中国の強火度単彩釉

 この強火度及び強火度単彩釉は中国において始まり完成されたものであって、朝鮮、日本、西洋は総てこれを伝習したに過ぎず、したがって強火度単彩釉については、宗家である中国の釉薬を論ずればそれで充分足りると思う。
 故に本論については、特に朝鮮、日本のものについては詳説を省き、もっぱら中国の釉薬を基調として論じて行く事にする。しかしこの膨大な中国強火度単彩釉を限られた紙数に書き記すことはとても不可能であるから、ここでは単に要点のみを略述するに過ぎない。

 さて、中国唐宋代の陶瓷を顧みると、その製陶技術の上において、歴然と南北に分かれた著しき差異が認められるのであって、特に地勢の関係から、窯の構造、燃料、焼成法の相違により、その製品に及ぼす影響の差の著しいことは一驚を喫する程である。北方の石炭使用の平窯、南方の薪材使用の登窯、あるいは両者折中と認められる柴窯系統の中間窯等、窯の構造と燃料の差に基づき釉調の各種の特性が違ってくるのであって、北方窯は窯の構造上通風力が弱く、燃料の関係上、還元焼成が初期、中期において難しい。しかし南方窯は通風性が良く、長焔性の薪材を燃料とするため初期、中期において還元焼成になり易い。そして焼成後の冷却がし易いのである。
 故に釉のガラス化の性状の上において、前述の如く北方の窯では、結晶作用(クリスタリゼーション)、失透作用(デビトリフヒケーション)の現象が起り易く、失透釉とか結晶が生じ、光沢は鈍く、軟かく、いわゆる瑩撤(えいてつ)にして玉の如き光沢を呈する。しかし南方の窯はこれとは反対で結晶作用、失透作用は起こらず、光沢はガラス光沢で、透明性のものが多い。
 しかし南方系のものにでも成分の上において、あるいは釉泡の関係から北方系に似た失透または光沢の鈍いものもある。また釉薬の主な顔料としての鉄塩化合物と銅塩化合物の色調変化においても、鉄塩は北方窯では黄褐黒色になり易く、南方窯または柴窯系は青、緑、黒色を呈する。銅塩は北方窯では青藍色を呈し、南方窯または柴窯系では紫紅色を呈し易い。

 灰釉の発達によって、釉の鑑賞は中国において特殊のものになっていった。従来の西域の影響を受けた低火度釉は釉色においてはかなり変化があったが、高温による珪酸ガラスの固融体の表す美しさ、すなわち釉光、釉沢、釉亮、釉色などのいわゆる釉調の鑑賞がこの高火度釉の上において高潮された。
 これによって釉調を分けて見ると、光沢透明釉、光沢不透明釉、艶消透明釉、艶消不透明釉、それに釉面に結晶を析出した結晶釉とする事が出来る。
 なお唐宋代時の単彩釉の発達は、古来の銅器、玉器に負う所が甚だ大きい事を見逃してはならぬ。三代から漢代にかけての、銅器、玉器の発達は実に目覚ましいものであって、唐宋を通じてこれが珍玩鑑賞の隆盛であった事は言うまでもない。例えば傳世の玉器は古玉と言い、土中のものは舊玉、棺中より出たものは含玉と言い、あるいは天成、外秘において色沢透亮の多種多様の変化を起し、皆必、甘、夏、差奕と呼ばれて、鑑賞される。また銅器においては土中のものは、青色、水中のものは緑色、傳世品は紫褐、朱砂、あるいは蝋茶、漆黒などの色沢が、雲頭片として、芝麻点として、あるいは朱砂斑、雨雪点として千変万化な色調が表わるのである。そしてこの玉器、銅器の鑑賞眼をもって陶瓷を観るため、おのずからその釉調の標準が多々これにおかれ、なるべくこれらの妙趣に彷彿するものを賞玩した。
 たとえば「類玉」、「純粋如美玉」、「光瑩如玉」とか「磁潤」、「瑩厚」、「瑩撤」、「瑩潔」、など、中国の文献では再々見られるものであって、特に玉器の調子に比較した事が目につく。したがって製作の上においても、玉器の光沢透亮の味わい、古銅器の 色調の妙趣を、釉光、釉亮、釉色の上に表現しようと努めた傾向がある。

唐、宋代の強火度淡彩釉

 唐宋代の単彩釉をみてみると、建白瓷、粉定瓷、千峰翠色瓷、秘色瓷、哥窯、龍泉窯、官窯、汝窯青瓷、鈞窯、建窯兎毫釉、玳瑁瓷などの釉調は玉器に類し、芝麻漿釉、鉄銹釉、鉄砂釉、茶葉末兒釉、鱚皮釉などは銅器系と見るべきものである。
 さて中国各種高火度釉単彩釉を釉調の上から分類すると、大体次のように分類する事ができる。
1.「白色透明釉」饒州窯、景徳鎭窯、定窯、建窯(徳化窯)磁州窯、碎器窯
2.「青白色透明釉」越州窯、秘色窯、大観釉、天青釉
3.「青瓷釉」哥窯、年窯、官窯、修内司窯、龍泉窯、豆青釉
4.「失透釉」(月白、葱翠青、藍紫青色系)汝窯、鈞窯、宜均釉、泥均釉、欧釉
5.「失透釉」(紅紫色、朱紅色系)鈞窯、炉鈞釉
6.「明、清朝の銅紅釉」霽紅釉、郎釉、積紅釉
7.「南方窯系の鉄釉」兎毫釉、玳瑁瓷、鱚皮釉、茶葉末兒釉、鉄銹花釉
8.「北方窯系の鉄釉」芝麻漿釉、鉄銹花釉、黒定釉
9.「青藍色釉」霽青釉、天藍釉、吹青釉

 なお、これらの外にも色々と異なる釉調のものがあり、またこれらの分類のものが、判然と別れたものでなく、他の部類にも表われる事があるから厳密な分け方とは言えない。
 また、これらの強火度単彩釉は前述のように、草木の灰と土石と鉄塩もしくは銅塩の彩料が混合されて出来ているものであって、焼成火度は大体摂氏1250℃より1300℃程度である。
 なお、これらの釉調の上から見ると、釉薬というものが色々と変わらねばならない様に考えられ、その組成分には大差が認められるが、釉薬は存外簡単なのである。一例を挙げてみると、
 ある種の珪長石と藁灰と松木灰の三釉料を用いて、摂氏1300℃にて熔融する各種の異なった配合を作り、磁器焼成と同じ状態で焼き、その焼き上がり後の釉調を調べて見ると、(三角円表にて図示す)

        珪長石、藁灰、松木灰、百分率表
        焼成火度摂氏1300℃ 還元焔焼成


 これに用いた釉料の組成分は次のとおりである。

 珪長石   0.86 KNaO
       0.14 CaO    1.21 Al  7.8SiO(Fe

 松木灰   0.02 KO 
       0.01 Na
       0.80 CaO    0.07 Al   0.29SiO
       0.17 MgO    0.015 Fe

 藁灰    0.26 KO 
       0.13 NaO 
       0.52 CaO    0.09 Al  10.8SiO
       0.09 MgO    0.04 Fe



(1) 釉泡が多く釉光鈍く、完全に融化しない。中国の哥窯碎器釉、我が国の志野釉調の釉調を呈す。
 配合量
 (珪長石)70-80%、(松木灰)10-20%、(藁灰)5-15%
       0.35-0.52 KNa
       0.39-0.53 CaO    0.52-0.73 Al   3.42SiO
       0.08-0.11 MgO    0.00-0.02 Fe

(2)釉泡の細かいものを多く含み、釉光は少々鈍い。龍泉窯の青色淡い釉調に似ている、少し鉄塩が混入すれば立派な青磁である。
 配合量
 (珪長石)65-75%、(松木灰)20-30%、(藁灰)0-10%
       0.28-0.39 KNa
       0.52-0.60 CaO    0.39-0.52 Al   2.50-3.45SiO
       0.10-0.12 MgO    0.01-0.02 Fe

(3)釉泡が少しあり、釉光が良いが失透性を少し帯び、鈞窯の月白釉の調子を呈す。我が国の瀬戸の「卵の斑(うのふ)」釉類似の釉調を呈す。
 配合量
 (珪長石)50-60%、(松木灰)30-40%、(藁灰)5-15%
       0.18-0.25 KNa
       0.61-0.66 CaO    0.29-0.38 Al   1.84-2.49SiO
       0.13-0.15 MgO    0.02 Fe

(4)釉泡がなく、釉光はすこぶるよく、透明性にて、越州窯の釉調、我が国の瀬戸の春慶釉、あるいは古い黄瀬戸釉、御深井釉または伊賀焼の「ビードロ釉」に類似するもの。
 配合量
 (珪長石)30-40%、(松木灰)55-65%、(藁灰)0-10%
       0.09-0.13 KNa
       0.70-0.74 CaO    0.16-0.20 Al   0.94-1.24SiO
       0.10-0.16 MgO    0.01-0.02 Fe

(5)(4)の釉面に艶の消えた結晶を表す、越州窯または象山窯の釉面に往々現れる結晶紋で淡い暗褐色を呈す(灰長石の結晶である)我が国では瀬戸の「堀の手」のものに、時々見る釉調である。
 配合量
 (珪長石)25-35%、(松木灰)50-60%、(藁灰)10-20%
       0.09-0.12 KNa
       0.70-0.74 CaO    0.17-0.36 Al   1.03-1.36SiO
       0.16-0.17 MgO    0.02 Fe

(6)釉光がよく、失透性はやや強く、我が国の萩焼の藁灰釉、信楽焼の白萩釉に類似のものである。
 配合量
 (珪長石)30-40%、(松木灰)30-40%、(藁灰)25-35%
       0.13-0.19 KNa
       0.56-0.67 CaO    0.24-0.36 Al   1.73-2.98SiO
       0.17-0.23 MgO    0.03-0.06 Fe

(7)釉光がやや鈍く、失透性が強く、全く乳白調であって、中国明代宜興の欧釉、我が国の萩焼藁白手の濃厚な調子のものである。

 配合量
 (珪長石)30-40%、(松木灰)15-35%、(藁灰)40-50%
       0.17-0.26 KNa
       0.50-0.59 CaO    0.32-0.40 Al   2.55-3.55SiO
       0.19-0.23 MgO    0.04-0.06 Fe

(8)釉光が良く、釉も透明性であるが釉面に結晶を表す、石灰質結晶釉に類似していて、結晶面は光沢がない。
 配合量
 (珪長石)15-25%、(松木灰)65-75%、(藁灰)5-15%
       0.05-0.08 KNa
       0.74-0.77 CaO    0.11-0.15 Al   0.65-0.89SiO
       0.16-0.20 MgO    0.01-0.02 Fe

(9)釉光が良く、釉は少し失透性である。釉面に結晶を表す、白紋釉と称するものはこの種のものである。
 配合量
 (珪長石)20-30%、(松木灰)30-40%、(藁灰)35-45%
       0.10-0.18 KNa
       0.61-0.74 CaO    0.16-0.29 Al   1.64-2.23SiO
       0.14-0.21 MgO    0.01-0.05 Fe

 このように、単なる三角座標でも白釉のあらゆる釉調を呈する。もちろん窯の焼成状態及び冷却状態等によっても、色々と釉調の変化があるが、組成分の変化に伴う釉調は比例によって概略をうかがう事が出来る。

唐、宋代の強火度鉄釉
 唐宋代強火度単彩釉において、種類の多い鉄釉の組成分による釉調変化の一例を挙げると、前記同様、磁器窯、摂氏1300℃、還元焼成にて焼成した釉調を調すると別表のとおりである。(三角図表にて図示する)

          珪長石、藁灰、松木灰、百分率表
          別に、酸化鉄十パーセント混加
          焼成火度1300℃ 還元焔焼成


(1)釉光は金属光を呈し、鉄赭色の釉面に金属光の結晶が出る。宋代の鉄繍花釉、我が国で通称「鉄砂釉」と呼ぶ釉調である。
 配合量(下記釉科の外一割の酸化鉄混和)
 (珪長石)75%、(松木灰)15%、(藁灰)10%
       0.43 KNa
       0.47 CaO      0.62 Al    4.07 SiO
       0.10 MgO      0.26 Fe

(2)釉光が良く、釉泡を多く含み、漆黒色の釉調である。宋代磁州窯の黒釉(黒定釉)我が国の瀬戸の古瀬戸釉の厚い釉調、普通天目釉と称する釉調に類似のものである。
 配合量(同上)
 (珪長石)65%、(松木灰)30%、(藁灰)5%
       0.28 KNa
       0.60 CaO      0.39 Al    2.50 SiO
       0.12 MgO      0.18 Fe

(3)釉光が良く、釉泡もなく、赤褐色の透明釉であって、我が国で飴釉と呼んでいる釉調のもので、宋代吉州窯の褐釉に類似のもの。
 配合量(同上)
 (珪長石)50%、(松木灰)45%、(藁灰)5%
       0.18 KNa
       0.68 CaO      0.26 Al    2.01 SiO
       0.14 MgO      0.14 Fe

(4)釉光がよく、釉泡もなく、黒褐色釉の釉面に黄緑色の小結晶紋が出る。中国明、清代の鱚皮釉と称する釉調に類似のもの。
 配合量
 (珪長石)45%、(松木灰)25%、(藁灰)30%
       0.24 KNa
       0.59 CaO      0.36 Al    2.01 SiO
       0.17 MgO      0.21 Fe

(5)釉光はやや鈍く、釉泡がなく、釉面は黄緑色の微細な結晶が析出する。清朝の茶葉末兒釉の釉調に類似する、我が国ではこれも蕎麦手として賞美する釉調である。
 配合量(同上)
 (珪長石)40%、(松木灰)35%、(藁灰)25%
       0.19 KNa
       0.64 CaO      0.30 Al   2.01 SiO
       0.17 MgO      0.17 Fe

(6)釉光がなく、全く艶消状を呈し、灰黄色である。通称、伊羅保手と称する釉調。
 配合量(同上)
 (珪長石)30%、(松木灰)65%、(藁灰)5%
       0.10 KNa
       0.73 CaO      0.16 Al    0.94 SiO
       0.16 MgO      0.10 Fe

(7)釉光が良く、褐色釉に失透性の釉調を持ち、兎絲紋を表す。宋代吉州窯の玳瑁釉の釉調のもの。
 配合量(同上)
 (珪長石)30%、(松木灰)50%、(藁灰)20%
       0.13 KNa
       0.70 CaO      0.20 Al    1.34 SiO
       0.17 MgO      0.12 Fe

(8)黄褐色の光沢のよい釉面に、金色の光輝の結晶を表した釉調で、我が国では金紋釉と称して、京都、瀬戸などで、製作されているものに類似のもの。
 配合量
 (珪長石)25%、(松木灰)35%、(藁灰)40%
       0.15 KNa
       0.65 CaO      0.25 Al    1.90 SiO
       0.20 MgO      0.17 Fe

 このように、中国灰釉の釉調はその釉薬原料の上から考察すると割合簡単であるが、その素地との関係、焼成状態、冷却状態の如何によって、釉調の変化はかなり大きい。透明度が亮々である「ビードロ釉」と、不透明の釉とは、釉調の上から見ると大差があるが存外組成は似かよっているのであって、珪長石の器は同一であるが、藁灰と樹木の灰の量の多少によるのみである。
 鉄釉においては、基礎原料の一割の酸化鉄を混和したものは一例に過ぎないが、鉄の量を色々と変化させれば、多種多様の釉調のものを得られるのである。