀裂が入ったりしています。ヘタをすると、棚板にまで垂れ下がって、作品を割らなければどうしようもなくなります。
皿などの場合は、比較的面白くめくれます。めくれた箇所の釉薬が丸まろうとする性質から、球のように別の部分にくっつき、めくれた箇所は無釉の状態になります。しかしながら、狙って行えるというものではありません。
素焼した直後のものは、ホコリや手あかが付いていないので、そのまま釉薬をかけることが出来ますが、時間が経つと、ホコリが付着したり、何度も手で持っているうちに手あかが付いたりします。ホコリや手あかが付着すると、その部分は釉薬が素地に吸い込まない状態になりますので、釉ムラや釉飛び、メクレ、剥がれの原因になります。(詳しくは、釉薬の失敗の項を参照にしてください)また、削りカスや土ホコリが付着した状態で素焼が焼き上がる場合もあります。
そこで、釉掛けの前には必ず水で湿らせたスポンジ等で作品の表面を拭くようにしましょう。この一手間で確実に安全に焼くことが出来ます。
この場合、不必要にサンドペーパーでガリガリと表面を擦って、綺麗にしようとする人がいますが、表面の細かな土だけを落として、逆にざらつくことになりますので、逆効果です。また、このサンドペーパーの粉や表面の粉があるとメクレや釉飛びの原因になりますし、釉薬のタンクにこの粉が入ると、次に入れた作品に粉がくっついて、ボロの原因になりますので、ペーパーは極力避けるべきだと思います。
皿などで底面に釉薬を塗らない場合には、撥水剤を使いましょう。釉掛けした後で剥がし落とすか、スポンジ等でぬぐい取ってもいいのですが、面積が多くなると非常に面倒ですし、釉薬も勿体ないです。
また、高台部分の削り跡を見せる場合などや茶碗などの場合には、土見せといって、あえて高台部分の釉薬を掛けない場合もあります。萩焼などで下の方をピンク色にしたい場合なども高台部分には釉掛けしません。この場合なども、初心者の場合は撥水剤を塗っていた方が安全で綺麗に土見せを残すことが出来ます。
撥水剤には、3種類あります。油性のもの、水性のもの、それにパラフィンを熔剤で溶いたものです。左写真の左側が水性撥水剤、右側が油性撥水剤です。どれを使ってもいいのですが、油性のものは速乾性がありますが、垂れると剥がすことは出来ません。また、長期間経つと蒸発して濃くなって量が減ります。あまり使用しない場合にはお薦め出来ません。
水性のものは、乾燥に時間がかかり、撥水効果が油性に比べて若干落ちますが、水で薄められるのと、筆を洗うことが出来るので、便利です。
パラフィンを使ったものは、固まりやすいので、よく振って使う必要があります。また、油性や水性のものに対して塗りにくいのと色が着いていないので塗った部分が分かりづらい欠点があります。ただし、撥水効果は大きいようです。
下絵付をするものは、釉掛けの前に行います。下絵を描く時の注意点は、描いた下絵には絶対に手を触らないことです。下絵にうっかりと触ると左写真のように、下絵が汚れたり薄くなったり、場合によっては消えてしまったりします。下絵を描いていると、絵を描く方に神経が集中して、何処を持っているかという事を忘れてしまうために起こる現象です。したがって、下絵を描くときは作品の上下を持って描くのが基本です。これならば、何処を持っても安心して描くことが出来ます。
下絵には、呉須、鉄絵、顔料、陶芸用クレヨンと種類があります。初心者は、呉須や鉄絵を使用するよりも、チューブ入りの陶芸用絵具を使うのが失敗する確率が少なくて、安全です。チューブ入りの絵具には、顔料と糊材が混ざっていますので、そのまま水で溶いて使用できます。ただし、注意することは、酸化用(陶器用または半磁器用)と還元用(磁器用)とでは色が違ってきます。左写真の上が還元用、下が酸化用です。還元用の方が色が少ないのが特徴です多くても8色です。間違って酸化用の絵具を還元焼成すると、黄色や緑色は全く違った色になりますので、注意が必要です。還元焼成するときは、還元用の磁器用絵具を使った方が安全です。磁器用となっていますが、もちろん陶器にでも問題なく使用できます。もちろん、これを酸化焼成しても大丈夫です。ただし、色は還元焼成の方が鮮やかに出ます。
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陶芸用クレヨン(陶彩パス)は、仕上がりが本当のクレヨンのように仕上がりるものです。筆の勢いとか筆圧とかに関係なく素朴に描けますので、絵の得意でない人にもお薦めです。絵はちょっとという人は、一度試してみてください。
描き方は、クレヨンというよりはチョークやパステルのような感じです。濃く描くと粉が飛び散りますが、これは息で吹いて飛ばせば大丈夫です。一般に売られているのは6色(ピンク、黄、緑、黒、茶、青)が多いようですが、10色とか、パステル調のものもあります。
クレヨンも本来は酸化用ですので、還元焼成する場合には、ピンクと黄色はほとんど色が出ません。それ以外は還元焼成しても問題ありません。
左写真が、チューブ絵具とクレヨンの仕上がり雰囲気の写真です。左側がチューブ絵具の磁器用絵具、右側がクレヨンで描いたものを酸化焼成したものです。色が薄く付いているのは、塩化コバルトと硫酸銅を塗っているためです。
チューブ絵具は、ある程度重ね塗りも可能ですが、色が変化して違う色になる可能性もありますので、試験焼成してからの方が安全です。
呉須や鉄絵を使用する場合には、乳鉢でよく摺って使います。使用する前に、番茶で薄めると、よく伸びると言われています。これにCMCなどの糊剤を入れると、描きやすくなります。ただし、濃いと剥がれるし、薄いと色が出ません。濃さの見極めが非常に難しく、感に頼るしかありません。初心者の場合は、絵具の青色や茶色、黒色を使った方が安全だと思います。
釉掛けするには、通常はドブ掛け(ズブ掛け、ドボ掛けとも言います)といって、タンクの中に作品を浸けて釉掛けします。
高台のある作品は、高台を持って掛けると口元に手跡が残らないので、比較的綺麗に掛けることができます。初心者は、なるべく高くて持ちやすい高台を作りましょう。
高台を持つときは、出来れば指3本で持つようにしましょう。2本では安定しないので、取り落とす恐れがあります。大物などの重たいものは3本では無理な場合がありますので、その時は指の数を増やしていきます。茶碗や湯飲みなどは3本で簡単に持てます。
高台が持てない場合や、高台の無い作品の場合は、左写真のような釉ハサミを使うと綺麗にかけることが出来ます。釉ハサミの使い方は、作品を上下で持っても左右にはさんでも使えます。ただし、薄いものを左右にはさむと、力の加減で割ってしまう場合もありますので、慣れが必要です。
ただしこの釉ハサミは、構造上大きなものとか重いものは無理です。また綺麗にかけるには、たっぷりの釉薬を必要としますし、手で掛けるように簡単に使えるとというものでもありません。練習を要します。しかし、上手く掛けられるようになると、簡単で手跡が付かないので、便利な道具です。
釉ハサミは割と高価なので、簡単に掛けられる方法を書いておきます。これも、少し練習が必要ですが、釉ハサミほどの練習を必要としませんし、大きさに合わせて数種類作っておくと便利です。
これは、左写真のように針金を曲げて加工するだけのものです。途中で丸く輪になっているのは、別に意味はありません。手と作品との隙間を埋めるためと、針金の大きさを簡単に広げるようにしただけのものです。
使い方は、左写真のように、手で針金と作品とを持って、釉薬に浸けるだけです。口の部分を手で持たないので、手の跡を付けずに釉薬をかけることが出来ます。また、この方法は、釉ハサミと違い、直接手で作品を持つことが出来るので、作品を取り落とすということも少なくなると思います。コツは、手で針金を持つ部分と作品を持つ部分を90度の位置に保つことにより、しっかりと作品を支えることが出来ます。何度か練習すれば、直ぐにコツがつかめると思います。
針金は、作品の当たる部分を金槌で叩いて細くしておくと、作品に当たる面積が少なくなり、釉掛けの跡が目立ちにくくなります。後で、軽く指先でこすっておけば、更に目立たなくなります。
もうひとつ、針金を使った釉掛け工具を紹介します。これは、瀬戸で「爪」と呼ばれるものを真似て作ってみたものです。
針金を丸い筒に螺旋状に巻き付けていきます。更に、写真のように2本の爪を取り付けます。爪は、持った時に滑らないように、先端を曲げておきます。
これを、親指に写真のようにはめ込みます。親指の先端部分だと作品を持った時に滑り落ちる危険性がありますので、第一関節が中心にくるくらいまでしっかりと入るように針金を調節します。第一関節よりも内側に入れば、釉掛けするときに第一関節を曲げますので、落ちる心配はなくなります。
これを、写真のように持って釉掛けします。通常は、親指でそのまま口の部分を持つのですが、この「爪」で持つと、作品に触れる部分は、爪の2ヶ所だけですので、綺麗に釉薬をかける事が出来ます。
本物の「爪」は、指ぬきのように硬い筒なのですが、これだとどうしても手に違和感があって、作品が滑り落ちそうなのですが、これは針金を螺旋状に巻いていますので、指に当たる部分もしっくりと違和感がありませんし、指を曲げても一緒に曲がってくれます。また、針金の先端を折り曲げて作品が滑り落ちないようになっていますので、安心して釉掛けが出来ます。
左写真が、実際に釉掛けしたものです。矢印の部分が爪の跡ですが、肉眼で見てもそれほど目立ちません。少し針金の跡が残る程度です。針金の跡は、後で指でならせばほとんど分からない状態になります。爪を2本にすれば、まず取り落とすということもありませんし、実に安定して釉掛けすることが出来ます。
ただし、この方法では皿のように幅のあるものは無理です。基本的な釉薬の掛け方は、両手をチョキの指にして作品の端を持ちます。皿の場合は、小さいものでも必ず両手で持った方が安全です。片手で持つと、どうしても釉ムラが出来てしまいます。この時、皿の下の部分を持つようにします。
この持ち方は、一見不安定ですが、4本の指でしっかりと挟むと安定します。この体制で釉掛けするには少し練習が必要ですが、簡単に出来るようになります。
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このままの状態で、斜め上から斜めに釉薬に入れ、そのまま円を描くように水を切って出します。場所が無い場合には、入れた方向と同じ方向に出してもかまいませんが、必ず水の抵抗がないように、釉薬に入れましょう。
この方法は、どうしても手の跡が残るので、お皿の裏側を持って、なるべく目立たないようにします。手の跡は、筆で後から釉薬を塗って修正します。
どうしても手跡を残したくない場合には、皿用釉ハサミというものあります。しかし、これは結構高価なので、あまり一般的ではありません。むしろ、次に紹介している餅網を利用したものの方が使いやすさも値段も断然お得だと思います。釉ハサミを使う場合は、それほど大きいものには向きませんし、タンクの大きいものを必要とします。ただし、釉掛けは楽に行えます。
餅焼網を加工した釉掛け道具を紹介いたします。これは丸い餅網に3ヶ所ほど針金で取っ手を付けただけのものです。更に針金で皿を押さえる棒も作っておきます。この棒は、針金でなくてもかまいません。。
この網に皿を載せて、針金で中心を押さえて釉薬に沈めて釉掛けします。掛け方は、上記の通りですが、それほど大きくする必要はありません。水が切れればかまいません。
しかし、この方法は釉薬から皿を出す時が多少気を遣います。針金で押さえていますが、しっかりと押さえてないと皿がずり落ちる危険性があります。また、釉薬のタンクが相当大きくないと、無理です。少なくても餅網の1.5倍はないと作業が出来ません
大皿の場合だと、大きすぎてバケツに作品が入らない時があります。このような時には、バケツの中の釉薬を広くて浅い容器に移し替えてから釉掛けをします。かけ終わったら、容器の釉薬をバケツに移し替えて、その後ゴムヘラ等で綺麗にぬぐい取って、更にスポンジ等を使って釉薬を取り出すと、ほとんど釉薬を取りきることが出来ますので、釉薬がそんなに無駄になることもありません。
釉薬を掛けた後は、乾燥させます。乾燥も、釉薬の種類によってまちまちです。長石や石灰系の釉薬は比較的乾燥が早いですが、粘土や天然灰の多い釉薬はどうしても乾燥が遅くなります。
手で持つ部分は、どうしても釉薬が着きません。手で持つ部分は、なるべく目立たない位置を持つようにしましょう。(例えば、取っ手のあるものは取っ手の付近が目立たない部分ですし、絵が描いているものは絵の反対側です。)
釉掛けが終った時に釉薬の付いた手で釉薬の付いていない部分を触って、釉薬を置くのが釉掛けの一番てっとり早い方法です。ただし、ゆっくりしていると、手に付いた釉薬が乾いてしまってこれが出来ません。
左図のように、手で押さえた部分には手にも素地にも釉薬がかかっていません。そこで、手を下にして、手の横に付着している釉薬が自然に溜まるのを待って、素地の釉薬が掛かっていない部分に釉薬をのせます。そうすると、盛り上がるように釉薬をかけることが出来ます。
手に付着した釉薬がなかったり乾燥してしまった場合は、刷毛で釉薬を塗ります。刷毛を使う場合は、塗るのではなくて釉薬を盛り上げて置くという感じになります。塗るという気持ちだと、どうしても釉薬を引っ張ってしまって、剥がし取ることになりかねません。刷毛にしっかりと釉薬を含ませて、盛り上がるように置いていくことです。
盛り上がった釉薬は、後で削り取ります。
皿などは撥水剤を塗った場合は、底裏面の釉薬は一応弾いていますが、どうしても弾ききれない釉薬が水玉のように付着しています。また、高台のあるものは高台の裏の部分に釉薬が付着していますので、これを剥がす必要があります。剥がし忘れると、棚板に作品がくっついて、割らないと取れなくなります。
剥がし刷毛は、シュロや芦を束ねたもので、陶芸材料店でも買えますし、大きさもいろいろとあります。値段もそれほど高くはありませんが、自分でもシュロの箒などで簡単に作ることができます。
釉薬を剥がすには、釉剥がし刷毛というものを使うか、あるいはスポンジを水で濡らした後絞って釉薬を吸い取ります。剥がし刷毛の場合は、粉末が飛び散りますので、屋内で行うには不向きな作業です。これに対してスポンジを使う場合は、釉薬を吸い取りますので、飛び散る心配はありません。ただし、スポンジは常に釉薬を取り除く必要があります。
釉掛けすると、どうしても手で持った部分とか、釉薬が垂れた部分、後で筆で塗った部分の釉薬が厚くなります。この場合は、厚くなった部分の釉薬を削り取っていきます。ただし、釉薬をムラに掛けたい場合や垂らした跡を出したい場合には、残しておいてもかまいません。しかし、白マットや志野釉のように粘性のある釉薬の場合は、あまり残すと厚い部分の釉薬が周りの釉薬を引っ張って、メクレの原因になりますので、極端な厚みは危険です。
釉薬を剥がすには、手のひらで取れる場合は手のひらを使います。綺麗に取りたい場合には、鋭角になった細いカンナを使って、丁寧に同じ厚さになるように削り取っていきます。別に、この形のカンナを使う必要はありません。自分で使いやすいものを使えばいいということです。ただし、平らな部分が多い方が使いやすいと思います。
釉薬を剥がす場合には、カンナを軽く持って、手前から向こうに動かしてけずります。薄く何度も削りながら厚さを調節します。一度に削ろうとすると削りすぎてしまいます。また、向こう側から手前に削ると、どうしても厚く削りすぎてしまうことになります。最初は、なんとなく慣れないのですが、コツが分かれば、簡単に出来るようになります。くれぐれも、削りすぎないことが大事です。
と、いうほど大層なものではありませんが、知っておくと少し便利ということを書いておきます。
釉掛けする時に、中に空気が入って釉薬がかからないことがあります。慣れている人は、ガバガバッと上下にゆすって中を真空状態にして吹き上がった釉薬で内側を掛けています。この方法が、もっとも釉薬を均一に素早く掛けられる方法です。しかし、初心者には難しいものです。かなりの練習を必要としますし、何度も失敗して釉薬が厚くなったりムラになったりします。でも、練習次第では必ず出来るようになりますので、チャレンジしてもいいでしょう。ただし、上手くなるには、相当数の失敗作の覚悟が必要です。
慣れない人は、先に内側に柄杓で釉薬を入れて、この釉薬を出すと同時に外側を沈めて釉掛けします。この方法が一番確実ですし、プロでもこの方法で釉掛けしています。ただし、内側の釉掛けをゆっくりと行うと、内側と外側の釉薬の厚さにムラが出来ますので、なるべく素早く行うことが重要です。
釉薬の掛け方は、左写真のように、片手で作品を回しながら柄杓で流しながら掛ける方法ととりあえず作品の中に釉薬をたっぷりと入れて、内側を作品を回しながら釉薬を出す方法があります。作品を回しながら釉薬を掛ける方がムラになりにくいですが、右手と左手が同時に違うことをするので、少し練習が必要になります。
左写真が、作品の中に釉薬を入れて、回して内側に釉薬を掛ける掛け方です。この方法の場合は、内側だけ釉掛けするとか、内側と外側とで違った釉薬を掛ける場合などに応用出来ます。初心者の場合は、こちらの方がむしろ綺麗に掛けられるかもしれません。
いちいち内側に釉薬を入れるのが面倒という人は、作品をタンクに入れたら2、3度大きく左右に振って、空気の層を移動させましょう。そうすると、内側に空気が入っていても、この空気の層が移動するためにムラなく釉薬をかけることが出来ます。
釉掛けする時に、慣れない頃はどうしても力を入れて持つようになりますが、釉掛けがだんだんと上達し、作品を軽く持てるようになったら、だんだんと力加減が分かるようにり、釉薬が掛からない面積も小さくすることが出来ます。慣れてきたら、釉薬の中で一瞬手を離してみましょう。手で持った部分の無釉部分を極力小さくすることが出来ます。上手く出来れば、ほとんど釉薬が掛かってしまいます。ただし、作品を釉薬の中で落としてしまうことにならないように、一瞬だけにしてください。
大物に釉掛けする場合は、結構大変な作業になります。まず作品がタンクに入るかどうかを確認するのが第一です。タンクに入らなければどうするか・・・。
これは、2つの方法があります。
まず、霧吹きでまんべんなく掛ける。この方法が初心者にも綺麗に掛けられる方法です。それに、どんなに変形したものでも大丈夫ですし、手跡が絶対に付かない。だって、持たないで掛けられるから。(笑)
霧吹きは、口で吹くタイプとポンプ式のタイプがあります。ポンプ式は左写真のように、昔あった殺虫剤の噴霧器と同じ原理です。もちろんあれば殺虫剤の噴霧器でも使えます。構造は簡単で、口で吹く霧吹きの吹く部分をポンプにしたものです。自転車用のポンプとL字型霧吹きと組み合わせても作れると思います。
写真のものは、陶芸材料店で購入したものです。インターネットショッピングでも探せば手に入れることが出来ます。
注意事項です。現在売られている園芸用の噴霧器は、一見するとポンプ式の霧吹きのように見えますが、先端のノズルが、図のように何ヶ所も穴を通ることにより、水の移動を多くして霧状にするタイプですので、この小さな穴と狭い隙間で目詰まりを起してしまいます。L字型霧吹きのように単純なものだと目詰まりの心配はありません
左写真が、陶芸材料店で売られている、口で吹くタイプの霧吹きです。これは、肺活量が必要となりますので、女性には大変です。そこで私はL字型の霧吹き(日本画用で文房具店で売っています。もちろん、陶芸材料店にもあります)をプラスチックの化粧ビンに入れて、化粧ビンを押しながら吹く方法を使っています。これだと、手で釉薬を押し上げるので、吹く力が多少少なくても大丈夫です。。
もう少し詳しく説明しますと、通常の息を吹いて霧を発生させる霧吹きは、流速が大きいほどその圧力が低くなるという流体力学の法則、いわゆるベルヌーイの法則を利用しています。すなわち、左図のような霧吹きを「緑線」で書いたように息を吹くと、赤丸の部分の気圧が下がるために、カップに入った水が吸い上げられます。この吸い上げた水を吹き出すことによって、霧状になって前方に飛散する訳です。この場合、水を吸い上げるだけの気圧を下げるためには、相当量の空気量を必要としますので、非常に大変な訳です。
しかし、プラスチックの瓶に入れて、上を密閉した場合、左図の赤線で示すように一部分をへこませると、瓶の中の空気圧が高くなって、瓶の中の水を押下げます。すると、圧力の唯一かからない管の中の水を押し上げます。この押し上げられた水を飛散させるだけの空気量を息で吹くことによって水を前方に飛散させることが出来る訳です。吸い上げる力に対して押し上げる力は少なくてすむ上に、息で吹く空気量は水を飛散させるだけの量でいいわけです。したがって、息の量は上記の霧吹きタイプに比べるとはるかに少ない量ですむということになります。
市販されているL字型の霧吹きは、本体(L字の部分)だけしか売られていませんので、これを加工して自分で作らなければいけません。左写真の左側が売られているL字型霧吹きで、右側が化粧品の蓋に加工したものです。
作る場合は、化粧品の柔らかいプラスチック瓶を利用すれば良いと思います。押さえるとへこむタイプですね。
この瓶の蓋の中央に穴をあけて、L字霧吹きを差し込みます。この部分に隙間が開くと、手で瓶をへこませた時に、空気が逃げてしまうので、ぴったりと隙間がないように差し込みます。L字の部分が底まで達しない場合は、プラスチックのチューブで調整して、底に届くようにします。
後は、このプラスチック瓶に釉薬を入ます。手で瓶を押さえると、釉薬が上に飛び出してきます。この飛び出した釉薬を口で吹けば、霧吹きの状態で飛んでいく訳です。少し手の押し加減と息の強さの感覚に練習がいりますが、慣れると、比較的弱い息でも霧吹きをすることが出来ます。
L字型の霧吹きって、角度を変えると、大きい粒から小さい粒までいろいろな大きさが出て、面白いです。L字の角度が90度だったら細かい粒子になって、90度以下になると大粒の粒子になります。
だから、粒子の細かいもので均一にかけておいて、最後に粒子の粗いものをかけると、波のしぶきのように見えます。。
大皿に霧吹きで釉掛けする場合は、先に裏面(高台の付いている方)から掛けます。これは、先に表側を掛けると、裏面にひっくり返して裏面を釉掛けし、更に焼くときにもう一度表にひっくり返さなければいけないという手間がかかったり、何度もひっくり返している間に釉薬面が汚れてしまったりすること、先に表面を釉掛けすると、裏面を釉掛けしている時に釉薬のかかった表側が汚れたり、釉薬が剥がれたりする危険性があるということ等が上げられます。裏面を先に掛けると、表面を釉掛けする時に裏面が少々汚れても焼き上がったら裏面になるので、さほど目立たないということです。
壺などの袋ものの場合は、先にじょうごなどで中に釉薬を入れてまんべんなく壺を回して釉掛けしておきます。大きくなると、どうしても作業に時間がかかるので、あらかじめ中に入れる釉薬は、薄目の釉薬を作っておくと良いと思います。また、中の釉薬を外に出すときに、どうしても釉薬が口の部分から垂れてしまいますので、口の部分には、マスキングテープを貼っておくと安全です。
その後、外側を霧吹きを使って釉掛けします。釉掛けは、同じ場所を長く掛けないことです。同じ場所ばかり長く掛けると、その部分だけ水が廻って、釉薬が垂れてしまいます。ロクロを使って、回しながら上から下に何度も釉掛けするのが一番安全だと思います。
もう一つの大物を釉掛けする方法は、柄杓で流しながら掛けるという方法です。この方法は、ムラが出来やすいのが欠点ですが、逆にムラが面白い場合もあります。掛け方は、スプレーで掛ける方法と一緒です。
皿などの場合は、タンクに入らなければ作品が入る大きさのたらいを用意して、この中でかけます。実は、この方法が一番簡単で確実です。たらいに残った釉薬は、塗料用のゴムヘラを使えば、綺麗にタンクに移し替えることが出来ます。
長皿などの場合もこの方法が確実です。タンクをそのまま利用して、半分まで浸けて、次にもう半分を浸けるという方法もありますが、この方法だとどうしても境目が出来てしまいます。境目を作らない方法としては、最初に浸けた後乾かない内に反対側を浸けると目立ちにくくなりますが、もたついているとあっという間に乾いてしまいます。
重いものをかける場合は、どうしても両手でしっかりと持たなければいけないので、手跡がしっかりと付いてしまうことになります。こういう時は、持ち焼網等を使って、手に触れないようにかけると楽です。
釉薬は、水には溶けないので、(逆に、溶けるとタンクの中で反応して別の物質になってしまいます)必ず沈殿します。比重の重いものは、長石などのように固まりやすいものも入っていますので、長時間使わないと、どんどん固まっていきます。
こういう場合には塩化マグネシウム(豆腐に使うニガリです)を1~5%程度入れましょう。ニガリには、豆腐のように材料を固める性質があるので、逆だと思うかもしれませんが、豆腐のように柔らかく固めるもので、カチカチには固まらなくなると解釈してください。沈殿するのは、比重が重いので仕方がありませんが、ニガリを入れておくとカチカチに固まらなくなるので、比較的楽な力で豆腐を崩すように混ぜることが出来るのです。
ニガリ以外にも、糊状にして硬化を防ぐニカゾール沈殿防止剤や木節粘土を入れるという方法もありますが、ニカゾールタイプは、糊状になるために粘りが出ますし、木節粘土は調合比が変わってしまうのと、粘土分が固まってダマが出来やすくなる欠点があります。一般的には、塩化マグネシウムで十分に対応できます。塩化マグネシウムを使う時は、液体の場合は、そのまま釉薬に入れますが、固形や粉末の場合は、一旦塩化マグネシウムを水に溶かします。塩化マグネシウムをガラスビンに入れて、ひたひたよりも少し多めの水を入れます。すると、溶ける部分と溶けきらない部分とに別れ、溶けきらない部分は下に沈殿します。使う際には、上水を使います。溶けきらない部分は、水を足すと溶けます。
ただし、長石釉等の長石の多い釉薬はどうしようもありません。この場合は、長時間かけて手でかき混ぜるか、またはホームセンターで電動ドリルと塗料用の攪拌機を買ってきて、これで溶きます。
陶芸用の専用攪拌機も売っていますが、高価なのと羽根がタンクを傷つけるような構造になっているので、塗料用で、タンクを傷つけないタイプを買った方が便利です。ドリルも一番安いものでかまいません。
写真で紹介しているのが、電動ドリルと塗料用の撹拌羽根の組み合わせです。電動ドリルは通常のものでも良いのですが、使いやすいのは回転数が変えられるタイプです。写真のものは無断変速型のものですが、これで5000円くらいです。スイッチを軽く押すとゆっくり回転して、押し進めるとだんだんと回転数が早くなるタイプです。
塗料用の撹拌羽根は、近くのホームセンターで写真の3種類が売られていました。一番上から、金属製の渦巻き型、プラスチック製の渦巻き型、金属羽根型です。使ってみた結果、金属製の渦巻き型がもっとも使い勝手が良かったです。羽根式は、タンクの内壁を傷つける恐れがあります。値段は、大体1000円前後です。
この写真は、陶芸用の攪拌機との大きさの比較です。比べると、陶芸用の攪拌機の大きさが分かると思います。上が陶芸用の攪拌機ですが、これは本来は業務用で使用するために出来ていて、かなりのタンクの大きさが必要ですし、タンクの内壁を削り取る危険性もあります。それに、回転トルクが大きすぎるために、女性で扱うのは少々危険です。それに、金額も2万円以上になります。

