陶磁器の素地による分類
磁器の素地土及びその原料は陶磁器製品の種類により異なった性質のものが選ばれる。大体陶磁器製品の種類の分類は色々の方面より分ける事が出来るが、最も一般的な分類として、胎質の性状から分類された名称に次の様な分け方がある。
土 器 Clay Ware (Irden Waaren)
陶 器 Faience, Earthen Ware (Stein gut)
炻 器 Stone Ware (Stein zeug)
磁 器 Porclain (Porzellan)
この分類の区別は正しく明確な分け方ではなく、大体の範囲を示したに過ぎない。
土器、陶器はその製品の素地の性質が何れも多孔質で吸水性を有し、その器物が「粗」であるものを土器と称し、「精」であるものを陶器と言っている。
陶器には、その素地の組成が粘土が主成分でその粘土の焼成固化によりその製品が出来ているものを粘土質陶器と言い、素地の粗成分に石灰質の原料が混入されていて、熱によって石灰の作用により固化した陶器を石灰質陶器と言う。
これと同様に白雲石(石灰、苦土炭酸塩)が混入されたものを白雲質陶器と言う。長石が混入されて、熱により熔剤作用を起し固化したものを長石質陶器と言う。
前記粘土質陶器、石灰質陶器、白雲質陶器の類は軟質陶器と言われ、長石質陶器の事を一般に硬質陶器と言う。これら固化が完全に熔化したものをアメリカでは「ヴィトリアス、チャイナ」(熔化陶器)又は「セミボースレン」(半磁器)などと命名している。衛生陶器などは最近この種のものでなければならなくなった。
炻器及び磁器の素地は熱のために熔化、磁器化してよく焼き締り吸水性のない性状のものである。炻器は有色素地が普通であり、透明性のないものを指すものであり、磁器の素地は主として白色で透明質を帯びたものである。
磁器素地もその組成分と焼成温度等により硬質磁器と軟質磁器に大別される。科学用、加熱用、電気用磁器類及び洋食器用磁器は硬質磁器であり、東洋の中国及び我が国の古来よりの磁器及びドイツの「ゼーゲル」磁器、フランスの「セーブル」新磁器、「フリット」磁器、骨灰磁器等は軟質磁器である。
中国では素地質を分類するのに
1. 透き通りのよい磁器素地のものを「脱胎」
2. 透き通りの鈍い磁器素地のものを「磁胎」
3. 厚手の素地で白くて吸水性なく透き通っていないものは「石胎」
4. 白い陶器素地で吸水性のあるもの、すなわち水が表に「ニジミ」出るものを「将胎」
5. 少し色の着いた石器質のものを「缸胎」
6. 青磁の真っ黒な紫に鉄足のような調子の炻器素地のものは「鉄胎」と分けている。
なかなか素地質の分類として明瞭な分け方である。
各陶磁器の素地にいて各素地の3主成分である粘土質分、長石分、珪石分の示性分つき、大体の範囲を三角座標により表示すれば、次の図のようになる。
土器は粗陶器の類であり、いずれの国も古来から産し、技術的に見ても極めて幼稚な類のものであるので、説明するにはあまりにも卑近であるから述べない。
陶器は前述のように粘土質素地、石灰質、あるいは白雲質素地であって、粘土質素地では焼成火度の低いものでは我が国の楽焼の類がある。これは焼成固化作用によるものでこの種のものは、釉との関係が熱に対する膨張率の差が大なるため釉の亀裂(貫入)は免れぬ様である。
石灰質素地のものは粘土質素地のようにその焼成火度が千差万別ではなく、ほとんど一定であり、石灰の熔化作用の適度のところを要するものである。摂氏1200℃の間が素地の焼成火度とされている。この種の陶器としては、世界的に「イタリア」「スペイン」の「マジョリカ陶器」、「オランダ」の「デルフト陶器」がある。
「イタリアマジョリカ」陶器の代表的配合率を示せば
藍白色素地 褐 色 素地
アーカイルの粘性粘土 8.0 30.0
粘土質緑色マール土 36.0 32.0
石灰質白色マール土 28.0 10.0
黄色砂 28.0 28.0
(「マール土」は石灰を含む石灰質粘土の名称である)
「オランダ」のデルフト陶器の成分を挙げれば
珪 酸 49.07
礬 土 16.19
酸 化 鉄 2.82
石 灰 18.01
苦 土 0.82
そ の 他 13.09
我が国では現代盛んに作られる「エナメルタイル」は主として石灰質陶器である。
長石質陶器は世界ではイギリス、ドイツがもっとも古くから発達し、イギリスでは最初(1670年頃)に作られた代表的な示性成分を挙げれば
粘土質分 50.0
珪石分 45.0
長石分 5.0
その他各国で生産した平均成分を示すと
ヨーロッパ イギリス アメリカ
ヴィトリアス セミヴィトリアス
熔化陶器 半熔化陶器
粘土質分 45~55 40~50 45.0 52.0
珪石分 35~45 35~45 36.0 24.0
石灰分 ――――― ――――― 1.5 ――――-
すべてこれらの焼成温度は摂氏1200℃内外である。工業試験所にて分析し、各国代表的白色陶器素地の科学分析を挙げてみれば、
| 品 名 | 珪 酸 | アルミナ | 酸化第二鉄 | 石 灰 | マグネシア | カリ | ソーダ | 灼熱減量 | 合計 | 番号 |
| 金沢硬質陶器素地 | 78.84 | 14.86 | 0.34 | 0.12 | 0.36 | 2.56 | 0.18 | 2.86 | 100.12 | 85 |
| イギリス硬質陶器並素地 | 75.18 | 19.95 | 0.55 | 1.21 | 0.28 | 1.91 | 0.80 | 0.48 | 100.36 | 87 |
| イギリス陶器素地 (石版絵附品) |
74.53 | 20.29 | 0.68 | 0.94 | 0.16 | 1.70 | 1.12 | 0.66 | 100.08 | 90 |
| イギリス陶器素地 | 66.51 | 21.01 | 0.69 | 1.53 | 0.37 | 2.00 | 0.64 | 7.50 | 100.25 | 91 |
| イギリス陶器素地 | 65.22 | 23.00 | 0.68 | 1.19 | 0.31 | 1.88 | 0.43 | 7.61 | 100.32 | 95 |
| 同(〃) | 66.39 | 21.71 | 0.53 | 1.38 | 0.25 | 1.67 | 0.56 | 7.64 | 100.13 | 96 |
| アメリカ衛生用陶器素地 | 67.89 | 19.54 | 0.93 | 0.90 | 0.16 | 3.06 | 1.65 | 6.00 | 100.12 | 99 |
| ドイツ陶器素地 | 60.53 | 27.24 | 0.69 | 0.32 | 0.32 | 1.12 | 0.19 | 9.90 | 100.31 | 100 |
| 同(〃) | 59.74 | 20.43 | 0.65 | 6.30 | 0.24 | 0.60 | 0.11 | 12.05 | 100.12 | 101 |
| 同(〃) | 69.99 | 20.71 | 0.49 | 0.27 | 0.31 | 1.30 | 0.40 | 6.75 | 100.22 | 102 |
| 同(〃) | 64.08 | 21.42 | 0.52 | 2.85 | 0.30 | 1.21 | 0.30 | 9.45 | 100.13 | 103 |
| オランダマジョリカ素地 | 65.51 | 13.47 | 0.43 | 8.25 | 0.32 | 0.36 | 0.25 | 11.55 | 100.14 | 104 |
炻器質素地は主として粘土質物であって長石、珪石を少量を含み、我が国の唐津、古瀬戸、三田、八代、万古、常滑、備前、信楽、伊賀、高取、相馬、温古、古酋部、朝日、赤肌焼など、非常に多種多様におよび、中国の青磁、天目、海鼠、南蛮手、イギリスのダルトン工場などで製作される「クリンカーウェア」などもこの種類である。焼き上がりの素地質は不透明質、有色素地で全く吸水性のないものである。その有色色素地は黄褐色、赤褐色、黒褐色を呈し、主として鉄の含有量の多少と焼成火度の高低及び焼成状態により素地色が変わり、大体において色調の濃淡は鉄の量に比例して、焼成状態は酸化焔よりも還元焔、冷却が急より緩やかな方が色は濃くなる。
炻器素地の焼成火度は大体において、摂氏1200℃より摂氏1300℃の間である。最近科学用に使われる耐酸質の炻器類は摂氏1300℃以上で焼成するものである。
炻器、有色陶器素地の全分析を挙げれば
| 品 名 | 珪 酸 | アルミナ | 酸 化 第二鉄 |
石 灰 | マグネシア | カ リ | ソーダ | 灼 熱 減 量 |
合 計 | 番号 |
| 常滑土管素地 | 71.46 | 15.08 | 2.85 | 0.59 | 0.39 | 1.91 | 2.35 | 5.38 | 100.01 | 105 |
| 布志名素地 | 64.25 | 23.27 | 1.56 | 0.45 | 0.46 | 1.90 | 1.26 | 7.24 | 100.39 | 106 |
| 万古素地 | 63.08 | 19.86 | 5.00 | 0.62 | 0.68 | 1.92 | 2.01 | 6.83 | 100.00 | 107 |
| 萩素地(甲) | 61.54 | 23.86 | 1.94 | 0.55 | 0.45 重0.36 |
2.07 | 0.63 | 9.26 | 100.30 | 108 |
| アメリカテラコッタ素地 | 59.82 |
28.40 |
2.81 |
0.31 |
0.36 重0.17 |
0.88 |
0.58 |
7.01 |
100.27 |
109 |
| 同 | 65.13 | 23.63 | 2.03 | 0.33 | 苦0.38 | 1.48 | 0.66 | 6.45 | 100.26 | 110 |
| アメリカ耐酸炻器素地 | 63.55 | 22.32 | 3.50 | 0.68 | 0.47 | 0.76 | 0.87 | 7.93 | 100.08 | 111 |
磁器素地は白色であり、半透明に磁器化し、全く吸水性がなく、硬度も陶器などに対し硬いものであって、陶磁器素地としては最高級のものである。
磁器素地は陶器、炻器素地に対して色が白く幾分透明性があって、割合に光沢があり、貝殻状すなわち一見乳白色ガラスのような状態を呈す。しかし、ガラスのように熔融状ではなく単に熔化したものである。すなわち珪酸塩の磁化した状態のものである。
白磁器素地が創製されたのは中国であって、江西省越州窯において唐代に発明されたものである。我が国では慶長年間に佐賀県有田にて李参平が創製し、朝鮮では高麗朝に創製され、西洋では17世紀末から18世紀の初めにかけ「スペイン」では「フリット」磁器、ドイツでは長石質磁器、イギリスでは骨灰磁器が創製され、その後各種の特殊磁器素地、電気用、科学用、高熱用の磁器素地が発明された。
磁器素地をその成分、焼成火度、製品の性状、用途などにより分類すると、硬質磁器と軟質磁器とに大別され、硬質磁器は高圧電気用、化学用、高熱用、西洋食器用磁器として、軟質磁器は、東洋磁器すなわち中国磁器、日本磁器、ドイツ「ゼーゲル」磁器、フランス「セーブル」磁器、「フリット」磁器、骨灰磁器に分類される。
磁器素地の硬質、軟質はひとつには粘土質物質の含有量の多少によるものであって、粘土質物質が多い場合は素地を磁器化するために焼成火度は高温度を要し、摂氏1350℃以上で焼かれるとその素地の焼成後に素地に針状結晶を生じ、非常に硬度が強くなり強靱性を有する。この結晶をSilimanaite(Al2O3・SiO2)と名付けている。
ドイツのゼーガー博士が食器用白磁器について成分上より分類した論述によれば、
1. 硬質ヨーロッパ磁器は粘土質物が5割以上に達し、珪石、長石をその残量適宜に含有する。
2. 中国及び日本磁器は、粘土質物が4割内外であり、残量の内長石より珪石の方を多量に含有するものである。
3. フランスの「セーブル新磁器」は粘土質物を多量に含み、珪石、長石の中に石灰を多量に含有するものである。
4. フランスの「リモージ磁器」は長石分の含有量が4割に達し、珪石分が適量であり、粘土質物質が比較的少なく、少量の石灰分を含有するものである。
5.「スペイン」「フランス」の「フリット磁器」は「フリット」を多量に含み、少量の石灰、粘土質物質を含有する。
6.イギリスの「骨灰磁器」は、骨灰を5割内外含有し、粘土質物質と長石は適量であり、少量の珪石を含有する。
なお、ゼーガー博士の発明による「ゼーゲル磁器」は東洋磁器に類するものであって、粘土質物質は4割以下であり、長石の量は比較的多く適量の珪石を含むものである。(何れも前記一般陶磁器素地の示性成分表参照)
硬質特殊磁器素地として、化学用、電気用は6割以上の粘土質物質を含有し、長石、珪石を適量に有するものであるが、高熱用、耐熱用として、最近「マグネシア」を多量に含むもの、その原料として、滑石を主原料とした「滑石磁器」「タルク磁器」「ステアタイト磁器」と称するものがある。また最近耐熱用として「アルミナ」を多量に含む、「ムライト」磁器などが作られるようになった。
次に、本邦磁器素地、欧州磁器素地の示性成分、及び平均化学成分を挙げれば、次表のとおりである。
欧州の軟質磁器素地の配合量の一例を示せば
| 粘土質物質 | 長 石 | 石 英 | |
| 江沼郡九谷陶器会社製 | 46.82 | 21.76 | 31.42 |
| 砥部向井和平製 | 43.44 | 6.12 | 50.44 |
| 肥前前田浦川俊蔵製 | 39.10 | 3.42 | 57.48 |
| 瀬戸高島徳松製 | 38.70 | 43.30 | 18.00 |
| 同加藤春光製 | 37.52 | 38.84 | 23.64 |
| 肥前三河内豊島政治製 | 36.60 | 13.85 | 49.55 |
| 瀬戸加藤五助製 | 35.87 | 42.31 | 21.81 |
| 同加藤周兵衛製 | 33.76 | 52.82 | 13.42 |
| 同川本惣吉製 | 32.48 | 42.74 | 24.78 |
| 美濃笠原柴田鶴助製 | 32.12 | 45.98 | 21.90 |
ヨーロッパ産磁器素地の示性成分
| 粘土質物質 | 長 石 | 石 英 | |
| ベルギー ハル | 57.92 | 10.02 | 26.06 |
| フランス リモージュ | 56.32 | 23.49 | 20.21 |
| ドイツ ベルリン | 54.92 | 21.56 | 23.52 |
| フランス 西リモージュ | 54.36 | 26.40 | 19.24 |
日本産磁器素地土平均成分
| 尾 張 18種平均 |
九 谷 9種平均 |
京 都 5種平均 |
出 石 3種平均 |
砥 部 4種平均 |
肥 前 18種平均 |
会 津 1 種 | |
| 珪 酸 | 70.35 | 71.21 | 73.66 | 75.91 | 76.28 | 76.94 | 79.21 |
| アルミナ | 21.86 | 22.59 | 20.00 | 19.59 | 19.13 | 18.31 | 17.72 |
| 酸化鉄 | 0.74 | 0.64 | 0.67 | 0.70 | 0.82 | 0.78 | 0.23 |
| 石 灰 | 0.57 | 0.33 | 0.62 | 1.02 | 0.32 | 0.49 | 0.14 |
| マグネシア | 0.24 | 0.38 | 0.12 | 0.30 | 0.41 | 0.32 | 0.18 |
| カ リ | 4.13 | 4.78 |
2.97 | 1.96 | 3.00 | 2.54 | 2.12 |
| ソーダ | 1.75 | 1.84 | 0.53 | 0.20 | 0.78 | 0.06 | |
| 合 計 | 99.64 | 99.93 | 99.98 | 100.01 | 100.16 | 100.16 | 99.66 |
ヨーロッパ及び中国産磁器素地土平均成分
| マイセン 5種平均 |
維 納 3種平均 |
セーブル 6種平均 |
ベルリン 4種平均 |
リモージュ 10種平均 |
ボヘミア 4種平均 |
中国 9種平均 | |
| 珪 酸 | 58.75 | 59.76 | 63.18 | 67.51 | 68.26 | 71.87 | 70.50 |
| アルミナ | 35.03 | 34.57 | 29.83 | 26.81 | 25.16 | 23.57 | 21.26 |
| 酸化鉄 | 0.70 | 0.76 | 0.09 | 0.91 | 0.73 | 0.29 | 1.46 |
| 石 灰 | 0.28 | 1.72 | 3.79 | 0.30 | 1.30 | 0.75 | 0.73 |
| マグネシア | 0.20 | 0.97 | 0.07 | 0.33 | 0.05 | 0.02 | 0.11 |
| カ リ | 4.27 | 1.59 | 2.86 | 3.39 | 4.68 | 2.46 | 5.48 |
| ソーダ | 0.31 | 0.15 | 1.04 | ||||
| 合 計 | 99.54 | 99.37 | 99.82 | 99.46 | 100.18 | 100.00 | 99.54 |
1. 石灰含有磁器(焼成火度摂氏1200℃~1300℃)
粘土質物質 2.50 ~ 40.0 %2. ゼーゲル磁器(焼成火度炻器1250℃~1300℃)
珪 石 0 ~ 50.0 %
長 石 25.0 ~ 60.0 %
石 灰 石 0.5 ~ 2.0 %
カオリン 15.03. 骨灰磁器(焼成火度摂氏1250℃内外)
粘性粘土 13.2
長 石 30.0
珪 石 41.8
カオリン 27.54. 「フリット」磁器
骨 灰 45.0
長 石 30.0
珪 石 2.0
「フリット」の調合
硝 石 220
食 塩 70
明 礬 35
石 灰 石 30
珪 石 60
上記配合物を熔融し、「フリット」にする。
素地の配合
「フリット」 60.0
石 灰 石 20.0
粘性粘土 20.0
なお、素地土調整及び製作技法については、後に「製作技法」において記述する。

