釉下彩料
「釉下彩料」は磁器のように高火度焼成で還元焼成するものと、陶器のように酸化焼成で比較的焼成火度が低い場合とでは当然彩料も異なってくる。
彩料の釉下呈色は金属酸化物またはその混合物、もしくは化合物が釉下に用いられて、釉の熔融下にそのままの状態を存して呈色するか、または釉中に一部または完全に熔けて呈色するかの何れかである。ゆえに彩料、釉薬が同じでもその釉の熔融状態が末熔、過熔によっても著しい変色を来すものである。
一般に用いられている金属塩について、彩料としてのその性状を略述して見る。
1.コバルト …………………青色、藍色
2. ニッケル …………………褐色、まれに藍色
3. 銅 …………………緑色、薄青色、赤色
4. マンガン …………………褐色、紫菫色、赤色
5. 鉄 …………………黄色、褐色、黒色
6. クローム …………………緑濁色、赤色
7. ウラニウム…………………黄色、黒色
8. アンチモン…………………黄色
9. 金 …………………臙脂(えんじ)色
1.「コバルト」
コバルトは釉下顔料として最も広く用いられるものである。通常は酸化コバルトを使用する。市販されているものは不純物が混入しているものが多いので、選択によほど注意しなければいけない。
下絵付用に使用する際は流化物の混入を非常に恐れる。これは釉下に応用すると流化物が構成しにくくなり、「ニエ」と称する黒色佛泡を生ずる欠点が出る。また、酸化焼成の際も過酸化物を構成し同様の欠点を生じる。
酸化コバルト単味で使用すると、その発色が強いために黒色となる事がある。良好な青色に発色させたい場合には、アルミナ分と混合して用いると安定となり、綺麗な空青色を呈する。
また落ち着いた淡青色を発色させるには酸化亜鉛を混入する。他の金属塩との混用に際しては、ニッケル、鉄、マンガンなどと混用すれば灰色がかった藍色となり、クロム塩と共に用いれば、その量により種々青緑色が得られる。またクロム、鉄、などと混用すれば純黒色となる。
2.「ニッケル」
ニッケルは釉薬の性状、焼成温度の高低によって褐色及び緑色に変じやすいので、彩料としては非常に不安定なものである。ゆえに一般には他の金属塩の補助彩料に混用される程度である。「ニッケル」と亜鉛とを混用する際の色調変化は特に激しい。次のような変化が起こる。
酸化ニッケルに対し酸化亜鉛 15%加えた時…………………褐 色
同 同 25% 同 …………………赤紫色
同 同 35% 同 …………………暗藍色
同 同 45% 同 …………………青藍色
通常、釉下顔料に用いる酸化物は炭酸ニッケルもしくは緑色酸化ニッケルを応用する方が彩料としては安定である。
3.「銅」
銅は通常、酸化もしくは中性焼成における緑色釉下顔料として応用されるが、高火度においては銅分子が変移し、釉薬中より揮発し、素地中にも他の作品にも浸透する傾向があるためあまり用いられず、主として低火度において応用される。しかし高火度赤色釉下顔料としての銅塩の応用は、中国で「釉裏紅」と称するものに使用されており、これはあらかじめ赤硝子または赤色彩料を調製すれば安定なものを得られる。
4.「マンガン」
マンガンを釉下顔料として応用する際は、「コバルト」のように過酸化物構成のため「ニエ」を生じたり、退色する欠点があり不安定である。ただ「鉄」と共用すれば赤褐色または紫褐色の良色になる。また燐酸塩及びアルミナと混用すれば安定な桃紅色彩料が得られる。
5.「鉄」
鉄は褐色系の彩料に多く用いられるが、釉薬と熔け合うと淡い黄色になるため、なるべく彩料と釉薬とが熔け合わない程度の熔融の釉下に応用しなければならない。しかし、もし「クロム」と共用すれば安定な褐色彩料となり、黄褐色、赤褐色を発色する。
鉄の珪酸質のものは釉薬と熔け合わない程度であれば黒色または黒褐色の釉下彩料となる。また特殊の珪酸塩で鉄分が微量混入したときに鮮やかな赤紅色を呈する事がある。
6.「クロム」
クロムは褐色釉下彩料として最も安定なものであって、特に鉄、アルミナ、亜鉛と混じたものは前述のように各種の安定な褐色彩料を得られる。コバルト、ニッケル、マンガンと混合すると緑色彩料となり、酸化錫、石灰との混合すれば彩料は赤色調となる。これは「クロムピンク」と呼ばれ、一般に酸化焼成赤色釉下彩料として広く用いられる。またクロムと石灰で綺麗な緑色(ビクトリア緑)の彩料となる。
7.「ウラニウム」
ウラニウムは焼成の際の還元焼成に対して非常に鋭敏に作用する。すなわち酸化状態では鮮黄色のものが急に黒色に変色するため、使用上特に注意しなければ変色しやすくなり、使用には相当困難が伴うものである。しかし酸化焼成の際は鮮黄色彩料として適したものであり還元焼成では黒色彩料として適した彩料が得られる。
8.「アンチモン」
アンチモンは鉛と混用されると非常に綺麗なレモン黄を呈するが、低火度でなければ応用できない。しかしこれに酸化鉛、アルミナを混入する事によりある程度高火度彩料として応用する事ができる。
9.「金」
金は磁土またはアルミナを混ぜて、安定な釉下臙脂彩料となる。また「カシアス紫」を調製して釉上彩料の紅色または紫紅色彩料に応用される。
次に金属塩中釉下彩料として最も多く用いられる。鉄、銅、コバルトの酸化物が高火度白釉に対する発色能と酸化焔焼成、還元焔焼成における色調変化につき実験した一例を表示すれば下表のとおりである。
0.3K2O
(白釉の組成分は 0.7CaO 0.5Al2O3 5.0SiO2
焼成温度は酸化焔焼成も還元焔焼成もどちらも摂氏1300℃とし、彩料としての金属塩は酸化鉄(Fe2O3)酸化銅(CuO)酸化コバルト(Co2O3)をそれぞれ釉薬の重量に対し、1%、3%、5%、7%、10%、15%の割合で混ぜたものである)
一般に釉下彩料にはアルミナを添加する事によって色を一層安定させるため、釉下彩料製造にはアルミナの混入という事を留意しなければならばい。この目的のためには軽質水酸化アルミナ、もしくは水酸化アルミナを灼熱洗滌細磨した純酸化アルミナを使用する事が必要である。また金属塩が酸化物であっても、一度使用する前に灼熱して粉細し、よく洗滌して用いなければならない。すなわち彩料の欠点である釉としての変色または「釉ニエ」などはこれらの不注意によるものなのである。
次に各色調につき釉下彩料の配合例を挙げその性状を説述して見よう。
(A)「黒色」
一般に白色陶磁器の装飾において、黒色として使用されてきたクロム塩は亜酸化塩からなる組成分を有した酸化鉄と酸化クロムから出来た化合物である。これは人工的には次のものを混ぜて作られる。
「帯緑黒色」
純酸化第二鉄 40.0
純酸化クロム 76.2
この酸化物は湿式鼓臼で粉砕して、絵具摺機でごく細かく粉砕、乾燥後乳鉢で摺り、高温で灼熱(これは磁器本焼窯で還元で焼くのがよい)、最後に非常に細かく粉砕する。
もし酸化鉄の含有量が増加すれば
「帯黒褐色」
純酸化第二鉄 80.0
純酸化クロム 76.2
「青褐色」
純酸化第二鉄 80.0
純酸化クロム 76.2
純酸化コバルト 20.0
以上三種の黒色は、その使用を一層容易にするために、色合には影響しないように磁器素地を三分の一程度加えて粉砕するとよい。
(B)「褐色」
褐色は酸化鉄及び酸化クロムにアルミナと酸化亜鉛を混ぜて得られる。
「濃褐色」
純酸化第二鉄 80.0
純酸化クロム 76.2
純アルミナ 206.0
「赤褐色」
純酸化第二鉄 80.0
純酸化クロム 76.2
純酸化亜鉛 194.4
「淡赤褐色」
純酸化第二鉄 80.0
純酸化クロム 76.2
純アルミナ 194.4
純酸化亜鉛 243.0
「黄赤褐色」
純酸化第二鉄 80.0
純酸化クロム 76.2
純アルミナ 103.0
純酸化亜鉛 324.0
アルミナと酸化亜鉛の量を増加しても、その色はほとんど変化しない。上記配合物の焼成火度は強く灼熱するほど変色に対する抵抗力がますます大きくなる。
「濃褐色」
純酸化マンガン 79.5
純酸化クロム 76.2
白色陶器用彩料としての桑色の黄褐色は47.4%のカリミョウバンと13.85%の流酸マンガン(結晶)を30%の無水炭酸ソーダの溶液と共に凝固溶液を作って得られ、この沈澱をよく洗って低温で灼熱して用いられる。
(C)「赤紅色」
赤紅色釉下顔料は種々の金属が応用され、鉄塩、クロム塩、マンガン塩、金塩、銅塩、ウラニウム塩等が用いられる。
(1)鉄塩はアルミナ、珪酸と共に応用され、純酸化焔で徐々に熱する事が必要であり、摂氏1000℃以上は不安定である。瀬戸地方で一般に「赤楽」と呼ばれている彩料は次記のような成分のものであり、全く鉄の呈色によるものである。これは摂氏1200℃以下である事と、釉の過熔しない範囲の酸化焼成を必要とする。フランスの”Roйge de Thievier”という赤紅彩料もこの種のものである。
(2)「クロム塩」はアルミナと混和して摂氏1400℃以上で焼成して、臙脂紅色の顔料が得られる。またクロム塩と錫、石灰、その他珪酸、硼酸等により、臙脂紅色、黄紅色の良色調の顔料が得られる。これは酸化焼成の釉下顔料として最も多く用いられる桃紅色顔料であって、この顔料調製要領を簡単に記せば
この分析表を見れば、第一号より第四号までの結果が大分差があるが、呈色剤としての重金属はマンガン塩が最も多く、コバルト塩はこれに次ぎ、ニッケル、鉄塩の含有も認める。 これらの呈色塩の内で、発色効率の程度を考察すれば、コバルト、ニッケル、鉄、マンガンという順位であって、コバルト塩の発色が他のものに比べて著しく強いため、青色調が最も強く出ているのである。しかし現在用いられている青料のように「コバルト」塩のみを呈色剤とするものに比べると、呉須はこれらの種々の金属塩の呈色により、青色調が不純にでありながら古雅な、しかも幽青な色合を現わし得るものである。 元来これらの金属塩の呈色は、普通磁器の釉下顔料の作用として、コバルト塩は紫青色であり、マンガン塩は菫灰色より灰褐色を呈するが、還元焼成に際して退色するきらいがある。鉄塩はうす青色より茶褐色を呈し、これも還元焼成に際し、大いに減色するきらいがあり、ニッケル塩は非常に変色し易い呈色であるが、大体は灰緑色調である。 しかしこれら金属塩だけの場合は、黒色、銀鼠色を呈色するが、適度の珪酸分、礬土分、アルカリ類などの非金属が混入してくると前記の色合を呈するするのである。 呉須にして「コバルト」塩が多ければ、紫青色が鮮やかとなり、「マンガン」塩が多ければ灰色を増し、鉄が多ければ同様に暗青色になる。また珪酸分、アルミナ分その他の塩の多少によって、色の濃淡が著しく変化する。特に「ヤケ」「コゲ」などと呼ばれる呉須呈色の黒味がかったところは、この非金属塩の不足に基づくものである。 また焼成によって、呉須の呈色反応に影響ある事も考えねばならない。すなわち焼成温度の高低と焼成焔の性状に関係する。焼成温度が高ければ、含有量の最も多いマンガン塩の発色機能が減退するので青色調に大した影響はないが、低火度の時は、マンガンの発色が強く作用して、呉須の色調は菫紫色を呈する。中国明代の素三彩とか、五彩瓷に応用されている茄紫色は呉須の呈色によるのであって、マンガン単味に用いたものとその呈色に大差がないために、低火度の青料としては呉須は適さないのである。 強火度に際しても還元焔焼成と、酸化焔焼成によって著しく呈色に差がある。酸化焔の際には、コバルト、マンガン塩などの過酸化物と一面にマンガン、鉄、ニッケル塩等の発色が還元焔の際のように減色しないため、青色調が暗色調になり、黒味勝ちの不良な色調を呈する。しかし還元焔の際は、コバルト塩以外の金属塩の「発色機能の減退」のために青色の発色が鮮やかになる。この「発色機能の減退」というのは、あるいは言い方が的を射ぬかも知れない。むしろ「マンガン、ニッケル、鉄、塩などの発色調が青色調に余り影響しない色調になる」と言った方が妥当かも知れない。 通常、中国の青花磁器や我が国の染付手はすべて還元焔焼成に限られているのは、これがためである。 この呉須の青色が、焼成状態に関係があると共に、また陶磁器の素地すなわち胎質と、釉薬の組成分による影響することも重要である。胎質に珪酸分が多い時は「剥がれ」易く、色は黒味を帯びて来る。釉薬においての組成分による影響も非常に著しいものであって、その釉の熔解性の強軟と、各組成分の割合及びその主成分である「珪酸」「アルミナ」「アルカリ」及び「アルカリ土類」の「ソーダ」「カリ」あるいは「石灰」「苦土(マグネシウム)」「重土(バリウム)」など、または金属塩の釉料としての「亜鉛」「鉛」「錫塩」などの含有量の多少によって、色々と色調に変化を及ぼすものである。 アルミナの含有量の多い時は紫青色が鮮やかとなり、亜鉛が混入すると、藍青色が鮮やかになる。珪酸が過多な釉薬やマグネシア分を含有する釉薬は、呉須を暗色にする。 中国明代の青花瓷を見ても、「蘇泥渤青」を用いた宣徳朝の青花、「回青」を用いた正徳、嘉靖、萬暦の青花瓷の釉薬を見ると、長石質に富むすなわちアルミナ分が多い釉調であり、更に成化朝の青花の暗色調は、逆に灰質が多い釉薬であることに基づくのではないかと思われる。また乾隆朝の青花は、派手であるが雅致に乏しい感じのするのは、石灰質釉のためとも考察することが出来る。このように、呉須の呈色が釉調によって影響されるところも重要である事を知らなければならない。 故に昔から、凡ての文献が青花瓷の色調が、呉須が変わって来たために基づくものとのみ論じているが、むしろ釉の組成が変化しているために、色調が変わってくる事にも注意しなければならない。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

