特殊釉

 西暦16~18世紀は世界的に多彩瓷の隆盛な時代であった。欧州では前記南欧の軟火度多彩釉の発達後、中国磁器への憧憬から、欧州諸国においてこの釉の研究に熱中し、中国磁器のような長石質磁器を初めて倣製したのは、ドイツである。フランス、オランダ、イギリス、イタリア、ロシア、と相次いでこの種製品を生産し、科学的、機械的立場からしてみれば、白磁器工業というものは、19世紀において強火度磁器釉として焼成火度も高く、完璧なる釉調のものを出すようになった。

 釉の組成は

    0.3-0.4 KNaO   
     0.6-0.7 Ca、MgO   0.8-1.0 Al  8-10.0 SiO

焼成温度は摂氏1350℃から1400℃の温度で焼かれた。

 特殊釉としても種々の釉が発明考案され、最も一般的なものとしては、
 1.結晶釉
 2.艶消釉
 3.ブリスツル釉
 4.食塩釉

等が挙げられる。

1.結晶釉

 結晶釉とは、主として釉が熔融状態から冷める際に、過剰に熔融した物質が、そのままか、あるいは他の成分と化合して結晶状に析出し、美しい装飾的な模様を表した釉である。この釉の性状は普通の陶磁器釉と比べると、概して粘性か低く、その科学組成はむしろガラスに類似したものである。結晶剤としては、鉄、マンガン、亜鉛、及びチタンの化合物、その他クロム、ウラン、銅、ウオルフラム、バナジウム、モリブデン、コバルト、ニッケル等が通常用いられる。このうち、クロム、ウラン、銅、鉄は砂金石釉(アベンチュリン)に用いられる。

 結晶釉では、中国宋代の単彩釉として、鉄 花釉、一名鉄砂釉、及び鰻皮釉、清朝の茶葉末児釉(我が国の蕎麦釉)などは鉄の結晶釉である。
 西洋で結晶釉として研究され、製品として賞賛されたものは、亜鉛結晶釉、チタン結晶釉、マンガン結晶釉、の類、及び砂金石釉としての鉄、クロム、ウラン、銅塩の結晶釉が主なるものである。

 砂金石釉(アベンチュリン)とは上記、酸化鉄、酸化クロム、酸化ウラン、酸化銅などの微細な結晶があたかも天然の砂金石が石英またはその他の鉱物と無数の雲母または酸化鉄の微晶とから出来ているかのように釉中に懸濁している有り様である。
 結晶釉を初めて研究し、発表したのは、1848年にフランスセーブル製陶所において、エーベルメン(Ebelmen)氏により亜鉛結晶釉が発表されたのが始まりである。

 初期すなわち1848年に発表された釉(焼成温度1350℃)
  ペグマタイト 5560
  炭酸石灰   1200
  カオリン    440
  砂      1600
  酸化亜鉛   1800

この科学式は
   0.16K
   0.3 CaO   0.28Al   2.34SiO
   0.54ZnO


 亜鉛結晶釉は「ウイレマイト鉱」の結晶であると一般にされている。(2ZnO・1SiO
しかし先年、工大の近藤清治博士の研究により、「ウイレマイト」の組成でなく、「メタ」珪酸塩(ZnO・SiO)の組成であって、一種の人造鉱物である事を発表されている。

 マンガン結晶釉については、Purdy氏とKrebiehl氏によって、非常に立派なる結晶が現れる事が研究発表され、我が国では北村弥一郎博士が古くこの種製品を製作された。

 チタン結晶釉は、結晶の主剤としてチタンを用いるものと、チタンを少量入れて他の鉱物の結晶促進剤として用いられる場合とがある。「モリブデン」「バナジウム」「ウオルフラム」もこれと同様な意味で結晶釉に用いられる。

 結晶釉の要点は、その組成において、塩基が比較的原子量の低い元素である事、釉の熔融の際の粘性が低いものである事、及び焼成の際の加熱状態、冷却状態に特に注意しなければいけない。加熱時間は出来るだけ急熱であることを要し、冷却時は釉の固化前後において極めて徐々である事を最も必要とする。

 砂金石釉は熔融した透明釉の中に光輝燦然とした金属光の小鱗片が一面に存在した釉調であって、普通赤鉄鉱、酸化クロム、酸化ウラニウム、雲母などの金属光の鱗片を釉に存したもので、最初は1849年にビオエレル氏により創製された。化粧掛けによってこの釉調を表したのはウオルター氏によって初めて研究発表された。また1889年のパリの万国博覧会において、アメリカのRookwood製陶所が出陳した鉄砂金釉は非常に立派なものであって、世界の陶磁界に刺激をあたえ、その後この釉の研究が盛んになった。
2.艶消釉

 艶消釉は透明釉に対し、その釉光が柔らかく温雅である釉調を呈するので、この応用に始めて注意し、発明したのは、1863年にイギリスのロイヤルウースター磁器製造所の支配人である、R.W.Binnsによって創製され、1878年よりこの種の応用陶磁器が市場に出る事になった。
 その後建築材等の製造が隆盛になるにつれ、艶消釉応用が盛んになった。

艶消釉の種類を性状によって別けてみると、
 1.塩基性艶消釉
 2.酸性艶消釉
 3.釉薬の不熔融による艶消釉
 4.釉泡による艶消釉
 5.人為的艶消釉
上記艶消釉はその組成成分により高低種々の焼成火度に適応した釉ができる。

1.塩基性艶消釉は主として釉面に結晶を析出させて艶消状を呈する、艶消釉として最も良質のものである。磁器焼成火度にて応用されものは、石灰質艶消釉で組成は、
      0.1-0.2 KNaO
      0.6-0.9 CaO   0.4-0.6 Al  2.0-2.5 SiO

これは、Anorthite(アノルサイト)(CaO・Al・2SiO)の結晶を析出するとPurdy博士は言っている。

2.酸性艶消釉
 釉の組成において珪酸分を多量に含み、徐冷する際に小結晶を釉面に析出するのであって、これはLeucite(KO・Al・4SiO)の結晶が析出するものであると言われている。塩基性艶消釉に対し組織粗造のきらいがあり、一般にはあまり用いられない。

3.釉の不熔融によるもの。不安定であるから一般には応用されない。

4.釉泡による艶消釉は艶消状も不整であり、不安定であるから一般に応用されない。

5.人為的艶消釉は、光沢釉の表面を弗化水素、弗化化合物等により腐蝕するもの又は物理的に細砂を高圧で吹き付けて、釉面に傷を付けて、釉面の光を分光させる事によって艶消状を呈するものである。

 艶消釉の応用は、1913年以降非常に隆盛となった。軟火度艶消釉は「バリウム」塩を用いた塩基性艶消釉が最も多く使用され、アメリカのロックウッド製陶所では、非常に立派なものを古くから作っている。

3.ブリスツル釉

 「ブリスツル釉」は1895年にイギリスの製陶地「ブリスツル」で創製されたためにこの名称があり、これは釉面の光沢が非常に柔らかく、石面の光沢に似通ったもので、建築陶材に最も喜ばれる釉調である。
 その組成分の一例を上げれば、
       0.18 K
       0.38 CaO   0.243 Al  1.58 SiO
       0.44 ZnO

4.食塩釉

 「食塩釉」は1688年にドイツの「エーレルス」兄弟によって発明され、その後この方法は全世界に広がったが、最も盛んに利用しているのは、イギリスのスタンフォードシャイヤであろう。
 我が国でも、土管、瓦、硫酸瓶、かめなどの焼成には、この釉法を行なっている。
 最近は食塩のみに止まらず、亜鉛の塩類をも応用している。