ガス(プロパン)窯のつくり方

 初心者が一番考慮するのが、窯をどうするかです。窯には、電気窯、ガス窯、灯油窯等の種類があって、それぞれ一長一短があります。また、置き場所に結構場所をとるものもあります。
 灯油窯の場合はかなり煤煙と騒音が出ますので、たて込んだ家の場合には不向きです。また、電気窯の場合は配線工事を要しますし、焼成費が高くなるという問題もあります。
 ガス窯の場合も、バーナーが複数個あるような大窯はガス配管工事が必要です。そこで、ここでは試験用の小さい直炎式(炎が下から上にそのまま抜けていく構造の窯)のガス窯を自作する方法を紹介します。この窯は、コンパクトになっているためにベランダ等にも置くことが出来る(ただし、窯の蓋穴の上部はかなりの熱が発生しますので、それなりの注意が必要です)ので、場所が無い人には有効な窯です。また、バーナーが1本しかないので、配管工事の必要もありませんから手軽に持ち運びが出来て、場所を選びません。
 この窯は、直炎式なので、酸化と還元の調整が難しく、部分的に酸化になったり還元になったりする欠点がありますが、アマチュアが使用する分には、この欠点が逆に非常に面白い効果をもたらす場合もあるので、むしろ面白い窯といえるかもしれません。世界でたった1個しかない作品も焼けるかもしれません。
 また、この窯で1回に茶碗ならば3個焼けるだけの大きさがあり、焼成時間も最短の場合は3時間程度で本焼が出来るという利点がります。それから、元々が試験用の窯なので、本焼用の窯を持っている人も試験焼き用の窯として利用出来ます。試験焼きをするには丁度良い大きさになっています。
 今回は、バーナーの大きさ等が省略していますので、実際に窯を製造しているメーカーに聞いて、窯の容量から検討してもらえば良いと思います。
 ちなみに、この窯を改良してセラミックウールで固めたものがドリームキルン、スーパーキルン等の名称で市販されています。他にも似たような窯を製造販売しているので、面倒な人はそれを買ってもいいでしょう。ただし、自分で製作するとメーカーから購入する1/3から1/2程度の金額で出来ますし、窯の構造、焼成の方法等がよく分かります。また、温度上昇が悪かったり、均等に焼けなかったりと、苦労も多いですが、その分愛着がわきますし、効率の悪い窯ほど何故か作品の出来は良いようです。
 中に入れる棚板等は、市販されている小型窯のものを使用することも可能です。

  1.準備するもの


〔本体〕
 a)耐火煉瓦   53丁(LBK-30またはB-5)(注1)
 b)L字アングル 4本(40×40×450)
 c)吊りボルト  16本(6φ×400mm)
 d)L字留金具  16個(90mm)
 e)コーナーアングル 4個(40mm×40mm×40mm)
 f)ナット、ワッシャ 32組(6φ用)
 g)カオウール(12.5mm) 1式(58cm×132cm)

〔燃料系〕
 h)ガスバーナー    1本
 i)整流器、圧力計   1組
 j)1/4たけのこ金具   1個
 k)ブッシング 1個
 l)ゴムホース 1本(注2)
 m)高圧ホース 1本

〔その他材料〕
 n)耐火モルタル
 o)耐火粘土
 p)シャモット
 q)アルミナ粉
 r)童仙傍
 s)スレート用金鋸
 t)セメント又はサイディング材、鉄板(注3)
 u)ブロック等の窯を据える台
 v)水ガラス(珪酸ソーダ)または洗濯糊。
2.本体組み立て
a)底部
 実線のように耐火煉瓦を仮組みし、点線部位置に印線を入れ、それに沿って切り取る。
 耐火煉瓦は、陶芸材料店に売っているので、これを購入すれば良い。耐火モルタル、カオウール等についても同様である。
 切り取るのは、スレート用の金鋸を使用すれば簡単に切ることが出来る。無い場合は、普通の金鋸を使用しても切れるが、すぐにちびるので、何本か用意すること。

 切り取ったら、再び組み合わせ、460mm角の底部にする。耐火モルタルでつなぎ合わせ、モルタルが固まったところで、中央部に直径7cm程度の穴を開ける(対角線を引いて交差点が中央部になるので、そこを中心とする)
 耐火モルタルは、ほんの少し水ガラス(珪酸ソーダ)を入れると、粘着性と強度が増す。なければ洗濯糊を入れて粘着力を出す。耐火モルタルだけでは、ぱさついて使いづらい。

b)胴部
 最下部を右上図のように組む。
 次の段はこれを裏返した状態(右図)に積み、さらにその次の段は、また最下部用にと、互い違いなるように、合計で5段積みとする。
 3段目まで組み上げたら4段目の任意の面に、色見穴と温度計挿入穴を上左図のように開ける。色味穴の位置と温度計挿入穴の位置は何処でも良いが、温度計挿入穴はなるべく平均温度の位置がよいので、中心付近が妥当である。色味穴と近いと強度的に弱くなる場合には、側面に取り付けてもよい。また、色味穴と温度計挿入穴は、棚板の位置も関係してくるので、注意が必要である。
 色見穴には、後で残った煉瓦を利用し、右図のような形の 蓋を作る(なるべくピタリとはまるように削ること。削るのは、煉瓦同士をこすり合わせると、簡単に削ることが出来る。)

c)蓋部
 蓋は、縮みによるズレがないよう、右図のように組む。こうすると、胴部の外周より多少小さくなるが 問題はない。
組み終わったところで、蓋の中央部に直径 5~6cmの穴を開ける。この穴が還元調整用の穴(ダンパー)になる。この穴を塞いでいくと還元焼成になり、解放すると酸化焼成になる。解放した状態でも還元焼成になる場合には、穴の径を大きくする。

  d)火取入口
 煉瓦2枚を合わせ、中央に直径7cmの穴を開け、煉瓦上部を円錐状に広げて窯の底部分に合体させる。穴の位置を合わせると右図のようになる。
 この穴は、炎の通り道となるので、窯の効率上重要な要素になる。円錐の形状は、60度から75度あたりを目標につけていく。最初は角度を狭くしておいて、何度も試験焼きを行い、徐々に広げていくとよい。炎が窯の端まで行き渡らない場合は、角度が狭いということである。

3.カオウールを巻く
 胴部の内側にカオウール(断熱材)を張り付ける 。ようにピッタリと巻いていく。 煉瓦の表面が粗いので、カオウールを押さえつけるだけで十分に張り付く。
 次にカオウールを巻いた胴部を底部に乗せると図のように底部の隙間にカオウールが入り込むようになる。
 カオウールは陶芸材料店で取り扱っているので、そこで入手する。耐火温度が1300℃以上で厚みが12.5mmのものを入手する。カオウールが入手できない場合は、無理に張りつけなくても良いが、その分バーナーの大きさを大きくする必要がある。また、窯の効率も悪くなるし、場所によって温度にムラが出来る可能性もあるので、出来ればカオウールを張り付けた方が良い。

4.金具の取り付け
蓋部1カ所、胴部2カ所、底部1カ所を図のように金具を取り付ける。
 金具類は、ホームセンター、金物店等で売っている組立用キットを利用すれば良い。コーナーアングルはL字状に折れた棒状の金具で長穴が多数開いているものである。
 締め付けは、両側に穴の開いたL型金具(金物用品または自動車用品売場で売っている)を下図のように曲げて使用する。曲げるのは、万力で挟み込んでハンマーで叩けば簡単に曲げることが出来る。

 この加工したL字金物に6mmの吊り釣りボルトを通し、ナットで両側から締め付ける。蓋と底は一ヶ所づつ、本体は2ヶ所取り付ける。

5.バーナー
 窯を実際に使用する場合には図のようにすると良い。
 底部の煉瓦が抜け落ちないように、各煉瓦をしっかりと支えるように取り付けるか、セメント板(注3)あるいは鉄板または外壁用セメント板に穴を開けて支えるようにする。要は、強度を持たすために取り付けるので、強度があれば材質はなんでも良い。
 この際、火があまりあたらないように、鉄板またはセメント板に大きめの穴を開けるとよい。
 窯を支えるブロックは2段くらい積む。また、バーナーは底面より10cmくらい下に火口がくるように設置する。バーナーの固定方法は各自で工夫すること。

※注の説明
(注1)LBK30もB-5も保温力はかわらないが、耐熱性でB-5は弱く、使用中に収縮し隙間ができることがある。その際は、また金具を締め直し、耐火モルタルで隙間を埋めるようにするとよいが、修復不可能な状態になったり煉瓦が割れてしまったりするので、出来ればLBK30を使った方がよい。しかし、値段は倍くらいの差があるので、煉瓦全部だとかなりの金額になる。
(注2)すでに持っている者は必要ない。家庭用の丈夫なホースであればよい。
(注3)セメント板の作り方は、40cm角の板に2cm程度の高さの囲いを作り、中央に直径15~ 20cmの円筒を置き、そこへセメントを流し込む。



 できるだけ平らにならすこと。面倒な場合は、セメント製の外壁用サイディング板を加工して作れば良い。ホームセンター、建材店で購入できる。
 
6.上手に本焼きするために
 この窯は、極めて単純な昇炎構造のため、倒炎式の窯のように窯内の雰囲気を整えることは困難です。この窯を応用して、倒炎式の窯を作ることも出来ますが、天井部を丸く作らなくてはいけないので、かなり製作が難しくなります。
 そこで火のムラを極力少なくするために内部の棚板に工夫をします。つまり、下の方で火をできる限り分散させ、いじめることがポイントです。

 上記の図は一例ですので、他にもやり方はあると思われます。
 3脚の傘型分焔柱は、炎を分散する目的で作ります。これが無いと、炎が真っ直ぐに上に上がるだけになってしまい、端のものが焼けなくなります。

 分焔柱の作り方は、耐火粘土にシャモットとアルミナ粉、童仙傍等を混ぜ合わせ、耐火度の高い粘土にして手造りします。図を参考にして作って下さい。他の形でも可能だと思います。
 また、ロの字型の棚板、通常の棚板も同様の材料で作ります。ロの字型の棚板を置くと、作品を入れるスペースが限られてきますので、必ずしもに置く必要もありません。なるべく均一に焼きたい場合のみに使用して下さい。各自それぞれ、工夫次第で面白く焼くこともできます。
 普通の棚板は、小型窯用として市販されているものも利用出来ます。300cm角以下の大きさのものであれば使用可能です。
 還元焼成にする時は、蓋の穴の上に耐火煉瓦等を置き、空気の流通を悪くしてやります。一種のダンパーの替わりの役目をします。完全に穴を閉じてしまうと、火が消える恐れもあるので、最低限の空気の流通は確保してやらなければいけません。
 また温度の上げ方なども色々と工夫すると、窯についてのいい勉強になります。
 なお、この窯は直炎式の特性として、温度が下の方ほど高くなります。特に、酸化焼成の場合はかなりの差になると思います。