陶磁器彩料の性状
陶磁器彩料は上述のように無機物質であって、主として重金属化合物である。最も普通に用いられる主な金属元素は、「鉄」「銅」「クロム」「コバルト」「マンガン」「ニッケル」「ウラニウム」「チタニウム」「アンチモン」「金」「銀」「白金」「イリジウム」「セレン」等である。
しかし、これらの呈色は金属酸化物の状態として存在するか、釉または熔剤と共に一つの彩料を構成して呈色するのであって、かつこれらの元素が呈する色は常に安定不変の色を呈するものではなく、種々の状態によって各種の色を呈するものである。
彩料の呈色に影響する種々の事柄を総括的に考えて見ると、
1.焼成温度の高低
2.焼成に際しての焼成状態すなわち酸化、還元焼成による影響
3.彩料の配合物による影響
上記三項が主なる影響といってよい。
1.焼成熱度の高低により影響を受ける元素は「セレン」「銀」「アンチモン」「マンガン」「銅」などは特に烈しい。これらは熱の上昇により揮発し、退色する事が主なる原因である。
2.焼成に際して焼成の状態、すなわち酸化焼成、還元焼成あるいは中性焼成によりその酸化物が亜酸化、酸化、過酸化、化合物の状態となっててその色調が変化するものである。焼成状態による大まかの呈色変化を表示すれば次のとおりである。
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| 金属元素名 |
還元焼成呈色 |
酸化焼成呈色 |
| 鉄 |
青 色 |
赤褐色 |
| 銅 |
赤 色 |
青 色 |
| ク ロ ム |
緑色(青緑色) |
黄緑色(紅色) |
| コ バ ル ト |
青藍色 |
青 色 |
| マ ン ガ ン |
褐色または黒褐色 |
菫または赤褐色 |
| ニ ッ ケ ル |
灰 色 |
緑 色 |
| ウラニウム |
黒色(帯緑色) |
鮮黄色 |
| チタニウム |
暗橙黄色 |
橙黄色 |
| アンチモニー |
無 色 |
黄 色 |
| イリジウム |
灰 色 |
黒 色 | |
|
3.彩料としての各金属塩とその配合物とによる色調の変化は千変万化であって、その配合物が単味においては、なんら呈色作用をしないものが他の元素と混合される事によって種々なる色調を呈する。通常は、彩料として金属元素を用いる際は、必ずその呈色の安定を計るために、無呈色剤を混合する。(無呈色剤とは単味で使用する際には、呈色しないもので、礬土(アルミナ)、珪酸、錫、鉛、亜鉛、蒼鉛、重土(マグネシア)、苦土(マンガン)、石灰、カリ、ソーダ、リチウム等の類である。)
彩料の応用と分類
次にその一例として呈色金属一分子と無呈色金属二分子とを一種類づつ混合し、摂氏1300℃(酸化焼成)にて焼成させた色調変化を表示すると次表のとおりである。
呈 色 剤
無 呈 色 剤 |
酸 化 銅
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酸 化 マ ン ガ ン
|
酸 化 ク ロ ム
|
酸 化 コ バ ル ト
|
酸
化
鉄
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ル チ | ル
|
酸 化 ニ ッ ケ ル
|
酸 化 ア ン チ モ ン |
酸 化 ウ ラ ニ ウ ム |
セ レ ニ ウ ム
|
酸
化
銀
|
アモ ンリ モブ ニデ ウン ム酸
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酸 化 ウ オ ル フ ラ ム |
アバ ンナ モジ ニウ ウム ム酸
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| アルミナ |
黝 褐 |
セピア |
緑 色 |
空 青 |
暗 褐 |
淡 褐 |
青 藍 |
白 |
淡 黒 |
白 |
白 |
白 |
淡 褐 |
淡黝緑 |
| 硼 酸 |
灰 黄 |
同稍濃 |
濃 緑 |
黝 紫 |
赤 褐 |
褐 |
暗 緑 |
淡 黄 |
黒 |
同 |
同 |
黝 紫 |
暗 褐 |
濃黝緑 |
| 酸化リチウム |
黝 褐 |
同稍濃 |
濃黝緑 |
同 |
セピア |
赤 褐 |
灰 褐 |
灰 黄 |
同 |
黄 褐 |
黄 褐 |
褐 緑 |
黄 褐 |
黝 黒 |
| 沸化カルシウム |
灰 色 |
同稍淡 |
鮮 緑 |
同 |
褐 色 |
淡 褐 |
灰黄緑 |
淡灰黄 |
黝 黒 |
白 |
白 |
黝 白 |
淡 褐 |
黝 緑 |
| 炭酸ソーダ |
黝 褐 |
同 |
濃 緑 |
黝 藍 |
紫 褐 |
褐 |
黝 褐 |
同 |
黒 |
同 |
同 |
同 |
同 |
黄 緑 |
| 炭酸カリ |
灰 褐 |
同 |
紫 緑 |
同 |
同 |
同 |
黝 緑 |
同 |
同 |
同 |
同 |
同 |
同 |
黝 黒 |
| 炭酸石灰 |
青 銅 |
同 |
濃 緑 |
黝 紫 |
同 |
黝 褐 |
黝 褐 |
白 |
黝 褐 |
同 |
同 |
淡 黄 |
淡 黄 |
同 |
| 炭酸マグネシウム |
黄 褐 |
同 |
褐 緑 |
褐 紫 |
黄 褐 |
淡 黄 |
淡 緑 |
同 |
紫 黒 |
淡 褐 |
同 |
淡 褐 |
赤 褐 |
褐 緑 |
| 酸化亜鉛 |
暗 紫 |
同 |
稍褐緑 |
暗 紫 |
同 |
淡 褐 |
青 緑 |
同 |
黒 |
白 |
同 |
青 白 |
暗 褐 |
黝 紅 |
| 炭酸バリウム |
黝 藍 |
同 濃 |
黝 緑 |
鮮 紫 |
暗 褐 |
黄 褐 |
暗 紫 |
同 |
黝 黄 |
同 |
同 |
橙 黄 |
同 |
黝 黒 |
| 珪 酸 |
灰 黄 |
同 |
緑 |
黝 藍 |
紫 褐 |
褐 |
緑 |
淡 黄 |
黒 |
同 |
同 |
白 |
淡 褐 |
黝 緑 |
| 次硝酸蒼鉛 |
鶯 色 |
同 |
黝 緑 |
藍 |
黄 褐 |
黄 褐 |
褐 緑 |
同 |
暗 黒 |
鮮 黄 |
黄 |
鮮 黄 |
暗 緑 |
緑 |
| 炭酸鉛 |
黝 緑 |
同 淡 |
黄 緑 |
鮮 藍 |
紫 褐 |
褐 |
同 |
黄 |
黒 |
白 |
白 |
淡赤褐 |
灰 褐 |
褐 緑 |
| 酸化ジルコニウム |
黝 褐 |
同 |
緑 |
黝 藍 |
黝紫褐 |
淡 褐 |
灰黄褐 |
同 |
黒 |
同 |
同 |
淡 黄 |
白 |
黄 緑 |
| 燐酸石灰 |
暗 緑 |
同 濃 |
黝 緑 |
暗 紫 |
紫 褐 |
黄 褐 |
灰 褐 |
白 |
黝 黄 |
淡 褐 |
同 |
淡 褐 |
淡 黄 |
褐 緑 |
| 硫 黄 |
黝 褐 |
同 |
鮮 緑 |
黝 藍 |
黝紫褐 |
褐 |
暗 緑 |
鮮 黄 |
黝 黒 |
白 |
同 |
黝 藍 |
紫 褐 |
黝 黒 |
| 亜 砒 酸 |
暗 褐 |
同 |
緑 |
黝 藍 |
紫 褐 |
淡 褐 |
暗黄緑 |
淡 黄 |
薄 墨 |
同 |
同 |
淡 青 |
暗 褐 |
同 |
| 酸 化 錫 |
黝 褐 |
同 |
黝 緑 |
黒 紫 |
赤 褐 |
淡 褐 |
黄 緑 |
暗 藍 |
同 |
淡 青 |
淡 藍 |
白 |
淡 褐 |
黄 緑 | |
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稍(やや) 黝(ゆう:薄暗い)
次に釉上彩料の際における熔剤の種類による、各呈色金属呈変化の一例を表示す。
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呈色金属化合物 |
ソーダ媒熔剤 |
カリ媒熔剤 |
鉛媒熔剤 |
酸化コバルト
酸化第二銅
酸化第一銅
酸化クロム
酸化ウラニウム
過酸化マンガン
酸化ニッケル
酸化第二鉄
酸化第一鉄
カシアス紫
酸化銀
アンチモン酸鉛
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青(ややすみれ色)
空色
帯紫赤(稍黄)
草緑
帯黄緑
暗菫
帯黄菫
緑
帯青緑
褐または青
薄黄または橙
白または不透明
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青(稍緑)
空色(ラスター)
紫(帶赤黄)
黄緑(ラスター)
黄
菫(紫石英様)
暗紫石英様
帶黄緑
帶緑青
赤または薔薇
薄黄または橙
白(高温にて透明)
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青
緑
血赤
帯赤黄
帶赤黄
帶赤菫
帶青菫
暗帶黄緑
帶黄緑
赤または薔薇色
―――――――
橙(鉄分があれば暗色)
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以上のように、各金属塩が配合状態によって種々異なった彩料の色合いが発色するものであるから、これを調製または応用することには周到で十分な注意を要するのである。
陶磁器に彩料を応用するには
1.素地土に加えて着色素地を作る。
2.化粧土(エンゴーベ)に加えて着色色化粧泥(カラードエンゴーベ)を作る。
3.釉薬に混ぜて色釉を作る。
4.釉下に応用する。
5.釉中に応用する。
6.釉上に応用する。
等があり、素地土、化粧土、釉下、釉中に彩料を応用する際は、彩料のみを用いればよいが、釉上に用いる際は、釉面に低火度で熔着させるために必要名分の熔剤を彩料に加えなければならない。
ゆえに彩料を説明するには一般に別けているような彩料のみを記述した、いわゆる「釉下彩料」と、釉上に低火度釉で熔着させるために彩料に熔剤を加えた「釉上彩料」とに大別される。