化粧土とは

 陶磁器の化粧とは、素地表面に特殊の原料を薄く施し、素地を隠ぺいすることであり、隠ぺいする特殊原料のことを化粧土という。
 化粧土には、白色のものと有色のものとの2種類があり、多くは白色である。化粧土の主な原料は、白色の磁土性粘土を主体としたものが多く用いられているが、長石、蝋石等の岩石原料を用いる場合もある。

 化粧掛けは、低火度の土器、陶器類から高火度の磁器に至るまできわめて広い範囲に応用されていて、その目的も様々である。主な目的は、
 (1)白色の器物を作りたい場合に、有色素地に白化粧を用いる場合。
 (2)特殊な色あいを出したいために、有色の化粧土を用いる場合。
 (3)釉薬の着彩を鮮明にするまたは複雑にしたいために有色化粧土を用いる場合。
 (4)素地土の表面が粗雑な時に、表面を滑らかにしたい場合。
 (5)有色または白色化粧土を使い、模様にしたい場合。
 (6)化粧土を描画あるいは象篏用に用いる場合。
 (7)化粧土と素地土との窯変(緋色または御本手)を出す場合。 等がある。

 化粧掛けの手法は、古来より存在し、その最も簡単な手法は博多人形、伏見人形等の塗漆土器類であり、有色の素焼き素地土上に胡粉類を有機塗料と混ぜ合わせて塗布したものである。この手法はきわめて古来より世界各地に発達し、中国の彩陶、兵馬俑は有名である。次に有釉の低火度釉陶器に化粧掛けを施したものが出てくる。唐三彩のものには、しばしば化粧を行っているものが発見されている。ペルシャ陶器も一種のガラス質化粧土を行い釉薬の光沢を増進し、着色を鮮明にしているし、その後発達した珪酸質陶器においては、化粧土は釉薬を密着させるために欠かせない技法となっている。

 高火度釉陶器への応用は、中国明代に磁州窯系統の窯において発達した。これは、白化粧掛けと色化粧掛けの2重化粧掛けを使い、更に掻き落としの手法で絵付を鮮明に行ったものである。この手法は、その後朝鮮に渡り、三島手、御本手等に発達していく。日本にも、この系統が伝わって発達している。

 磁器の化粧掛けは、磁器自体が白色のために白色化粧土は必要ないが、染付を行う際に素地の表面が粗雑な場合は運筆が不便になるため、粘性の化粧土を施し、表面を平滑にしてから描画する場合がある。

 有色化粧土も古来より、模様として応用されてきており、信楽の海鼠釉の場合は素地上に先に黄土類を主とした化粧土を掛けその上に釉薬を施して、釉薬の呈色、斑点等を安定にする方法をとっている。楽焼の赤楽の場合は、黄土を化粧掛けし、その色により赤色を作っている。最近では、酸化物を白化粧土に混ぜて色化粧土を作っている。

化粧掛けの方法について

通常の化粧掛けには、次の方法がある。
 (1)浸漬法(化粧土泥漿の中に作品を漬ける方法)
 (2)注掛法(作品の上から柄杓等で化粧土を掛ける方法)
 (3)吹掛法(霧吹き等で化粧土を掛ける方法)
 (4)塗描法(筆で化粧土を塗る方法)
 (5)乾式化粧法(着色素地で作品の表面を薄く覆う方法)

化粧掛けを施す素地土については、次の種類がある。
(1)ほとんど湿っている状態の素地に化粧する方法
 作品の生成直後に化粧掛けする方法である。琺瑯煉瓦を化粧する場合、煉瓦押出機より押出された煉瓦が型より放出すると同時にその上の装置により直ちに化粧される。このように単純な形状のものに有利である。

(2)半湿状態の素地に化粧する方法
 取り扱いのために器物が変形しなくなる程度に乾燥した状態の素地に化粧する方法。この方法が最も広く用いられる方法である。この方法は、作品の乾燥のタイミングが重要で、間違うと割れ、剥離等の失敗につながる。

(3)完全に乾燥した状態の素地に化粧する方法
 作品が完全に乾燥してから化粧掛けする方法で、薄い素地の場合には水が回って割れてしまう場合もある。また、化粧土が厚い場合には剥離することもある。比較的厚めの素地の場合に行う方法である。

(4)素焼きをした後の素地に化粧する方法
 この方法も、化粧掛けのタイミングが何時でもいいために広く用いられている。この方法には、化粧掛けした後で、再度素焼きをする場合と再素焼きをしないでそのまま釉掛けして本焼する場合とがある。安全に化粧掛けするためには、600度~700度程度の比較的低い素焼温度にした方が、素地との密着がよくなる。

化粧掛けの失敗

 化粧掛けを行う場合、化粧掛け後、化粧土中の水分は素地に吸収または蒸発により乾燥していく。この時に種々の欠点を生じる場合がある。この主なものはピンホール、亀裂、剥離の3現象であり、この原因あるいは簡単な防止法は次のとおりである。

(1)ピンホール
 化粧掛けした場合、化粧土中に泡立ちを起し、泡の部分のみ化粧土が排除されて小穴の状態で残ってしまう。更には小穴を中心に亀裂を起す場合もある。原因及び対策は次の通りである。

a)素地にピンホールがある場合
 化粧掛け時のピンホールは、多くの場合素地の表面のピンホールが原因である。素地の表面をならすことによってこの欠点は解決される。また、削り後に化粧掛けする場合もピンポールになったりする。ピンホールが連続してかいらぎ状になる場合もある。この場合も表面を一度水を付けてならすか、薄い化粧土を擦り込んでならすかすれば解決される。しかし、技法としてかいらぎ状にする場合もある。表面を一度削るとかいらぎ状にすることが出来る。

b)塵埃、油脂等が素地表面に付着している場合。
塵埃、油脂等が素地表面に付着しているときは、化粧土の密着が悪くなり、ピンホールが出来る場合がある。この場合は、表面をスポンジ等で水拭きした後化粧掛けするか、表面をならしてから化粧掛けする。

c)素地中のシャモットの粒子が大きいまたは量が多い場合。
これも前述と同じように、表面をならして、化粧掛けする。

d)素地が乾燥し過ぎた場合。

e)新しい化粧土を用いる場合。
化粧土が新しい場合には、素地土へのなじみが悪いために、どうしても剥離、ピンホールが出来やすくなる。古い化粧土を使い切らずに、新しい化粧土を追加していく方法をとるか、または後術する化粧土を腐られてから使用する。

f)化粧掛けの方法が悪い場合。
たとえば、化粧土に泡のある状態でそのまま使用すると、ピンホールが出来る。

g)素地土があまりにも粘性を持っているとき。
乾燥される素地に化粧掛けする時、素地中の泡が水と同時に素地を崩壊し、表面に放出し、ピンホールになる場合がある。

(2)亀裂
化粧掛け後、素地土または化粧土に亀裂が生じる場合で、化粧土が乾燥している間に起こる。焼成後に釉が「ちぢれ」となって残る場合もある。亀裂が酷い時には、乾燥と同時に化粧土が素地より剥離したり、作品が割れてしまったりする。

a)化粧土の収縮率が素地土よりも大きいとき(化粧土の可塑性原料が多すぎる場合)。
化粧土の収縮率と素地の収縮率の差は、素地の乾燥具合によって異なるために、相対的な問題である。対策としては、化粧土中のカオリンを増加させる、素地中に助粘剤を入れる、化粧土中に助粘剤を入れる、化粧土を素焼きして用いる等の処置をとる。

b)化粧土を厚く掛けすぎた場合。
この場合は水が多くなり、乾燥中に収縮が起きる。化粧土を厚掛けした場合には、化粧土に水ガラス等を入れて流動化しやすい状態にするか、化粧掛けを2回か3回に分けて行う。

c)化粧土に微粉砕にしすぎた原料を用いた場合。
過度に微粉砕すると、多量の水を必要とするために収縮が大きくなる。また、粉砕を長く行うと可溶性物質特にアルカリ分が増加し、これが収縮を大きくする。したがって化粧土は粉砕するよりも撹拌で混合した方がよい。化粧土は200メッシュ以上に細かくしてはいけない。

d)素地土が乾燥し過ぎた場合。
素地土と化粧土に収縮の差が出来て、割れてしまう。素地土が薄い場合には、化粧土の水分が素地土を崩壊してしまう場合もある。また、大物に化粧掛けする場合には、重さで割れてしまう場合もある。これを防ぐには、素地土を乾燥させ過ぎないことである。また、大物を化粧掛けする場合には、最初に内側を化粧掛けし、内側が有る程度乾燥したら外側を化粧掛けすると良い。

e)可塑性剤が多すぎる時。
カオリンが多すぎると化粧土の収縮によって発生する応力に耐えられなくなる。この場合は、カオリンを減らして蛙目粘土等を入れる。

f)素地にあまり大きいシャモット粒を含んでいたり、シャモットの配合が悪い時。
シャモットが10メッシュよりも大きい場合には亀裂の原因になる。また、シャモットが多すぎると、シャモットは収縮しないので、シャモットに付着した化粧土が亀裂の原因になる。

g)化粧土を施した作品を急激に乾燥した場合。 品物の内部に亀裂が発生し、化粧土に表われる。

h)乾燥素地に化粧掛けする場合。
素地土の粘性があまりにも強いか、あるいは素地土が微細な場合。素地土の粘性が高い場合は、化粧土中の水分の収縮が遅れ、従って化粧土の収縮率が増加して亀裂を起す。

i)化粧土の耐伸性が弱い場合。
化粧土中の蛙目粘土の割合が多い場合には、耐伸性がないために亀裂を起す。この場合は、化粧土中の可塑性原料として蛙目粘土を木節粘土に置き換える。

このように、亀裂の原因は化粧土中の水分の吸収如何に原因する場合が多いので、化粧土の水分はなるべく除去した場合が良い。
亀裂が入る場合には、化粧土を作る際に、炭酸ソーダ、水ガラス(珪酸ソーダ)、重曹等をごく微量(0.3%以下)加えて、泥漿の流動性を増加させて余分な水分を除去するのが望ましい。
 また、素地土と化粧土との伸縮率の差が亀裂をまねく場合もあるので、化粧掛けするタイミングが重要である。

(3)剥落
 化粧掛け後、化粧土と素地土との間に剥落が生じる現象で、乾燥時点で起きる場合、素焼き後に起きる場合、本焼後に起きる場合がある。

a)化粧土と素地土とのとの収縮率の差によって起こる場合。
剥落のほとんどの原因がこれである。化粧土の収縮率が収縮率が少ない場合、また大きすぎる場合にも起こる。最初に亀裂を生じ、その後亀裂部分より剥離していく。化粧土と素地土との収縮率を近づけるには、化粧土に素地土を粉末にしたものを1割程度入れると良い。また、蛙目粘土、木節粘土を増やしていくか、なるべく湿った状態で化粧掛けする方法もある。ただし、湿った素地土は水がまわって亀裂を生じることがあるので、注意が必要である。

b)塵埃、油脂等が素地に付着している場合。
指跡、手跡等の油分により、化粧土の水分が弾かれて素地土と密着していない場合に起きる。化粧掛けする前に、スポンジ等で水拭きを行うと良い。

c)化粧土を厚く掛けすぎた場合。
化粧土が厚いと、素地土との収縮に差が生じて化粧土が剥がれてしまう。これを防ぐには、化粧土を厚掛けする場合には一度で掛けないで、2回に分けて掛けると良い。

d)焼成のあぶりの段階で窯内で作品が水蒸気の作用を受けた場合。
これを防ぐには、素焼きの時点で水蒸気をゆっくりと出してやる。水蒸気の出る間は、なるべく窯の蓋を開けておくと良い。

e)素地土が乾燥しすぎている場合。
素地土が乾燥している場合には、化粧土が乾燥しようとする時点で、素地土の方は乾燥が終っている。そうなると、化粧土が素地土の表面で動いてしまって剥離する。
化粧土の配合について

 化粧土は素地土や焼成温度などによって選定するが、化粧土がいくぶん焼き締る程度でよいか、または軟化近くまで焼かれた方がよいかによって変わってくる。前者のいくぶん焼き締る程度でいい場合、カオリン単味で使う事もあり、カオリンに長石10~20%加えるか、長石を主体とし、これにワラ灰を20%前後加えるとか、蝋石を主体とし、蛙目粘土20~30%加えるなどがある。

 後者の、軟化近くの状態にしたい時は、陶石を多めにする。または、石灰石、亜鉛華、炭酸バリウム、骨灰などの媒熔剤を適量加えて作る。もし粘土分が40%以上ある場合で熔化させるには、長石が15%以上必要であるが、石灰石を1%入れると低温で熔化するようになる。粘土分を少なくして、陶石、長石を多くしていくと、熔化は一層完全になる。ただし、長石分が40%を越えると、貫入が発生する。また、石灰石は完全に微粉砕しておかなければいけない。最近では、石灰石の替わりに合成土灰を用いる場合が多い。石灰石よりも簡単に熔化するためである。ただし合成土灰には、着色剤が含まれている場合もあるので、注意が必要である。

 化粧土はある程度粒子の細かな均質なスリップにしなければならないが、微粒子のみを使うと乾燥や焼成中の収縮が大きくなるので、素地の収縮とほぼ一致するように選ばなければならない。素焼の素地にかける化粧土は素地の乾燥収縮がないのでよいが、半乾燥の生素地にかけるときの化粧土は素地の収縮にあわせなければならない。
 一般に乾燥がすくない素地ほど、カオリンの量を多くする。カオリンを多くするとアイボリー系統の柔らかい風合いの白化粧となる。陶石を多くすると、乾燥が進んだ素地に対してもめくれが少ない化粧土になるが、柔らかさに欠ける白さになる。生化粧の場合、素地土中のシャモット分が多くなるほど長石または陶石の量を多くしていく。

 素焼き後の素地に掛ける化粧土は、陶石または長石を主成分にする。カオリンを使う場合には、一度カオリンを素焼きしてから用いると収縮の差が少なくなる。
 化粧土の粒子の目安は、生がけで滑らかな肌にしたい時は120メッシュくらいまで細かくする。通常は100メッシュ程度である。素焼きの場合は70メッシュ程度でよい。

 刷毛めだけに使用したい場合は、カオリン単味で使う。また、三島手も同じ。

 化粧土を流動しやすくするには、水ガラス(珪酸ソーダ)、重曹を少量(0.3%以下、濃くしたい場合は硼砂、塩化カルシウムを少量加える。また、素地への付着をよくしたい場合、解膠剤として、化学糊(CMC:カルボオキシ メチル セルローズ)を加えて白化粧土がよくのびるようにする。CMCは水に約2%加えて作成する。その他の解膠剤として、炭酸ソーダ、炭酸カリ、炭酸マグネシウム、流化ナトリウム等がある。逆に、凝膠剤として、塩、腐蝕酸、硼砂等がある。

 以下に白化粧土の調合例を記す。


カオリン
蛙目粘土
長  石
半乾燥素地
25~65
10~35
 0~15
乾燥素地
15~25
10~15
 5~25
素焼き後
15~25
 5~ 7
20~40

具体的な割合は次の通り。

 

 1

 2

 3

 4

 5

 6

 7

 8

 9

 10

長石

 

 

 10

 20

 20

 

 15

 40

 20

 10

カオリン

 70

 60

 70

 60

 40

 40

 10

 

 20

 10

蝋石

 

 10

 

 

 10

 

 50

 

 

 40

陶石

 

 

 

 20

 

 60

 35

 60

 60

 50

蛙目粘土

 30

 30

 20

 

 30

 

 

 

 

 

※1~4 半乾燥素地  5~7乾燥素地 8~10 素焼き後
※蛙目粘土は貫入土でもよい。剥落する場合には、木節粘土を用いる。
※長石は陶石と置き換えられる。カオリンを素焼きしたものでも可能。ただし、熔化させたい場合には陶石がよい。
※蝋石を入れると、蝋石が膨張するために化粧土の収縮がすくなくなる。白さも増す。乾燥後の素地や素焼き後の素地には有効である。
※とも土(作品を作った粘土)を化粧土に1割程度加えると、剥落しにくくなる。

色化粧土の作り方について

 色化粧土を作る場合は、基本的には酸化金属を混ぜて作る。最近では練込用顔料、下絵の具が市販されているので、これを使っても良い。ただし、練込用顔料を使用する時は、10%以上入れても効果はほとんど無いので、それ以下にすること。また、顔料の種類によって、効果の大きいものとそうでないものがあるので、有る程度の実験が必要である。
 その他、含鉄土類を使用する場合もある。例えば、黄土、鬼板を使用する場合がある。紅志野、鼠志野の場合には、鬼板を化粧掛けした後志野釉をかける。また、赤楽の場合には、黄土を化粧掛けして作成する。
 化粧土に混ぜる基本的な顔料は次のとおりである。
  青色-酸化コバルト:明るい色には2%、暗色には8%
  緑色-酸化クロム:明るい色には5%、暗色には20%
  灰色-灰色を帯びた緑、土色-酸化ニッケル:明るい色には2%、暗色には10%
  褐色-酸化マンガン:明るい色には5%、暗色には20%
  桃色-陶試紅:明るい色には5%、暗色にはならない
  肌色-ルチール:明るい色には3%
  黒色-酸化鉄10%を加え、強還元焼成
  黒色-コバルト20%、マンガン20%、クロム10%の混合物をか焼物を加える
化粧土の作り方について

 化粧土を作るには、ボールミルを使って作るのが楽である。しかし、必ずしもボールミルは必要ではない。

 ボールミルを使って作る場合は、まず可塑性粘土を薄い泥漿にして撹拌し、100メッシュ篩いを通し、残りの成分を入れて、これをボールミルで混合する。あまり混合しすぎると化粧土が微細化されて剥がれの原因になるので、注意すること。また、石灰石の粗粒が残っていると被覆膜にピンホールやブクができやすいので、注意する。

 ボールミルが無い場合には、バケツ等に水を入れ、上から静かに化粧土を入れていく。この時に撹拌してはいけない。撹拌すれば、化粧土が水と混ざり合って後から入れる化粧土が溶けなくなったり、ダマになったりする。
 化粧土がほぼ一杯になったら、今度は撹拌して化粧土を完全に水に溶かす。最後に100メッシュ程度の篩を通せば完成である。通らなかった化粧土や、ダマになった化粧土は、乳鉢等で摺って、再度篩に通す。

 化粧土に熔け込んだり封入された空気は、ピンホールやブクの原因になるので、できれば脱気した方がよい。
 脱気させるには、泥漿を煮沸し、粘土をよく分散させる方法もあるが、炭酸ソーダの入った化粧土の場合は、これが分散してガスを出すので悪い。

 ねかしは、脱気の最も一般的な方法である。ねかしは、温度27℃~32℃の一定温度で7日以上ねかす。この状態でバクテリアが繁殖し、物理的、化学的変化を生じる。
 ねかしの簡単な方法として、化粧土に牛乳を微量入れて、一ヶ月くらい暗所で放置する。
 ねかしが進むと、泥漿は発酵し、色が黒くなるので分かる。また、腐敗臭やかび臭くなるので分かる。泥漿は滑らかになり、付着性も強くなる。しかし、牛乳等を入れた場合には、発酵がどんどんと進み、腐敗臭が強烈になって、使用不能の状態になる場合もあるので、発酵を止めなければいけない。
 発酵を止めるには、石灰酸や可溶性フェノール酸塩、たとえばフェノール酸ソーダ、サルチル酸メチル、その他の防腐剤を入れる。薬品を入れたくない場合は、一度発酵した化粧土を日光で乾燥させてしまい、再度水に入れて化粧土にしなおす。

 化粧土の泥漿は木の樽やタンクに入れてはいけない。容器自体が同じような変化を起すからである。コンクリート槽も同様である。最近は、プラスチック製の容器が簡単に手に入るので、問題ないはずである。出来れば、呼吸が可能の陶器製の容器を使用するのが良い。
生掛けの場合についての注意事項

 化粧土を生の素地土に使用する場合には、化粧土の濃さと素地土の乾燥具合が最も大切である。次に、失敗しない具体例をあげる。
1. 化粧土の濃さは、ボーメ比重計で1.3から1.5の間がよい。CMC等の解膠剤を入れた場合は比重は大きくなるで注意が必要である。。
 比重計が無い場合で大まかな濃さにするには、一度撹袢して4~5時間置いて、上澄みの水を捨てる。これを2回ほどすれば、大まかな濃さになる。柄杓で落としてみて糸を引く感じで、ポタージュスープの濃さである。薄いようであれば、もう一度繰り替えす。

2.化粧土をかける素地は、あまり乾いていない方が良い。半乾燥よりもほとんど湿っている状態に掛けた方が確実である。ただし、湿っている状態だと、薄い肉厚のもの、複雑な形状のものは水が回って変形する場合があるので、簡単な形にすることである。
 もし複雑なものの場合には、乾燥を均一にしておく必要がある。特に、口周りは乾きやすくて亀裂が入り易いので、注意が必要である。できれば、口周りだけスポンジで水を含ませると良い。手で持って変形しなくなった時がかけるタイミングである。
 乾燥している素地が割れやすいのは、素地の隙間に水が入って、素地が分離してしまうためである。削りかすを元の粘土に戻す場合、乾燥した削りかすを水に溶かすと、あっという間に分解するのと同じ原理である。

3.大物には、一度に化粧土をかけないこと。重みで割れてしまう。かける時は、最初に内側をかける。ある程度乾いたら外側をかける。内側からかけるのは、外側は乾いているので、重力に耐えられるためである。外側からかけて、外側を柔らかくすると、重さに耐えられない場合がある。

4.素地をあまり薄く作ると、内側に掛けた化粧土の水分が外側にまで染み出して、割れる場合があるので、あまり薄く作った作品に化粧土をかけるのは、不向きである。また、砂分の多い素地土は、浸透性が良いので生掛けには不向きである。

参考資料
  化粧土の研究(上田滋穂)
  陶磁器釉薬(宮川愛太郎)
  陶芸のための科学(素木洋一)
  釉とその顔料(素木洋一)
  やさしい欧風陶芸(ジェラルディン・クリスティー/サラ・パーチ)
  もようで楽しい陶芸(視覚デザイン研究所偏)