1 陶磁器の胎土、胎質
「はるか昔、未開で野蛮な無衣の時代、人々は洞窟に移住し荒削りの石弩で狩り得た野獣の皮を身に纏い、荒い棍棒で脅迫して妻を略奪する有様だった。この時代において彼ら夫婦の仲睦まじい漂浪の旅のある日、夫は山野を巡る際誤って柔らかい粘土の水たまりの中に足を踏み込んだ。彼はそれを拭いもせずそのまま家路に帰り粘土が付着するまま家に入ったために、柔らかい粘土は草むしろに固着し、このために夫婦喧嘩にまで発展した。その粘土は自然に乾燥し固着した。この時彼の妻はなんとか草むしろに固着する粘土をはがそうと試みたが、その取れた粘土は固まって草むしろの網目そのままの模様となって写されていることを発見した。同時に彼ら平和な夫婦の単純な頭にも、この自然に任せた結果が合理的な事に気付いた。この問題を目撃した夫婦の頭には一種の創案が雷の如く閃いて来た。この時粘土を用いて器物を造る業が創めて案出されたのである。続いて彼の原始的な萱目の付いた粘土製の篭を組み立てることが出来た。この篭は彼らが食物を蓄える慣しとなり、適当な物質をで固くした時は水をも貯蔵出来る事を知った。
このように粘土で篭を造って見ると、その篭は暫時にして乾き、幾日かして乾固する。乾いた粘土の篭は収縮して遂に型に使用する萱目より放たれた。
かくして出来るものは一種の鉢となり、鉢の底目には面白い模様が自然に押されていたのである。
彼らは又人生生活上ある方法により火を起こすことを創案し、火熱利用を発見したのである。この熱の利用により粘土製の鉢を永久的に強固なものとし、水をも浸透しない力のある事を知った。かくて陶器を造る方法が世に考案される事になった」
これはアメリカのある陶磁学者がこの挿話に託して、粘土の性状と土器陶器の発生を述べたものであるが、なかなか面白い話だと思う。
地球の地殻を構成する主なものは岩石とその分解により生成した粘土である。
陶磁器素地の原土もしくは原料はこの地球上で無返に存在する粘土と岩石であって、人類生活には最も親しく手近にあるものである。
粘土は礬土を含有する岩石類が自然に気候、風雨、日光等の為、物理的、化学的両作用、すなわち風化作用により生成したもので、この作用は常に地球上の至る所において間断なく行われている現象である。
陶磁器素地の原料として適しているものは主として粘土物質、長石物質、珪石物質であって、その純粋なもの、又はこれらが互いに混じ合ったものである。
陶磁器の素地土、すなわち胎質は殆どすべて粘土を主成分としたものである。その他まれに岩石の粉末が加えられることもあるが、その組成はすべて珪酸塩である。
陶磁器の素地土の必要条件としては
1.成形に必要な可塑性、すなわち「粘り気」を持たなければならない。
2.成形されたものが乾いた時に乾燥強度すなわち「締り」「硬化」の作用がなければならない。
3.焼かれたものが「締り」「硬化」「熔化」する性質のものでなければならない。
4.焼上り後に「色」「締り」「重さ」「触り」「光沢」「透亮」などのいわゆる「素地の味」「素地の美」を表現しなければならない。
5.焼きあげる温度はなるべく低い温度で所要の性質を得る組成でなければならない。
6.「釉薬との関系」すなわち熱に対する膨張率の差及び熔着、呈色等が適応していなければならない。
普通、可塑性すなわち「粘り気」を得るために最も一般的で便利なものは粘土であって、粘土は単に粘り気が出るばかりでなく、乾燥後及び焼成されたものは硬化性もあれば、焼き上がってからの諸種の「味」を表すものである。
粘土は通常は一定の成分で存在していない。種々不規則な割合で組成され、化学的にも物理的にもその性状は千差万別である故その粘性も一々変わってて、「粘土の成分」によって又はその「分子の粗い、細かい」あるいは分子が偏平であるとか、丸いとかの「形状」によって粘性が変わってくる。その他粘土が腐敗しているか否か、その腐敗の程度、言い換えれば有機質の物質が多いか少ないか、腐敗して「バクテリア」が多いか、少ないか、ということによっても粘性の強弱がある。
粘性に伴って乾かしたり、焼いたりする際に粘土が焼き締る性状がある。普通「焼縮み」、あるいは「乾燥の縮み」は粘土の「粘り気」に正比例している。すなわち粘り気が多い程、縮みが多いのである。焼いた上での縮み、あるいは乾かした際の縮みというものは、製品もしくは半製品の堅牢性又は硬さを持たす関係上、製造の装作上又は使用上において非常に効果をもたらすものである。
なお素地土を焼いた後の呈色程度、これが粘土に重要に関係しているので、粘土を選ぶ際においては焼上がりの呈色程度を考慮しなければいけない。通常は粘土が含む鉄の含有量によって色がつくものである。
陶磁器の「素地の色」は、特に食器において重視され、その素地色の有無によって陶磁器の優劣が定められるのであるから、製作者は常に素地の原料の選択、及び焼上がりに腐心するのである。
素地に色を付けるのは、その原料に鉄分が含まれていることに起因することが多いから、原料としての粘土、岩石はなるべく鉄分の少ないものを選ばなければならない。
素地の「焼き締り」「光沢(ツヤ)」「透亮(すきとおり)」は加熱により固化、熔化するものであって、焼き締るものには単に固化するだけのものがある。「光沢が出る」とか「透きとおる」などは素地が幾分熔化する、すなわちガラス化するものであって、専門語で「磁器化」という。これは素地の組成と焼成温度の高低に関係するものである。
素地の熱による膨張率の大小は、釉を使う際、特に陶器の様な素地が磁器化しないものは、釉との間に「剥裂」「罅裂」(貫入)などの欠点が生じ、時には素地を破壊する事があるから、釉との関系を大いに考慮する必要がある。
陶磁器素地の主要原料の粘土は前述のように千差万別であるが、原産状態、性状等により大別すると、岩石の風化作用により出来た粘土が、その風化した後の位置により、母岩の分解位置に留意したものと、水流、風力、氷河等で流動しその位置を移動したもの、すなわち残留粘土(一次粘土)と漂積(沖積)粘土(二次粘土)とニ大別される。
これが母岩の種類により、
1.長石又は長石質岩石の残留粘土
2.玄武岩質残留粘土
3.火山灰質一次粘土
4.長石質母岩の二次粘土にして、一次粘土が比較的短距離移動して沈積したもの
5.同上の如き二次粘土の有機質のものを多量に含有するもの
6.二次粘土にして、構成に際し圧迫を受け硬度が高いもの
7.不規則な漂積によって成層した粘土
8.平野地方における河川の氾濫によって沖積した成層粘土
9.風力により運ばれて乾燥地方に沈積した風成岩
10.氷河又は氷湖により、流動又は沖積した粘土
以上の他、色々な方面から粘土の種別を別ける事ができるが、広範囲になるので略す。
粘土の最も純なるものは、長石の分解により成生した残留粘土であって、磁土とも言われ、学名は「カオリン」と称するものであって、その成分は、含水ニ珪酸礬土(Al2O3・2SiO2 2H2O) ある。
その各成分の百分率を示すと
珪 酸(SiO2) 46.5%
礬 土(Al2O3) 39.5%
水 (H2O) 14.0%
この「カオリン」(Kaolin)という名前は磁器創製の地である中国江西省焼州府(景徳鎭)の東方で産出する高陵土より命名されたものであって、純粋粘土の世界的な学名にもなっている。
我が国では岐阜、滋賀県などで出る白絵土、朝鮮慶尚南道の白土、中国江西省の「高陵土」、ドイツ「チェット・リッツ」産の磁土、イギリス「コーンウオール」の「チャイナ・クレー」等はこの種の「カオリン」の類である。これに近いものには二次粘土だが一次粘土が比較的短距離で沈積したものに瀬戸の「蛙目」粘土がある。これは普通の「カオリン」に比べて、粘土質物は少ないが粘性が強いので、陶磁器生産の上においては純粋「カオリン」より便利な点もある。
「カオリン」は白色陶磁器には常にその素地の主原料として用い、陶磁器製作の上に最も重要視されるものである。
次に、世界に産する代表的な「カオリン」の分析及び本邦産代表的陶磁器原料分析表を挙げれば
| 無 水 珪 酸 |
アルミナ | 酸化鉄 | 石 灰 | マグネシア | カ リ | ソーダ | 燐 酸 | 灼 熱 減 量 | |
| フランス産 | 58.39 | 27.52 | 0.36 | 1.52 | 0.41 | 1.71 | 2.58 | 7.19 | |
| フランスアイチス産 | 46.98 | 39.26 | 0.48 | 痕 跡 | 13.82 | ||||
| アルベルグドイツ オーベルファルツ産 |
47.22 |
38.18 |
0.82 |
||||||
| ドイツケルン産 | 51.39 | 35.44 | 0.72 | 0.75 | 0.80 | 11.23 | |||
| ドイツザイリッツ産 | 56.30 | 31.25 | 0.49 | 0.42 | 痕跡 | 1.17 | 10.61 | ||
| ドイツツェットリッツ産 | 45.68 | 38.54 | 0.90 | 0.08 | 0.38 | 0.66 | 13.00 | ||
| ナイムモラヴィア産 | 56.38 | 36.68 | 0.64 | 0.44 | 0.05 | 0.98 | 11.12 | ||
| スイス産 | 44.31 | 35.87 | 0.46 | 0.71 | 1.27 | 16.30 | |||
| デンマーク産 | 45.57 | 39.17 | 0.58 | 0.07 | 0.02 | 0.86 | 13.86 | ||
| スペイン産 | 43.25 | 37.38 | 0.88 | 18.47 | |||||
| ロシア産 | 44.48 | 38.24 | 痕跡 | 0.15 | 13.14 | ||||
| イタリア産 | 44.50 | 39.30 | 2.10 | 痕 跡 | 13.80 | ||||
| 中国産 | 49.00 | 33.71 | 2.72 | 0.10 | 0.45 | 2.53 | 0.63 | 11.33 | |
| 同 | 55.30 | 30.30 | 2.00 | 0.40 | 1.10 | 2.70 | 8.20 | ||
| 日本産蛙目 | 47.03 | 36.45 | 1.35 | 0.78 | 0.25 | 0.50 | 13.30 | ||
| 朝鮮産 | 46.30 | 39.39 | 0.50 | 0.29 | 0.09 | 0.19 | 0.58 | 13.02 | |
| インド産 | 55.00 | 40.38 | 痕跡 | 2.20 | 1.32 | 1.00 | 10.00 | ||
| オーストラリア産 | 45.10 | 39.13 | 0.77 | 0.14 | 0.46 | 0.70 | 15.49 | ||
| アメリカアラバマ産 | 47.00 | 38.75 | 0.95 | 0.70 | 痕跡 | 痕跡 | 痕跡 | 12.94 | |
| 同ジョージア産 | 46.03 | 38.59 | 2.11 | 痕跡 | 0.05 | 0.11 | 0.24 | 12.42 | |
| 同北カロリナ産 | 45.70 | 40.61 | 1.39 | 0.45 | 0.09 | 2.82 | 8.98 | ||
| 同ヴァージニア産 | 45.98 | 39.18 | 0.78 | 0.44 | 0.05 | 1.78 | 0.20 | 12.09 | |
日本の陶磁器原料分析表
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「カオリン」を純粋粘土とすれば、不純粘土は多種多様で、その性質も千差万別であるため、これらを用いて適当な温度に焼いたり、又焼成方法すなわち焼成焔あるいは焼成の上昇、冷却等の差異により多種多様の陶磁器素地を得るから、これらを一々説明することは非常にわずらわしいことであり、又多種多様の粘土をその成因なり、成分なりにより、分類して説明することもあまりに複雑で学術的になる。
我が国では白色陶磁器原料として、中国安徹省の祁門石に類似し、欧州では余り使用していない、「リバライト」(石英粗面岩)系の陶石が広く使用されている。この陶石は自然に粘土、珪石、長石が混合し、可塑性もあり、焼成後白色を呈する非常に便利な白色陶磁器素地の原料であって、佐賀県産泉山陶石、熊本県天草陶石、北海道松前陶石、兵庫県出石陶石、山形県大峠陶石等がある。又粘土質物を多量に含有し、珪石分を含む、岡山県、山口県、朝鮮全羅南道産蝋石類がある。何れも白色素地に適したものである。
普通、粘土のみで品物を造れば形を造る事は便利であるが、「粘り気」が多い物程焼き縮みも多く「ひずみ」とか「きず」が出やすい。故にその焼縮みを少なくする必要がある。
また一般に粘土はある耐火性を保有しているから、焼いてから形を保つ性質はあるが、吸水性があったり、あるいは硬さの上においていろいろな欠点がある為に、それを硬化又は磁化するためには何らかの材料を入れなければならない。普通その種の粘土を主原料とする粘土製品に対しては、粘土の色々の欠点を補うべき補助原料として、珪石類とか、長石類とか、他のアルカリ、又はアルカリ土類塩等を加える。
珪石は粘土と同じように耐火性はあるが、熱を加えても粘土の様に膨張変化が極めて過少である為に、粘土の焼縮みのための種々の欠点を珪石の付加によって補正することが出来る。
長石を粘土、珪石に加える事で、通常1200℃以上の温度で焼成する陶磁器は長石をもって固まらせ、あるいは磁化させる。普通長石は摂氏116、70℃から熔解し始め、1250℃で完全に熔ける。そこで粘土と珪石を混えて一つの素地を作る際に媒熔剤となって素地を磁化させ、あるいは硬さを強める効果がある。しかし長石が余り多すぎると熔化して形が崩れたり、あるいは歪んだりする欠点がある。
また珪石も余り多く入れると、膨張率が過少になるため、釉との膨張率が合わなくなり焼けてから割れたり、釉が剥がれたりする。
なお長石の様に素地の原料として熔剤の作用をするものに石灰石、苦土石、菱苦土鉱、滑石などの「アルカリ土類」を含む岩石類またはこれらを含む粘土が用いられる。

