4 陶磁器焼成と陶窯
燃焼と焼成
陶磁器製造工程において、焼成の工程が技術的にももっとも至難であり、かつ重用であって、陶磁器製造の成敗は大体この焼成工程の良否によって決められるともいえる。
陶磁器が焼成される事によって、熱の上昇による胎質の硬化、熔固、磁化、及び焼成ガスの雰囲気による透亮、胎色の整調、変化、または施釉における釉の融化、すなわちガラス体となって胎面を覆うため、実用的にも美的にも、または装飾的にも効果を与える。
焼成するということは、要するに加熱する事であって、陶磁器焼成は一般に燃料の燃焼による加熱が主であり、最近では一部分電気的加熱によるものもある。
燃料とは、空気中において容易に燃焼し、その燃焼による熱が経済的に利用すべきものであって、一般に陶磁器焼成に使われる燃料は、薪材、石炭、重油、石炭ガス、発生炉ガス、天然ガス等であるが、古代では牧畜の糞便を乾燥したものが用いられたり、雑草類等が陶窯に燃料として用いられたことがある。
燃料が燃える、すなわち燃焼するという現象は、その成分が空気中の酸素と結合して科学変化を起し、その結果として熱を生ずるのであって、工業的にはその熱を如何に経済的に、かつ有効に利用するかを研究する事に特に留意しなければならない。
陶磁器の焼成に対する期待は、「良質であり均一である製品をより多く焼きあげ、これに要する焼成経費を低廉にする。特に燃料の消費を出来るだけ節約する」という事であるから、陶磁器焼成の要目は、希望する製品の性状に順応した焼成温度、温度上昇及び下降の度合、使用燃料の性状、燃焼装置、加熱装置(すなわち窯、焚口、ガス発生の設備)を完全にし、燃焼に伴う空気量、熱の移動、熱の伝搬・反射熱熱対流の利用、焼成の調整、廃熱の利用、等という燃焼に対しての必要項目を十分に研究しなければならない。
陶磁器製品を焼成することは、他の多くの加熱工業のように、ただ温度上昇のみを目的とするものと大分その趣旨が違っている。陶磁器製品に対しての加熱による反応は非常に複雑なものであって、温度上昇に伴い、素地土の水分の発散、膨張率の変化、硬化、熔化、等の複雑な作用を誘起するため、その緩急により焼成品の破壊、変形、融化、釉の過熔、亀裂、剥離、等の欠点が生じやすく、このために常にその焼成品に順応した加熱温度上昇の度合とか、加熱時間などに特別な注意を要する。
焼成における陶磁器品質の反応については一般に次のように大別して考えるべきである。
脱水期(Water smoking Range)
酸化期(Oxydation Range)
熔固期(Vitification Range)
冷却期(Anealing Range)
脱水期陶磁器素地及び釉に含有する混合水及び化合水が温度の上昇により脱水作用を起こすものであって、通常機械的結合として含有する水、すなわち「気孔中にある水分」、「粘着用の水分」、「膠状体を構成する水分」が順次脱水する。これは摂氏200℃以内でこの種脱水作用を大体完了する。
これ以上になると、化学的構成による水分、すなわち粘土類その他の材料の結晶水が脱水作用を始め、摂氏600℃以内で完了する。
脱水作用完了後は、加熱による酸化作用によって、炭素分を除去し、炭酸塩、硫酸塩などが分解され酸化作用を行う。こうして焼成品の膨張変化、硬化作用を促すのである。なお熱の上昇により、硬化作用を促進するとともに固融体を構成し、結晶質の変形、あるいは新しい結晶性化合物を構成して熔固作用を起す。これを「磁化する(シンター)」ともいう。もしこれ以上加熱すれば熔化して形を保持出来なくなるために、通常の陶磁器焼成は適度の磁化作用が起きた時点で加熱を止めて冷却期に入るのである。
冷却期においては、熔化体の結晶化、結晶の転化等が行われ、固融体は固結するのであって、この各作用を要求する陶磁器製品の性状に適応するためには、各状態におけるその焼成方法を十分注意しなければいけない。
各種陶磁器の焼成方法はその品種においてそれぞれその焼成過程、焼成温度、焼成焔雰囲気などが異なる。ここに一般的なものについて表示すれば
| 種 別 摂 氏 |
素 焼 700~850 |
締 焼 1150~1250 |
軟質釉焼 900~1150 |
本 焼 1300~1450 |
焼成回数 |
| 長石質陶器 (硬質陶器) |
--- | 中性・還元焼成 | 酸化焼成 | --- | 二度焼 |
| 粘土質陶器(半磁器) | 酸化焼成 | --- | --- | 酸化焼成 | 二度焼 |
| 無釉炻器 (又は食塩釉) |
--- | 酸化・中性焼成 | --- | --- | 一度焼 |
| 施 釉 炻 器 | 酸化焼成 | --- | --- | 酸化・中性焼成 | 一度又は 二度焼 |
| 食 卓 用 磁 器 | 酸化焼成 | --- | --- | 還元焼成 | 二度焼 |
| 電 気 用 磁 器 | --- | --- | --- | 還元焼成 | 一度焼 |
| 特殊軟質磁器 (骨灰フリット磁器) |
--- | 酸化焼成 | 酸化焼成 | 二度焼 |
焼成中の窯内の雰囲気は一般に酸化焔、中性焔、還元焔の状態と称して別けられるが、この焼成ガスが酸化し、還元することは製品の素質に対しかなり影響するものであって、製品の組成中、珪酸、アルミナ、アルカリ、アルカリ土類等の非金属組成には余り影響しないが、金属塩としての鉄、銅、鉛、錫、マンガン、ニッケル、クロム、等には前項の彩料において記述したとおり、焼成ガス性状による影響が甚だしいから、陶磁器焼成上この焼成焔については特別な注意が必要となる。
通常、機械的供給装置(メカニカルフィーダー)による、ガス燃焼、重油燃焼、微粉炭燃焼の際は、その燃焼ガスの成分というものは大体において一定であるが、従来陶磁器焼成を行われる人工焼成方は、その焚口に燃料を投じた時は還元ガスとなるが、これが燃焼が緩み、または燃焼の終わる頃は、全く酸化焼成の状態になるから、その焼成の程度を厳密に酸化、中性、還元状態と確然と判断することは難しい。
陶磁器においては、白色磁器の焼成がこの焼成ガスに対してもっとも注意される。素地中及び釉薬の組成中に含まれる微量の鉄塩が、焼成後、亜酸化鉄塩か、第二酸化鉄塩かを構成することによって、前者は青白色に、後者は黄白色を呈する。青白色調は白色度を冷静に、黄白色調は白色度を緩和にする。白色磁器としては、冷静調の方が白色調を誇張し、衛生的清浄な感を与えるため、食器等は特にこの調子を選び、この焼成方法は素地の熔固前後において完全な還元雰囲気が必要である。
白色磁器の焼成方は、その焼成温度が摂氏1300℃~1400℃内外のものについては、1000℃までは酸化焼成で焼成しそれから、1200℃前後まで還元焼成とする。白色磁器の釉は1000℃~1100℃より熔け始めるため、溶ける前に素地質を還元にしておくためであって、それ以前に還元焼成をすることは意味がないし、燃料経済の上からも不利になるため、この限度において行うのである。
還元焼成の事を通常は「せめ焚」と呼ばれている。
これ以降から焚き上げ温度までは、窯内の熱の分布及び温度上昇に対し、製品の性状及び燃料経済に適応した焚き方をする。大体において酸化、還元の中間で、中性焔焼成を行うのである。(「ネラシ」焚きという)

