釉薬の「組成」と「焼成」と「性状」の関係
陶磁器釉薬の本質を考究する上において、最も重要な要素は、その「組成分」と「焼成温度の高低」「焼成状態」であって、これにより釉の熔融作用、固化作用が起り、釉光、釉沢、釉亮、釉色等の釉調を表すのである。
釉の組成分を構成する元素を表示すると、
これらの組成分の内にて無色釉に用いられる一般の釉薬原料を表示すれば、
釉料に使用する主な原料
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上記のように、彩料は化学があまり発達していない時代は主として天然産のものを用いたが、化学が発達してからは、人工的に種々の彩料を用いるようになった。
低火度用として、古来一般に用いられた彩料は、
鉛塩として、方鉛鉱(ガレナ)、蜜陀僧、唐土、鉛丹の類
ソーダ塩としては天然ソーダ、硼砂類、
珪酸その他の塩としては、珪砂、砂、陶土、長石、陶石、白亜(しっくい)、滑石、石灰石の類
着色剤としては、緑色には黄銅鉱、緑青、丹礬の類
黄褐色には、黄鉄鉱、黄土、紅土、褐鉄鉱他の鉄塩、後代淡色鮮黄色には「唐白目」すなわち酸化アンチモン塩を用いる。
青藍、紫藍釉には、コバルト塩が用いられ、中国で「回青」と称する類のもの、
青紫色、紅紫色には、後代「碗花」「石花」と称し我が国では「呉須」と称するもの、またはマンガン塩が用いられた。
中国唐、宋代以後に発達した強火度釉の釉薬は、軟火度釉の釉薬と大分趣きを異にしたものである。珪酸、アルカリ、アルカリ土類、軽金属、アルミナ類としてで、着色剤としては軟火度釉と同じく重金属塩である。
珪酸の釉料としては、珪岩、珪砂、草、竹の灰の類、
珪酸、礬土(アルミナ)としては、陶土、磁土、粘土類、
珪酸、礬土、アルカリ類としては、長石、陶石、種々の岩石類、
アルカリ土類の釉料として、滑石、白亜(しっくい)、白雲石、石灰石、貝殻、各種木の枝葉の灰類、
燐酸塩(失透釉料用)草木、樹木の根の灰、動物の骨灰、卵の殻等、
着色剤としては、鉄塩、銅塩を主とし、コバルト塩も応用される、その他重金属塩、
特殊釉薬として、ガラス粉、宝石粉、窯汗(石灰窯の窯肌に熔滓として成生したもの)などが用いられる。このように釉薬は多種多様にわたるが、これらがある配合において釉を構成した釉の「組成」と熔融関係は、釉の技術的考察において、最も重要なることである。
釉の組成分は、化学的にいえば、
珪酸、(SiO2)礬土(Al2O3)
アルカリ塩として、ソーダ(Na2O)カリ(K2O)
アルカリ土類として、石灰(CaO)苦土(マグネシア)(MgO)重土(バリウム)(BaO)
酸化金属塩で、白釉科となるもの、鉛(PbO)亜鉛(ZnO)錫(SnO2)等、
酸化金属塩で着色剤になるもの、鉄(Fe2O3)または(FeO)銅(CuOまたはCu2O)
コバルト(CoO)マンガン(MnO)その他、金、銀、ニッケル、クロム、ウラニウム、等多種に及ぶ。
釉を組成する以上の酸化物が熔融するには、各単味だけだと、かなり高温度を要する。
珪酸は摂氏1800℃内外、礬土は摂氏2000℃を必要とする。またアルカリ土類各種も単味であれば高温でなければ熔融しない、しかしこれらが混和されればかなり熔融度を低下させることができる。また熔融し、透明性を付与し、光沢を出すなどの、釉光、釉沢、釉亮、など熔融による釉調は一定の組成を必要とする。釉の組成を考究する時に最も理解し易い研究法は、ゼーゲル化学式によるものである。
簡単にこの化学式を説明すると、一般に白釉が構成されるのは酸化物であって、その主なものは、
SiO2、B2O3、Sl2O3、K2O、Na2O、CaO、MgO、BaO、ZnO、PbO、SnO2、等である。
ゼーゲル化学式は、その熔融の性状の上から、酸基と塩基と中性基とに分ける。
酸基は SiO2、B2O3、SnO2、
塩基は K2O、Na2O、CaO、MgO、BaO、ZnO、PbO、
中性基は Al2O3
各基を分子数にて表わし、塩基の分子数を基準とする。要するに塩基の分子数を1.0とし、酸基、中性基との比を化学式にて表わす。
1.塩基に対する珪酸の比率、
2.塩基の種類及び塩基交互の比率、
3.塩基及び珪酸に対する礬土の比率、
4.塩基としての珪酸及び硼酸の比率、
上記の組成の関係より、その釉の熔融度、光沢、透亮、などの釉の性状を大体補う事が出来るのである。
なお、珪酸塩の組成分と熔融度の関係は組成が非常に複雑であるため、簡単に解明する事は難しいが、その基礎的概念を得るため、単塩分子比による熔融度を表示すると次の通りである。
1. 珪酸と酸化鉛
1. 0 SiO2 : 0.5 PbO 680℃
〃 〃 : 1.0 〃 600℃
〃 〃 : 1.5 〃 540℃
〃 〃 : 2.0 〃 550℃
〃 〃 : 2.5 〃 580℃
〃 〃 : 3.0 〃 620℃
〃 〃 : 3.5 〃 700℃
上記を曲線にして表すと、下記の通りとなる
2.珪酸と「アルカリ-」、「アルカリ-土類」「アルミナ」の組成分と熔融度の関係
3.珪酸と「アルカリ」と「アルカリ土類」またはアルミナとアルカリ土類の復塩の熔融度関系
4. 磁器強化度釉を構成する主原料たる、石灰、長石、珪石の3原料の重量比による熔融関系を三角図表に表す
この共融点は三原料の配合比の最も熔融度の低い割合であって、摂氏1670℃にて熔融する。
各成分において、釉の熔融及び融固後の作用及び性状について概略を述べると、
(1)珪酸の過剰は透明性を減じ失透作用を起し、また粗面すなわち「アバタ」状になりやすく、素地との膨張率の関系上、釉の「剥離」の欠点が起こりやすい。
不足の場合は釉が熔融の際に煮えやすく、泡が生じ、素地との膨張率の関系上、釉に「貫入」の欠点が起こりやすい。
(2)礬土(アルミナ)分は、両性の安全弁であって、釉の「剥離」「貫入」等の欠点を防ぐ、釉の融固後の結晶作用、失透作用を防ぐ、この混入が過剰の際は、量に正比して熔融度を高める、また釉の粘性(ヴィスコシティ)を増すと共に釉泡が生じ易い。
(3)「石灰」の過剰は、結晶作用を起し釉光を消し、泡を生じ易い。しかし適量は釉の透明性を良くし、熔融度を良好にする。
(4)「苦土(マグネシア)」は「石灰」とその性状が同じであり、若干耐火性を高める。
(5)「重土(バリウム)」は石灰と類似しているが、熔融度は低く、釉光を良くする。また酸化焔では釉面に流晶(サルファリングまたはフィザリング)作用(一種の結晶作用)を起し艶消状を呈したり、泡を吹き易い。
(6)「鉛」は、熔融温度を低め、釉光を非常に良くする。ただし有毒性を持ち、還元焔で焼成すれば黒色に変化し易い。
(7)「蒼鉛」鉛と同様に釉の熔融度を低下させる。各塩類のなかで最も熔融度を低めるものである。
(8)「ソーダ」、「カリ」は釉の熔融度を低めると共に過剰の場合は釉を可溶性にする。
(9)「硼酸」は珪酸と同じく酸基として作用し、熔融度を低め、光沢を良くする事を特徴とするが、「ソーダ」「カリ」と同じく水溶性であるから多くを用いる訳にはいかない。使用に際しては必ず「フリット」にして用いなければならない。
(10)「ジルコニウム」は普通釉の失透剤として用いられるが、「ステッフェンソン」氏は摂氏1300℃以上の釉では「ジルコニウム」の混入により釉光を極めてよくするという事を発表している。
(11)「錫」、「アンチモン」、「亜鉛」は釉を失透させる作用がある。
(12)燐酸、亜比酸、弗酸塩は融化に際し、釉に失透性を帯びる。
釉の物理的性状としての、各粒子の細粗は熔融度に対しては、細密な程、熔融度を低下させる。
釉の「焼成」と「冷却」とがその性状に及ぼす関系は、急熱、急冷は釉光を良くし、透亮を良くするが釉泡が多くなる。徐熱、徐冷は釉光を悪くし、特に徐冷の場合は釉亮を悪くすると共に、結晶(クリスタリゼーション)、失透(デビトリフィケーション)作用を起し易い。故に同一成分の釉でも急熱、急冷させたものは釉亮、釉光が非常によく、徐熱、徐冷のものは釉光、釉亮が鈍い。かの中国唐代の越瓷の釉調のように、その釉亮な事が清澄なる春水の如くであるが、ほとんど成分が同一の鈞窯瓷の月白釉は、徐熱徐冷のため、青白玉の様な瑩沢、失透の釉調をなしている。
元来釉光というものは釉が反射をもつ事であって、反射は屈折率によるものであり、屈折率が大きくなる程光が弱く、色調も美しくなるのである。屈折率は熔融程度及び釉の組成分に影響する事が多く、陶磁器釉のように珪酸、珪酸塩のガラス化の屈折率は、これに加えられる塩基の分子量に正比例するものである。故に分子量の多い鉛、重土釉等は釉光が非常に強い訳である。
焼成焔すなわち酸化焔、中性焔、還元焔焼成の作用は主として釉色を変化させるものである。釉を着色する酸化金属の酸化状態を変化させる。したがって種々の金属によりその変化も多種多様になってくる。
釉の着色の多くはその中に熔かされた金属酸化物の色による事が多く、時には金属が「コロイド」状態で釉中に散乱して、あたかも金の膠質溶液が美しい赤色を呈するのと同じ様な状態の時もある。
このように釉の組成と釉の性状及び釉調の関系は非常に複雑微妙であるが、それだけに興味のある問題でもある。

