釉下彩料(2)

 「釉薬の成分」と「呉須」の色調との関係について、試験した一例を挙げて見ると、
 釉は何れも磁器白釉にして、その組成分は次のものである。

 A. 0.5 RO 
    0.5 MgO   0.6Al・5.0SiO

 B. 0.7 R
    0.3 ZnO   0.6Al・5.0SiO

 C. 0.5 RO 
    0.3 CaO   0.7Al・5.0SiO

 D. 0.3 RO 
    0.7 CaO   0.6Al・5.0SiO

 E. 0.2 RO 
    0.8 CaO   0.35Al・3.5SiO
              (微量の鉄及び燐酸塩を含む)

 白色磁器素地の素焼面に景徳鎭においてて「珠明号」と称する良質の呉須をで描画し、前記各釉を施して、摂氏1000℃まで酸化焼成、1000℃から1200℃まで還元焼成、1200℃より1300℃までは中性焼成で焼成させた際の、釉下の色調を験すると次のような色調を呈する。

 (A)磁器白釉であり、アルカリ土類がマグネシア塩となったもので、色調は海青色を呈し、雅味が少しある。



 (B)磁器白釉であり、アルカリ土類が酸化亜鉛となったもので、色調は派手な空色を呈し、これまた雅味に乏しい。




 (C)磁器白釉として、長石質釉ともいうべき、カリ、アルミナ分が多い組成のものであって、明末における「五彩」の下釉薬に似たものである。釉下の呉須の色調は紫青色を呈し、派手ではあるが、何となく雅味がある色調である。


 (D)磁器白釉として、一般に石灰釉と称するものであって、アルカリ土類として、石灰分が応用されたものである。釉下の色調は、暗紺青色ともいうべき、不快な色合である。



 (E)磁器白釉として、塩基を灰釉から取りさったものであって、宮崎県産の柞の木の皮の灰を用い調製したものである。組成の上では石灰釉と称すべきであるが、色々と夾雑物が混入しているため、色調は暗色がかっているが、落ち着いた渋味のある点は数奇者に愛玩されるであろう。


 以上は単に単色の一例に過ぎないが、彩料を変えずに釉の組織を変化する事により、色々と呉須の色が変わるという事は明瞭な事柄である。
 現在では中国産の呉須、すなわち唐呉須の良質なものを得る事は非常に困難であるため、ほとんどの染付手の青料は、日本で調製されたものを使う様になったが、唐呉須を用いたものに対し雅致に乏しい。これは呉須の成分などから割り出して、コバルト、鉄、マンガン、ニッケル、塩などの酸化物を混合して合成したものであるため、天然産の呉須のように自然的に融和した状態のものに比べると、いかに混合細磨を完全にしても、うまく色合の雅趣を帯びたものにならないのである。
 前京都陶磁器試験所長の植田豊橘博士はこの缺点を補うために、コバルト及び鉄の溶液からコバルト、鉄の錯塩を作り、これに「呉須」と同様の成分を合成し、各成分の結合状態を極めて親密にして、天然産呉須とその色調を同じ域まで達したと発表された。

 釉下青藍色の彩料については、近代欧州において化学的に研究され、通常この青藍色はコバルトの酸化物または燐酸塩をアルミナ及び酸化亜鉛と混ぜて調製される。しかし純酸化コバルトは釉薬の中で釉薬と融合して青色透明体を作って熔けるので、安定に呈色させるには酸化コバルトにアルミナと酸化亜鉛とをあらかじめ焼暇して一種の彩料を調製し、釉に安定な彩料としてから用いられる。

 磁器の普通の青色釉下彩料として濃青色の抵抗性のあるものの一例として
 (濃青色)
  燐酸コバルト   183
  純アルミナ    103

 燐酸コバルトは19.5%の塩化コバルトまたは40%の硫酸コバルトを、53.8%の燐酸ソーダと5.3%の炭酸ソーダとで沈澱させて洗浄して低温で焼成して作る。
 この混合物を湿式法(ボールミル)にて細かく粉砕して強熱すると美しい青色彩料となる。

 (濃青色)
  純黒色酸化コバルト  82.8
  純アルミナ     103.0

 淡い青色は次のものから得られる。
 (青色)
  純酸化亜鉛      20.3
  流化コバルト     34.5
  アルミナ       51.5

 非常に淡い青色は
 (淡青色)
  純酸化亜鉛      35.5
  流化コバルト      8.6
  純アルミナ      51.5

 若い青色が欲しい場合は、もう少し酸化物を加えることが必要である。灰色に近い様な濃青色はコバルトとニッケルの酸化物を混ぜて得られる。これは次のものを当量に入れる。
 (濃青灰色)
  純黒色酸化コバルト  当量  
  酸化ニッケル     当量  
 これを混ぜて灼熱する。

 (濃青緑色)
  黒色酸化コバルト  165.6
  酸化クロム      76.2
  アルミナ      154.5
 これは暇焼を強熱すればその色の美しさを増す。

 (淡青緑色)
  酸化亜鉛       40.3
  クロム酸コバルト   56.4
  純アルミナ     103.0

 (淡青緑色)
  酸化亜鉛       35.5
  クロム酸コバルト    7.0  淡青緑色
  純アルミナ      51.5

 以上二つの淡青緑色は、上の方が一層淡いものである。クロム酸コバルトは、154.8分の流化コバルト(無水物)の熔液と97.1分のクロム酸カリの溶液とを沈澱させて、洗浄して弱熱すれば得られる。
(E)「緑色」
 緑色には一般に酸化クロムが用いられる。磁器素地の添加という事に関しては、できるだけ鉄分を除去して用いなければならない。

 (濃青色)
  純酸化ニッケル   149.6
  純酸化クロム     76.2
これを充分混合して強熱する。
 クロム緑に用いられる純酸化クロムはクロム酸カリを同量の流黄華と共に灼熱して、次で充分洗浄灼熱して得られる。
 淡緑色は炭酸石灰及び蛍石を酸化クロムと混合して焼成すれば得られる。

 また、溶液として調合する際は
 (鮮緑色「ヴィクトリア緑」)   クロム酸カリ    36 
  塩化カリウム     12 
  粉砕珪石       10 
  大理石        20 
  蛍石         12 

 石英、大理石、蛍石は細磨し、塩化石灰の熱い飽和溶液と重クロム酸カリとをもって処理し、全体が乾燥状態になるまで蒸発する。乾燥した後、乳鉢の中でよく摺った後にできるだけ高温で焼成する。焼成ガスが還元状態であれば美しい光った色を生ずるが、これと反対に酸化状態を続けると、その色は濃いクロム緑になる。なお、酸化焼成を続けるとその色が容易に汚い灰緑色に変ずる。

 (淡黄緑色)
  クロム酸バリウム 当量
  大理石      当量
  含水硼酸     当量

 しかしながら、白色陶器に適する様な色は高温に逢えばなくなってしまう。故にこの焼暇には注意しなければいけない。クロム酸バリウムは塩化バリウムを104分とクロム酸カリを97.5分とにを沈澱させると得られる。この沈澱を洗浄して軽く灼熱して用いる。

(F)「黄色」
 黄色彩料はチタニウム、アンチモニー、ウラニウム、鉄などにより得られ、鮮黄色は、チタン酸、及び亜鉛のチタン酸塩より得られる。チタン酸が灼熱された後に粉砕させるか、もしくは湿式粉砕によって酸化亜鉛と混ぜる方法かのいずれかである。
 この適当な調合は
 (黄色)   酸化チタニウム    41.0
  酸化亜鉛       40.6

 この混合物は強く灼熱しなければいけない。常に鉄を含むルチール、すなわちチタン酸原料の黄色はその中に含有されている鉄に起因している様に思われる。また少なくとも化学的に純粋な物質を有する黄色を生ずる事は不可能である。ここで得られる黄色は、品物ができるだけ低温で焼成される時にのみ磁器の絵付に用いられるものである。もし釉薬が過熱のために強い熔融状態になった場合は、色は消え失せて汚い灰色のものになってしまう。また鮮黄色は鉛の塩基性アンチモン酸塩から生成し得られ、これは添加される鉄の量の多少によって、橙色にまで変化する。
 (淡黄色)
  硝酸鉛       73.0
  アンチモニー酸化物 33.0
  アルミナ      12.0
  塩        100.0

 以上の成分のものを細磨し、摂氏1000℃内外において焼暇し、よく洗浄する。もしも色が可溶性のために釉の下で容易に消失する場合は、三分の一まで錫酸カルシウムを添加すれば、より熔融し難いものになる。錫酸カルシウムは次のものより得られる。
  純酸化錫   75
  大理石    50
 これをよく湿式で粉砕する。
 また酸化ウラニウムを使用しても安定な黄色彩料が得られる。

 以上の黄色彩料は陶器用の酸化焔焼成において比較的低火度の釉下彩料であるが、磁器の黄色彩料としては従来適当なものが見出されなかった。しかし、我が国で明治26、7年頃、飛鳥井孝太郎氏により、美濃恵那郡より産出する「フエロガソナイト」鉱が磁器釉下黄色彩料に適する事を発見し、これを「アスカイ黄」と命名され、応用されるに至った。
 その成分は
 Nb・Ta Y・Er  Ce  U0  Fe3  CaO  HO  計
    48.39       35.60      5.69   2.95    1.04   0.25   4.12  98.04

 (橙黄色)
  酸化鉛       50.0
  酸化アンチモン   33.0
  酸化鉄       18.0
  硝酸カリ      25.0
 この混合物をよく摺って、摂氏1000℃内外で灼熱し充分洗浄する。なお耐火性とするためには、錫酸カルシウムと共に混合する。

(G)「灰色」
 (紫褐色)
  燐酸マンガン   177.5
  錫酸        75.0
 燐酸銅と同様、燐酸マンガンは41.6分の結晶流酸マンガンを35.8分の燐酸銅と5.3分の炭酸ソーダの沈澱から調製されて得られるもので、これを更に洗浄して軽く焼成する。

 美しい灰色のものは、軟質磁器素地では黒色を淡くするか、もしくは後者(軟質磁器素地)を酸化イリジウムまたは塩化アンモニウム白金と共に混混ぜて得られる。酸化イリヂウムは純粋な灰色を与えるには良い物質である。
 配合例としては
 (灰色)
  酸化イリジウム    5
  磁器素地      95
 これをよく粉砕して、弱く灼熱して再び粉砕して用いる。

 以上釉下彩料としての固体のものを記述したのであるが、液体釉下顔料としては、普通金属の溶液が用いられる。
「ボカシ」用としては、各着色金属の硝酸塩の溶液またはこれに「グリセリン」を加え、濃度を増して用いる。
 一例を挙げれば
 1.トルコ青色    硝酸銅     50
   水       80
   グリセリン   200
   (このグリセリン混合液は水溶器上にて水分を蒸発させて用いる)

 2.鮮藍色
   硝酸コバルト   65
   水        50
   グリセリン  115

 3.黄色
   硝酸ウラニウム 65
   水       40
   グリセリン   60

 4.黄褐色
   硝酸鉄     75
   水       50
   グリセリン   75

 5.淺黄色
   硝酸ニッケル 100
   水      100
   グリセリン  100

 6.鼠色
   硝酸コバルト  30
   塩化鉄     10
   水       40
   グリセリン  160

 7.緑色
   クロム酸   100
   水      100
 (濃度においてグリセリンを付加する必要なし)

 また「線描用」には、着色金属の樹脂塩を作り、これを油類で溶かして応用される。
 金属樹脂塩溶液の調製については、初め可及的純粋な樹脂石鹸を調製し、良く塩析し、完全に鹸化したと認められたものを用いて金属の溶液に混和し、金属の樹脂塩を沈澱させてこれを洗浄し、乾燥後種々の油類をもって溶解させて調製するものである。
 各金属樹脂塩とその溶剤としての油類を挙げれば









 
  樹脂金属塩      溶   剤
 コバルト樹脂塩 テレピン油またはベンジン油50テレピン油50
 ウラニウム樹脂塩 丁字油または肉桂油
 銅樹脂塩 ベンジン油
 ニッケル樹脂塩 ベンジン油
 クロム樹脂塩 ローズマリン油。樟脳油。ラベンダー油
 マンガン樹脂塩 ラベンダー油
 白金樹脂塩 ローズマリン油または樟脳油
 鉄樹脂塩 ローズマリン油または樟脳油